1266 ユイとエリカと
川原ですき焼きを堪能した後も、私はユイと一緒にいた。
ユイの滞在するホテルの部屋は、当然ながら最高級。
トイレからお風呂まで完備で、完全にプライベードでのんびりすることができた。
「クウとこんなに平和に過ごすの、久しぶりだねー」
「だねー」
私たちはラグの上でゴロゴロ寝転んでいた。
リトは、私がいれば安全ということで、今は精霊界に帰っている。
光の大精霊としての仕事があるそうだ。
「ねえ、クウ。何しよっかー」
「んー。そだねー」
「前世なら、お酒を飲むところだよねー」
「そだねー」
前世の私たちは、暇な時間があれば宴会をしていた。
懐かしい思い出だ。
「ねえ、クウ。お酒、飲んでないよね?」
「飲んでないよー。ユイは?」
「私も飲んでないよ。でも、成人したらどうする? あと2年だよね」
私たちは、今年で13歳。
この世界では15歳で成人してお酒を飲めるようになる。
「んー。まだ考えてないやー」
「みんなで一緒に、いっぱいとかやっちゃう……?」
「んー。どうしようねえ……」
「だよねえ……。同じ失敗はしたくないしねえ」
「だねえ」
私たちは前世、お酒で失敗した。
なので、うん。
飲まないで済むなら、飲まない方がいいとは思うけど……。
私は前世を思い出して、ふと歌を歌った。
「さーけが、のみたいー♪ ららら♪ さーけが、のみたいー♪」
「懐かしいね、そのお酒の歌」
「だねー」
そんな感じで楽しく会話していると――。
ドアがノックされた。
何かと思えば、なんとなんと、エリカがお忍びで来たという。
もちろん、すぐに通してあげた。
エリカはドレス姿ではなく、軽装に着替えていた。
「貴女たちは晩餐会の裏で、いったい何をしていますの?」
「んー。何と言われても」
「2人でゴロゴロしていたんだよー」
ユイが答える。
「だねー」
私は笑ってうなずいた。
「で、エリカ、どうしたの? もしかして何かあった?」
寝転んだまま、私はエリカにたずねた。
「こちらの判断で少し予定を変更させてもらったので報告に来ましたの」
オルデのことだった。
予定では今夜の晩餐会で発表する予定だったけど、取りやめたそうだ。
理由を聞いて私は納得した。
「そだねえ……。それは、私の思慮が足りなかったよ」
「確かに言われてみれば、いきなり帝国の庶民と発表して、そのままトリスティン貴族と接するのは問題が起きそうだよねえ」
私に続いて、ユイもエリカの意見に同意した。
「ええ。そう思いましたの。なので今回は発表だけにして、オルデが彼らと相対するのは次の機会にしようということになりましたの。それでいいかしら?」
「うん。わかった。お願いー」
私はお任せすることにした。
「あーでも、ちょっと残念ではあるよねー」
ユイが言う。
「……何がですの?」
「だって、さ。やってみたかったと思わない? 庶民と発表されて、オルデがチクチク攻撃されているところに、さ。エリカがやってきて親しくして、みんなが驚いているところに、さらに私が来て親しくするの。すごい光景になると思わない?」
「悪趣味ですの。それ、まさに前世の悪役令嬢物語のワンシーンですわね」
「そそ。ざまぁ、的な」
ユイが気楽に笑う。
「まったく。そこまで考えが至っているのなら、少しはオルデの今後も考え、そうならないように配慮して下さいませ。悪役令嬢にされる者も可哀想ですわ。ユイに睨まれては、もはや貴族社会で生きていけませんの」
「えー。私なんて、そこまでの者じゃないよー」
「何を言っているのか」
エリカは深くため息をついた。
「ユイは、うん、アレだね。もう少し自分の立場の強さを自覚した方がいいね」
「それ、クウにだけには言われたくないけど!?」
「そもそも、悪役令嬢ものや追放ものは、上に立つ者が無能と無知を極めているからこそ成り立つ物語ですの。そんな状況になった時点で、わたくしたちの場合、自らの無能と無知をさらけ出しているも同然ですの。いいですか、わたくしたちは、常に導き手として――」
「また難しいことを言ってー。私たち、まだ12歳なんだからさー。エリカは、もっと遊び心を持ちなよー。ねー、クウ」
「だねー」
私はユイと笑った。
笑ったところでユイはころりと話題を変えて、
「ねえ、エリカ。エリカも今夜は泊まっていきなよ。久しぶりに3人で寝よ?」
「ねえ、ユイ。私も泊まっていいんだ?」
その予定はなかったけど。
「あれ? 泊まらないの?」
「まあ、いいか。なら泊まるー」
せっかくなので、私は泊まらせてもらうことにした。
「エリカもこっちおいでー」
寝転んだまま、私はエリカを手招きした。
「つかまえたー♪」
ユイがエリカの足を掴んで、ふわふわラグの上に引きずり込む。
「こら、ユイ! 何をするんですのー!」
「あははー! 逃さなーい! ほら、クウも捕まえて!」
「はーい」
私もエリカを捕まえた。
「強引すぎますの! わたくしを誰だと思っているんですのー!」
「何をウェルダンみたいなことをー」
「ウェルダンって……。わたくしをどこまで焼くつもりなのですか! これでもわたくしはみずみずしさも売りなのですよ! せめてレアにして下さいませ! って、そもそもわたくしは肉ではありませんのバラですの!」
「じゃあ、バラバラしよー」
「どうする気ですかー!」




