1275 祈り
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、ユイとリトと共に、転移魔法とノリと勢いでマリエのところに来て、マリーエ様をお願いしようと思ったのですが……。
幸いにもマリエは家にいたので楽勝かと思ったのですが……。
「クウちゃん。本気で言っているの、それ? 本気で、たくさんのヒトたちの気持ちを遊びみたいに流すつもりなの? クウちゃんは精霊だよね? みんながどんな気持ちで精霊様に祈りを捧げているのか考えたことはある? 何にも感じたことはないの?」
「え。あの……」
「え、あの、じゃないからね? ユイさんはわかっているよね?」
「え。あ、うん……」
「え、あ、うん、じゃないよね、これって? みんな、たくさんの想いを込めて、喜びも哀しみも怒りも、そのすべてを大自然に返すために、精霊様に祈ろうとしているよね? そんな場面で精霊様には祈らないって、じゃあ、その想いはどこにいくの? 個人で受け止めてどうするの? リトさんも、どういうことですかこれは」
「申し訳ないのです。リトは今、冷静になったのです。不覚にも、ついクウちゃんさまの口車に乗せられてしまったのです」
「ごめんね、マリエちゃん……。私もだよ……」
「ホントに、もう」
はい。
思いっきり私のせいにされましたが……。
それについては思うところがなくもないのですが……。
マリーエ様は公平でした。
このあと短くですが、さらに3人そろって、こってりとお説教されました。
「わかってくれたのなら、ユイちゃんは心からお祈りをすること。クウちゃんとリトさんは真摯にお祈りを受け止めること。いい? いいね?」
……わかりましたです。
私たちは反省して、マリーエ様の言う通りにすることにしました。
急いで湖岸の式典会場に戻った。
睡眠魔法を解除すると……。
「これはいったいどういうことですの!? 何かありましたの!?」
「私の知覚が正しければ何もない。正確にはなかった。だけど、予兆があったの?」
エリカとナオが真っ先に詰め寄ってきた。
「眠っていたのは、ソード殿の魔法か? 説明いただこう」
遅れて、お兄さまたちも。
「え。あ。えっとの、そのお……」
囲まれて、私はしどろもどろになる。
だって、うん。
要は、また私が暴走しただけなんだけども……。
それについては、マリーエ様に絞られて、さすがに自覚も反省もしましたけど……。
私も真面目は真面目だった……。
よかれと思ったのです。
本当に、儀式を台無しにしたかったわけではないのです……。
そんな私の窮地を察してくれてか、リトが口を開いた。
「申し訳ないのですがやむを得ない事情があったのです。それについては解決したので、安心して儀式を行うのです」
「わかりました。セイバー殿がそうおっしゃるのであれば」
お兄さまが納得する。
エリカもナオも、リトの言葉に素直に従った。
ナリユ卿も、オルデに腕を掴まれてだけど、大人しくしていた。
他の面々からも声はなかった。
私たちは、そそくさと再び祈りの準備を整える。
祈りは――。
何事もなかったかのように、厳かに行われた。
ユイは光の大精霊と精霊女王に、死んでいった者たちの安らかなる眠りと、生きている者たちの明日を願って、祈りを捧げる。
私はどうしたらいいんだろうか……。
祈る側ではなくて、祈りを受け止める側のようだけど……。
正直、どうしていいのかわからない。
私が精霊であることは確かなのだけど……。
私はここまで、精霊らしいことは何もしていないしね、実際……。
あ、でも……。
ふわふわはしているか……。
それが精霊の仕事だった。
ただ、うん。
今はふわふわする時ではないだろう……。
私は目を閉じた。
正直、私に戦争の実感はない。
こうして終戦の調印式に立ち会っても、それは大きく変わることはなかった。
その意味では、ナリユ卿と何ら変わるところはない。
ただ、マリエの言葉は心の中で反響していた。
それを自分なりに受け止めて――。
みんなの祈りが世界に届くようにと――、私は空に願った。
冬でも温かい陽射しに乗って――。
遠くへ遠くへ――。
高く高くへ――。
どこまでもずっと、続いていきますように、と――。
いろいろなことを思い出す。
ナオが覚醒した、夜の浜辺でのこと。
短い期間ですっかり中継港になった、その後の浜辺のこと。
トリスティンの上空で結界を張ったこと。
トリスティン中を巡って、あちこちに潜んでいた悪魔を討伐したこと。
それになにより……。
去年の夏の、新獣王都で行われた新生式のこと。
考えてみると私は……。
あれやこれやと戦争に関わっていたものだ。
その中で見た人々の姿も思い出して、私は青い空を見つめる。
リトがそうしているのだろうか。
あるいは、それが願いを受け止めるということなのか。
祈りの中、螺旋を描いてきらめく陽光は、空へと上がっていくようにも見えた。
祈りの時間は、やがておわった。




