1270 オルデの未来は
「こちらとしては問題ない。昨夜、すでにオルデは言葉だけながら義理の娘とした。このまま連れて帰り、当家で教育を施すとしよう」
ギニス氏は即座に了承してくれた。
他からも反対の声はなく、あっさりと話は決まった。
「よろしくお願いします、義父様」
「うむ」
照れる様子もなく義父様と言ってのけるオルデは、本当にたいした胆力だ。
これならやっていけることだろう。
「素晴らしいね! これで僕達の婚約もついに成立だね! ああ、僕はこの日を一日千秋の思いで待ち焦がれていたよ!」
ナリユも嬉しそうだ。
オルデの手を取って、目をうるうるさせている。
「おめでとう、オルデ。これでわたくしたちも、また楽しくお茶を飲めますわね」
エリカが言う。
「その時には私も誘ってね」
ユイも笑ってそう言った。
オルデは言われて、ナリユをうしろに押しのけると……。
おそるおそるの様子で2人に目を向けた。
「あのお……。実は、ほんの少しだけ思っていたんだけど……。いえ、ですけど……。おふたりとはまさか以前に――」
「ええ。久しぶりですの」
「そうだねー。私はあんまりお話ししていないけど」
オルデが今度は、私に目を向ける。
私はうなずいた。
そうだよ、という意味で。
「あああ……」
さすがのオルデも衝撃が強かったのか、その場でよろめいた。
そして心底、悔しそうに言った。
「ソード様、それなら昨日の夜、ぜひ紹介してほしかったです。そうすれば私、侮ってくる連中を相手にアレが出来ましたよね。庶民の娘? ざっこー。でも、なんと聖女様と薔薇姫様とお友だちでしたー! ざまああああ! ほら、お2人の前で私を雑魚扱いしてみー!? っていう最大奥義みたいなコンボがぁ!
って、ハッ!?
こほん。失礼いたしました。今のはどうぞお忘れ下さい。つい昔のクセが出ました。今はキチンと学習しておりますので、不覚は取りません」
オルデが礼儀正しくお辞儀をする。
「その不覚というのは、今の錯乱ではなく、トリスティン貴族を相手に堂々と渡り合うという意味での不覚かしら?」
「はい。もちろんです」
エリカの問いに、オルデは堂々と答える。
「ふふふ。さすがは、わたくしが友と認めた方ですの」
「もちろん、ソード様を始めとした皆様の後ろ盾があれば、の話だけですが。それがなければどうにもできませんが」
「ええ。今はまだ、そうですわね。しかしオルデ、ざまぁ、はやめておきなさい。物語と違ってそれは無用な敵を作りますの。相手も立てて差し上げることですわ。無理な時は徹底的に潰して完全に下に置いてしまいなさい。貴女はこれから侯爵家に入って、公爵夫人となるのです。馬鹿にされる謂れは一切ありませんの」
「そのお言葉、よく覚えておきます。これからもどうか、いろいろ教えて下さい」
「もちろんですの」
エリカが手を差し出し、オルデがそれを握った。
ふふふ、と微笑みを交わす2人は、気のせいか怖いけど。
まあ、うん。
私には関係ないよね。
気にしないでおこう。
「さすがはオルデ! まさか、エリカ様とお知り合いとは! これでますます、僕たちの未来は明るいというものだね!」
うしろではナリユが笑顔でヨイショしていた。
まあ、うん。
それも気にしないでおこう。
私は、義理の父に2人のことを軽く教えた。
「実は以前、エリカは転移魔法で帝都のお祭り見学に来たことがあるんですよ。そこで本当に偶然なんですけど知り合いまして」
「精霊様の導きがあったのですな」
「はい。そうですね。そうかも知れません」
話した後……。
私はお兄さまとバルターさんの視線に気づいた。
「あのお……。と、いうことになったのですけれども……。いいでしょうか?」
私は、お兄さまにおそるおそるたずねた。
するとお兄さまは笑った。
「ははは! 私に確認など必要ありますまい、ソード殿」
さらにバルターさんに言われた。
「さて、ソード殿。そろそろ場面を切り替えてはいかがですかな。新獣王国の使節団が、そろそろ町に入る頃合いですぞ」
あ、はい……。そうですよね……。
私たちまでナリユみたいにしていたら、さすがにナオに怒られますよね……。




