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127 ウェーバーさんと笑った


 今日は午前の11時くらいに大宮殿に行ってみるつもりでいた。

 約束はしていないけど、セラと遊べればいいかなーと。

 学院祭のお土産もあるしね。

 セラには勉強があるからいきなりは無理かもだけど、昼近くに行けば、最悪、ランチだけでもご一緒できる。

 学院祭では、各地の名物が屋台で売られていて、たくさん買ってきたから、きっと楽しめるだろう。

 実は私もまだ食べていないし。

 で、時間があれば夜まで遊んだり訓練したりして、豪華なディナーをごちそうになろうと画策していた。


 というわけで予定は決めてあるんだけど、朝からお店も開けた。


 ふわふわ美少女のなんでも工房。


 あまり真面目に営業していなくてごめんなさい。

 もしかしたらショーウィンドウのぬいぐるみやオルゴールがほしくてたまらない人がいるかもしれないし。

 開けられる時にはちゃんと開けよう。


 ちなみにヒオリさんは、今日も朝から学院に出かけた。

 学院長になったばかりだしね。

 やむなし。

 当分は忙しいようだ。


 そういえば、ゼノはどうしたんだろうか。

 ゼノというか、あの子。

 完全に忘れていたけど、誰だっけ。

 吸血鬼の女の子。

 ちゃんちゃんうるさい子。

 精霊界のゼノの家にも、時間があったら行ってみよう。

 今日はセラのところだけどね。


 カウンターの席に座って、ぽけーっとする。


 陛下の演説会がおわって。

 学院祭がおわって。


 帝都は落ち着きを取り戻している。


 私の予定的には、次はセラのデビューパーティーだねー。

 私もおまけで社交界デビュー。

 ドレスは作ってもらった。

 社交の練習も、けっこうしている。

 面倒くさいと思う反面、どんなことになるのかすごく楽しみでもある。


 なんにしても、平和だ。


 眠くなる。

 振り子みたいに頭が揺れて、カウンターに額がつきそうになる。


 そこにドアが開いた。


 おっといけない、お客さんだ。


「いらっしゃいませー。あ、ウェーバーさん。こんにちは」

「こんにちは、ご店主」


 現れたのは、地味なスーツを着た恰幅のよい男性。

 大商人のウェーバーさんだ。

 海千山千の強者で、よいことも悪いことも自在、油断すればすべて奪われるとリリアさんが言っていたっけ。

 一応、気をつけておこう。


 今の見た目的には、普通に愛想のよい人だけど。


 おや。


 ウェーバーさん、誰か小さな女の子と手をつないでいる。


 女の子と目が合った。


 あ。


 ウェーバーさんのうしろに隠れちゃった。


 照れ屋さんのようだ。


 年齢は、5歳くらいかな?

 エミリーちゃんよりも明らかに年下だ。

 リボンのついたお洋服を着ていて、お人形さんみたいな子だ。


 あ。


 女の子、私のぬいぐるみを抱いてるね。


 やっほー。


 手を振ってみると、私がぬいぐるみのモデルって気づいてくれたのかな?

 ハッとした顔で、ウェーバーさんの陰からちらちらと見てくる。


「この子は私の孫でしてな。名前はアリスといいます」

「初めまして、アリスちゃん。クウちゃんだよー。ぬいぐるみのお姉さんだよー」


 残念ながら返事はもらえなかった。

 大人しい子のようだ。


「この子に、ぬいぐるみを見せてあげてもよいですかな?」

「はい。もちろんです。どうぞ」


 大歓迎ですとも。


 私もカウンターから出て、アリスちゃんのそばに行った。


「ほら、アリス。たくさんあるだろう? おまえのお気に入りのぬいぐるみはこのお店で作られたものなんだよ」

「……うん。……かわいい」


 アリスちゃんが初めて声を出してくれた。

 わたしの作ったぬいぐるみを見て、目をきらきらさせている。


 私も嬉しい。


 ウェーバーさんも目を細めて、孫のことを見ている。


「……時に、店主さん」

「はい?」

「店主さんは先日の陛下の演説会はご覧になられましたかな?」

「はい、一応」

「私も見ていましたが……。陛下に、精霊様からの祝福がありましたなぁ……」

「あはは。そ、そうでしたねえ」


 はい、私がやりました。


 思わず苦笑い。

 だって、さ。

 陛下、怒ってないって言ってたけど。

 絶対に怒ってたよね?


「巷では、聖者になったという噂もありますが……」

「あ、えっと、それはないですよ」

「……どうしてですかな?」

「だって、陛下には光の魔力がないですし」

「なるほど……。そうですな……。しかし、精霊様の加護があれば、聖女様と並び立つこともできるのでは?」

「んー。無理ですね。聖女ってユイ、様のことですよね」

「そうですな。聖女様は、ただお独りの存在です」

「ユイ様と陛下じゃ、怒られそうだけど、やっぱり格が違いますよ」

「ほほう。どちらが上なのですかな?」

「そりゃ、ユイですよ。だって、本物だし。精霊どころか、アシス様が定めた正真正銘の聖女ですよ」


 私がノリで光に包んだだけのなんちゃって聖者とはわけが違う。


 …………。


 あれ、私。


 改めて考えてみるとさ。


 とんでもなく悪いことを陛下にしちゃったよね……。

 なんちゃって聖者って……。

 そんなものにされたら、迷惑なんて話じゃないよね……!?


「う、うわぁぁぁぁぁ!?」


 やばいやばい。


 どうしようこれ!


 そりゃ怒るよ!


 怒りますよね!


 私、とんでもないことしちゃったよね!?


 ……ダメだ。


 今度あったら、ジャンピング土下座しよう……。


「店主さん、どうされたのですか?

 いきなり叫んで、しかも顔が青いですが……」


 しまった、ウェーバーさんの前だった。

 アリスちゃんにも心配そうな顔をさせてしまっている。


「あ、すみません。

 ちょっとトラウマが発動して。

 病気とかではないので、心配しないでください」


「ならよいのですが……。それで、先程の話ですが……。創造神アシスシェーラが定めたというのはどういう意味で?」

「言葉の通りですよー。ユイはアシス様が認めた世界公認の聖女なので」

「……店主さんは、よくご存知のようですな」

「そばで見てたしねー」

「さすがは精霊様といったところですか」

「まあねー。はぁ、でも、しまったなぁ……。やっちゃったなぁ……」


 土下座したら許してくれるのかなぁ。


 陛下はセラのお父さんだし、仲良くしていきたんだけど。


「しかし、やはりユイ様こそが、それでは最高の存在ということなのですね?」


「そりゃそうだよー。

 もちろんさ、世の中には、才能があって頑張っている子もいる。

 きっと聖女になる子だって出てくるけど……。

 それでもユイは世界公認だからね。

 さすがに差はあるよ」


 うん。


 セラはきっと、いい聖女になると思う。

 それは間違いない。

 だけど現実的にユイを超えるのは難しいだろう。

 なにしろアシス様の加護がある。

 思いっきり加護を受けて、可憐で可愛くて美少女で素敵なのに最強な私を見れば、ユイの力も相当だとわかる。

 カメになっちゃったナオだって、凄まじいポテンシャルだったし。


「……なるほど。世界公認。

 ふふ。

 世界公認ですか。

 なるほど。

 ふふふふ。

 世界公認。

 それは本当に、素晴らしい言葉ですな。

 私、すっかり気に入りました。

 目の前にかかっていたモヤが、すべて綺麗に取れた気持ちです。

 ふふふふ。

 はははははははっ!」


 あれ。


 なんかいろいろ考えていたら、いつの間にかウェーバーさんが笑っている。


「あの、私、何か面白いことを言いましたか?」

「ええ。最高に素晴らしかったです!」

「そかー」


 さすがは私。


 どうやら考え事をしつつ、何か芸を披露したらしい。


「あははは! ですねー! 最高ですねー!」


 というわけで私も笑った。


「ははははは! 最高ですな! 私、最高の気分ですぞ!」

「最高! 最高!」


 せっかくウケたのだから、ここは合わせるのみ!

 ウェーバーさんが笑う限り!

 私も笑おう!


 私たちの笑いが、明日の帝都の平和を作ると信じて!


 アリスちゃんがポカンとした顔で私たちのことを見ていたけど、まあ、うん、後でぬいぐるみをあげよう。





打ち切りエンドっぽい終わり方ですが、まだまだ続きます(予定)

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[気になる点] 聖女としては一番かもしれないけど、精霊って聖女より格が上だから聖女がこの世で一番ってわけじゃないよね。例えるなら貴族の中で一番でも王族には敵わないみたいな? いや、これダメだな。ここの…
[良い点] 最初、題名に久しぶりのキャラ名で誰だっけとなっちゃいました(。-д-。) アリスってきくと、ベッタベタにエプロンドレスを着せちゃいたくなりますわ◝(⑅•ᴗ•⑅)◜..°♡ あのクウちゃ…
2021/08/05 12:58 退会済み
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