1278 かしこい精霊さんのナイスなアイデアin式典
テントから外に出て、私は思った。
「あーそっかー。ソード様でうろつくのはちょっとマズイかなぁ」
そう、今の私は白仮面に神子姿のソード様。
聖女様の片腕。
幸いにもテントは広場の外れなので出たすぐに人はいないけど、ほんの少し先のパーティー現場にはたくさんの貴族がいる。
私は囲まれてチヤホヤされて、クウクウすることになるだろう。
まさに、クウちゃんだけにね。
今はソードさまだけど。
「うーん。どこかでクウに戻ろうかなぁ……」
と思ったのだけど、テントから出た私には早くもいくらかの視線が向いている。
注目されてしまった。
物陰で消えればいいだけの話ではあるけど……。
「まあ、いいか」
それも面倒だし、このまま行こう。
面倒だけど、チヤホヤされてそれを上手くあしらうのも、また勉強だよね。
私はそんなわけで、人気者になってしまうことを仕方なく覚悟しつつ、立食パーティーの現場まで歩いたのだけど……。
ふむ。
声をかけてくるものはいなかった。
それどころか、なんか、私が近づくと貴族たちの会話が止まる。
これはアレだ。
さすがの私もすぐに気がついた。
私はてっきり、ソード様って人気者だと思っていけだと……。
実際、町ではキャーキャー言われたけど……。
少なくとも貴族の中では、キャーキャー言われる存在ではなかったようだ……。
それどころか、真逆な気がする。
こんな囁きも聞こえた。
……アレがソードか。間近で見ると本当に小さいな。片手で潰せそうではないか。
……よせ。迂闊なことを言うと君も消されるぞ。
……わかっている。君にだけだ。それにただの感想で他意はない。私とて、ヨニ男爵とゲシタ子爵のようにはなりたくないからな。
……ならいいが。
……敵は即座に消し去る聖国の剣か。恐ろしいものだ。
いや、待って……。
その2人、名前すら聞いたことないんですけど……。
というか、どう考えても、夜逃げしたんだよねその2人は名前的に……。
ヨニとゲシタなんて……。
と私は思ったけど、反論はしなかった。
何故なら、ちらりとそちらに顔を向けただけで、そそくさと距離を取られたから。
追いかけても、ね……。
逆に、とんでもない噂として広まりそうだし……。
ただ、そのおかげで、楽にエリカのところに行くことはできた。
エリカは大いに囲まれて話も盛り上がっていたけど……。
私が近づくと、まさに海が割れるように囲んでいた人たちが距離を取って、あっさりと空間が出来上がりました。
「――これはソード様。ごきげんよう」
エリカが他人行儀に丁寧な挨拶をしてくる。
「歓談中に済まない。少し付き合ってほしいのだが?」
私もカッコつけて、真面目に答えた。
私はちゃんと空気の読める子なのだ。
「はい。喜んで」
というわけで、エリカを連れて会場の隅に移動した。
他の人たちから距離が離れると、エリカが耐えかねたようにプッと小さく笑った。
「どうしたの?」
「クウが、済まないとかほしいのだがとか、似合わなすぎて笑いを堪えるのが大変でしたわ」
「むー。そんな似合わなかった?」
私的には、けっこうちゃんとカッコつけたのに。
「いえ、ごめんなさい。ソード様としてはよかったと思いますの。ただわたくしは、どうしても普段のクウと重ねてしまって」
「ならいいけど」
「それで、わざわざ衆目の中で呼び出すとは、どんな用件なのかしら?」
「うん。実はね、ちょっと困ったことがあって」
私はオルデのことを相談した。
「それでね、エリカにオルデを連れ回してほしくて」
「ええ。構いませんの。わたくしも、オルデとナリユ卿の挨拶が一通り済んだら、オルデを連れ回すつもりでしたし」
「あ、そうなんだ」
「オルデが帝都の平民の出だと知られても、同時にわたくしの元からの友人となれば、皆、何が本当なのかわからなくなると思いますわ。オルデが自分で元平民だと言っても、事情があってそういうことにしているだけだと勘ぐられるくらいには」
「うん。それはいいねー」
さすがはエリカ。
私が気を回すまでもなかったか。
「オルデもお嬢様道を進む子です。わたくしの1000万お嬢様パワーには遠く及んでいないとしても上手く行くとは思いますの」
「1000万パワーねえ」
「おーほっほっほ。わたくしなら、それくらいはあるでしょう?」
「まあ、うん。否定はしないよ」
以前に帝都に遊びに来た時、エリカは頑張って平民のフリをしていたけど……。
どこからどう見てもお嬢様だったしね……。
平民ですと言い張っても、誰も信じなかったくらいには……。
「じゃあ、オルデのことはよろしくね。ユイのテントにいるから行ってあげて」
「ええ。それでクウはどうしますの?」
「そうだなぁ……。せっかくだしパーティーを楽しみたいけど……。ねえ、エリカ、ソードって嫌われているわけではないよね?」
「トリスティン貴族にとっては、ナオと並ぶ恐怖の象徴ですわね」
「えー。私、そこまで酷いの?」
「当たり前でしょう? 去年、トリスティン中を回って、悪魔という悪魔、悪魔とつるんでいた貴族を粛清して回ったのはどこの誰ですか」
「あー」
そういえば、そんなこともあったかぁ。
粛清はしていないけどね……。
反抗的な貴族は、ゼノにオネガイして無害な子になってもらっただけで……。
「ところでナオは?」
私はふと思ってたずねた。
会場にいないね。
「新獣王国の皆様は最寄りのカフェで休憩中ですの。さすがにこの会場にいても、お互いに険悪になるだけです。ユイのすき焼き会がなければ、普通はすぐに帰るところですの」
「それはそうか」
なにしろここは敵地同然の場所だし。
戦争をおえたからといって、一緒にパーティーする間柄ではないか。
「私、ナオにも顔を見せてくるよ」
「ええ。それがいいですわね」




