1279 ナオとの話
私は早速、ナオのいるカフェに移動した。
その途中でこっそり白仮面は外して、いつもの私服に着替えました。
気楽ないつものクウちゃんさん12歳です。
迷惑にならないように、空から天井をすり抜けてスルリとご訪問させていただきました。
「やっほー、ナオ」
「クウ」
「うん。クウだよー」
ナオは店内で、ゆったりとお茶を頼んでいた。
私が来た時、同じテーブルには白狼族のユキハさんがいたけど、気を利かせて席を譲ってくれた。ごめんね。ありがとう。
「ちなみにクウ」
「ん? どしたの?」
「このお店は今、コルレリースとエンナージスが完璧な警備体制を敷いて、アリの子一匹入ることはできない状態」
「へー。さすがだねー」
「私も安心している」
「だねー」
コルレリースさんとエンナージスさんは、どちらも竜の里の古代竜。
今はエリカに仕えて『ローズ・レイピア』の幹部をしているけど、それまではカメの子だったナオと一緒に暮らしていた。
お互いに信頼を寄せる、よく知った仲なのだ。
「クウはいきなり現れたけど」
「あはは」
空から天井をすり抜けて入っちゃったので。
「それで、式典はどうだった、ナオ」
「どうも何もなかった。事前に決まっていた通りにサインしておしまい。あとは、ユイのすき焼きに付き合って帰るだけ」
「道中とかでトラブルはなかった?」
「なかった。コルレリースが事前にすべて排除してくれていた」
「そかー」
さすが有能だ。
「それにしても、ナオは普段通りだねー。ついに戦争がおわったのに」
「事実上はとっくにおわっていた」
「それはそうか。お疲れ様」
「クウこそ普段と同じ」
「あはは。そかー」
言われてみれば、そうかも知れない。
戦争がおわったというのに、私こそ普段と変わらないね。
ふわふわしている。
「あーそれにしても、ソード様は疲れるよー。なんか私もナオと一緒で、貴族の人たちに怖れられているみたいでさー。仲良くなれそうになかった」
「仲良くなる必要があるの?」
ナオが赤い瞳でじっと見つめてくる。
「んー。どうだろうねー」
「クウ、彼らの本質は変わらない。油断すれば何をしてくるかわからない。クウも無防備にだけはならない方がいい」
「ありがと。心に留めておくね」
言いつつも私は、正直なところ、自分は大丈夫だと思っていた。
慢心ではなく実感として。
悪魔も落し子も一撃で倒してしまったし。
たとえ捕まっても、『透化』すれば即座に抜け出せるし。
「あと、クウ」
「ん? なぁに?」
「もう少しして落ち着いたら、前の約束をお願いしたい」
「えっと、何だっけ?」
「視察」
「あー。留学ね」
「いえす。私も一度くらい、まだ若い内に、普通の生活をしてみたい」
「うん。いいよー。4月の新年度からにする?」
「それくらいには落ち着くと思うから、できればお願いしたい。期間は、学院祭に参加するくらいまでがいい」
「3ヶ月くらいね。でも、そんなに仕事から離れちゃって大丈夫?」
「たぶん平気。夕方には帰れるし」
「あーそだねー」
ナオには転移魔法がある。
なので留学といっても自宅から通えるのだ。
「学院祭の武闘会では、クウと戦ってみたい」
「あはは。それはやめとこうよー」
「どうして?」
「目立ちすぎるからねー」
「ああ……。そかー……」
「私、学院では普通に過ごしたくて、力は見せないようにしているからさ。ナオも力は見せずに普通の子としてお願い」
「わかった。私も普通に過ごしたいのを忘れていた」
「戦ってくれるのなら、今度どこか、人目につかない場所でやろう」
「うん。わかった。それも近い内に」
「ナオと戦うのは、あの時以来だね」
あの時――。ナオがまだカメの子だった頃――。
私が無理やり攻めかかったんだよね。
あれからナオは、さらなる七難八苦を経て、本当に強くなった。
どれだけ強くなったのか、楽しみだ。
ナオとの短い会話をおえて、私は立食パーティーの広場に戻った。
今度はお兄さまを探す。
お兄さまは、ドラン氏と一緒にいた。
なにやら話し込んでいたけど、私が近づくと、ドラン氏との会話を切り上げて、私の方にスタスタと早足で来た。
「やっほー、お兄さまー」
私は気楽に手を振って出迎えた。
「なあ、クウ」
「ん? どうしたんですか、難しい顔のままで」
私とおしゃべりする時は、気楽にしてくれていいのにね。
「ひとつ、聞きたいのだがな」
「はい。いいですよー」
「今のおまえは、いったい、どこの誰だ?」
「と言いますと……」
どういうことだろか。
私は首をひねった。
「何故、クウに戻っているのかということだ」
「あー」
そういえばそうだった。
ソードに戻るのを忘れていた。
「ナオに会いに行っていたんですけど、戻るのを忘れていました」
てへ☆
せっかく可愛く笑ったのに、ため息をつかれた!
「まったく。おまえというヤツは」
「そうだ、お兄さま。そのナオのことなんですけれど……。ほら、前にちょっとだけお話したことがあるんですけど――」
新年度からの留学の件は、快く了承をいただけた。
「ありがとうございます」
よかった!
「新獣王国からの留学生として、クウの家に滞在するということでいいのか?」
「はい。そうですね。それでお願いします」
私の家でなら気兼ねなく転移もできるし。
「一般人としてか?」
「はい。そうですね。それでお願いします。目立ちたくないですし」
「ふむ。銀狼族という時点で人目は引くだろうが――」
「帝都中央学院でなら大きな問題にはならないと思うんですけど……。同じ獣王家の血筋ならすでにギザがいますし……」
そもそも王侯貴族の通う学校だし。
「確かに、それはそうか。――なあ、クウ」
「はい、なんですか?」
チョキチョキ。
v(・v・)v
私はカニのマネをしつつたずねた。
「……まったくおまえというヤツは。ソードでなくてよかったな」
「あははー。ですねー」
確かにソードでは、カニのマネは合わないですよね。




