1265 閑話・オルデ・オリンスの晩餐会
私は大人しく食事を続ける。
晩餐会は華やかだった。
あちこちから明るい会話が聞こえる。
なんというか……。
トリスティン貴族連合の現状は散々たるもののはずだけど……。
私も実際、暗い王都は見ているし……。
今回の終戦は、敗北を意味しているというのに……。
まるで戦勝会のような雰囲気があった。
近くにいた男性が言った。
「しかし、今夜の晩餐会で聖女様の神々しくもお美しいご尊顔を拝せないのは残念ですな。新獣王国への配慮とのことでしたが」
「本当です。普通に参加して何ら問題はなかったものを」
「まったくですな。獣人どもに配慮など。おっと失礼。どもは失言でしたな」
「エリカ王女に聖女様、さらに帝国皇太子まで駆けつけたとなれば、ここからいくらでも巻き返せるとも思うのですがな。おっと、これも失言ですな」
彼らはトリスティンの貴族だ。
私は心の中でため息をついた。
トリスティンの未来は、わかっていたけど、あまり明るくないようだ。
ちなみにナリユは私の近くにはいない。
当然ながら、ずっと前列にいる。
私の方をチラチラ見てくるけど、私は完全に無視している。
「わたくし、エリカ様にはご挨拶させていただいたことがあるのよ」
私のとなりの席に座っていた、最初に挨拶してきてくれた同年代のご令嬢が、私にしゃべりかけてきた。
「それはすごいですね」
私は当たり障りなく感心してみせた。
「何歳も年下だというのに、正直、緊張して固まってしまいましたわ。まさにアレこそが国を導く正しき者の姿なのですのね」
ここで、こちらにまた目を向けたナリユと彼女との視線が合った。
キッと睨まれて、ナリユは顔を逸らした。
「本当に」
彼女はため息をついた。
「……そうですね」
私は同意した。
結局、そのまま晩餐会はおわってしまった。
私の話は、一切、なかった。
晩餐会の後には自由に動ける二次会もあるようだけど、私は出席の必要がないようでメイドさんに連れられて退出した。
帰りは、ギニス侯爵家ではなく、帝国の人たちと一緒だった。
帝国の人たちは、全員、二次会には出ないようだ。
私はなんとラインツェル公爵にカイスト皇太子と同じ馬車に乗った。
「オリンス嬢、今夜は勝手に予定を変更して済まなかったな。謝罪しよう」
道中で皇太子殿下に言われた。
皇太子殿下に謝られるなんて、いったい、何事かと思ったけど……。
それは今夜、私の紹介がされなかったことだった。
やはり予定では今夜だったようだ。
「俺達も考えが至らなかった。今夜、君を大勢の前で紹介してしまっては、明日の君が針のむしろになってしまう。なのでエリカ王女とも協議の上、君とナリユの物語を発表するのは明日のパーティーの最後にしようということにしたのだ。明日は好奇の目なく――とまではいかないだろうが普通に明日を楽しむといい」
「それは……。お気遣いありがとうございます。ただ、あの……」
「どうした?」
「ソード様には……」
「ああ。ソード殿にはエリカ王女が伝える。君は心配しなくてもいい」
「はい。ありがとうございます」
この後、なんと、ラインツェル公爵からも急遽の予定変更を謝られてしまった。
私は恐縮しきりだった。
そして、思った。
帝国皇太子は……地位があって、お金持ちで、顔も心もイケメンで……。
威厳があって、思慮深くて……。
私のような庶民にまで気遣いができるなんて……。
完璧ね……。
さらにはエリカ王女も、噂通りの眩しいほどに輝いたお方だった。
2人とも、どこかのナリユとは大違いだ……。
バスティール帝国とジルドリア王国の未来は明るいだろう……。
いえ、うん……。
比べるだけでもおこがましいわよね……。
悲しいけど……。




