1263 幼馴染とすき焼きを
「ってことがあってね、私は疲れたよ。……ねえ、ユイ。私の対応、よかったのかなぁ。今回も好きにやりすぎたと思う?」
ユイのところに戻って、早速、報告というか愚痴ると――。
「あははー。人助けはできたんだし、気にしなくていいと思うよー」
と、ユイは朗らかに笑った。
「また他人事みたいにー」
私は頬を膨らませて、さすがに抗議した。
ところがユイはキョトンとする。
「だって他人事だよね?」
「いや、ユイは思いっきり当事者だよね……?」
「なんで!?」
今度は驚かれた!
「なんでもなにも、聖女様だよね?」
「それはそうだけど、他の国のことでしょ?」
「関わってはいるよね?」
「いないよ?」
「そうなの?」
「うん」
ふむ。
思わず私は考えた。
「いや、関わっているよね思いっきり! ラムス王が退位したのは、ユイの意向に従うところが大きいよね確実に!」
「私、そんな意向なんて持ってないよ?」
ふむ。
私はさらに考えた。
するとユイは言った。
「私はね、クウ。常にクウを心がけているの。クウ、すなわち空白のことね。空気のことね。クウちゃんだけにじゃなくて」
「クウちゃんだけにじゃないんだ……?」
あまりに意外な言葉に、思わず私は聞き返してしまった。
だって、うん。
すでに私の中では、クウとはすなわちクウちゃんだけに、なのだった。
「ねえ、クウ。私はカメなの。トータルではね、まさにタートルなの。すべてはカメーへんの精神で生きている子なの。言うなれば、カメちゃんだけに、カメなの」
ユイはしみじみと言った。
「……ごめん、意味がわからないよ」
「意味はないの。だって私は、それでカメーへんのだから」
「クウちゃんさまはよく思い出すといいのです。最近のユイの政治的発言は、全部、センセイの意向によるものなのです。センセイとは誰だったのですか」
「謎の誰かだよね」
「そうだよね、謎の誰かだよね。私たちじゃないよねー」
「それはそうかー」
私は納得した。
あっはっはー。
私はユイと2人で朗らかに笑った。
笑った後、ユイは言った。
「なんにしても今回の件は、たとえば最悪の結果だったとしても公にはならなかった。私たちは何事もなかったことにしたと思う。
つまり、結果と対応者に関わらず現状維持の方向で動くわけなんだから、クウは純粋に人助けできたことを喜んでいればいいと思うよ。悩むとするなら悪魔のことだよね。そっちは現状維持では済まされないことだし」
「ねえ、ユイ」
「なぁに、クウ」
「最初からそういう風に真面目に話してくれれば、話は早かったと思うんだけど?」
「え」
「え?」
「もしかして、私のことをからかっていたの? 私、真面目だったんだけど?」
「私も真面目だったけど? トリスティンの事件なんて、私には本当に無関係だよね? すべてに関わらせようとするのは本当に迷惑だからやめてね?」
「カメは?」
「うん。私はカメだよね」
「まあ、それはそうか、真面目に……」
「だよね? ていうかさ、クウ、いったいどうしたの? さっきから、クウともあろうものが真面目なんて言葉を使って……。もしかして、赤いキノコとか食べちゃった? それって毒キノコだからすぐに解毒の魔法をかけようね? はい」
ユイが魔法をかけてくれた。
ありがと。
じゃなくて。
「食べてないからね? というか、普通に食用の赤いキノコもあったよ?」
「ねえ、クウ」
「なぁに、ユイちゃん」
「クウも私と同じで、今夜の晩餐会には出ないんだよね?」
「うん。クウとして出るのは不自然だし、ソードとして出ても仮面で食べられないしね」
「私、お腹すいちゃった。夜にはまだ少し早いけど、こっそり町から抜け出して2人でキャンプ料理しよっか。そういうのも面白そうだと思わない?」
まったくこの聖女様ときたらなんてマイペースな!
まあ、いいけど。
実際、私もお腹が空いているし、すき焼きも試しに作ってみないとだしね。
「ところで2人でいいの?」
私はリトに目を向けた。
「……リトは1人で見張りを続けるのです。2人で楽しんでくるといいのです」
リトがいじけて言った。
「あーちがうからー! リトも一緒に食べよ! ね!」
ユイが慌ててフォローする。
私は笑った。
この後は、敵感知と魔力感知で十分に索敵しつつ、川原で火を起こして、プチキャンプ気分を味わいながら料理と食事に勤しんだ。
ユイと作った久しぶりのすき焼きは普通に美味しかった。
それはあくまで普通の味だったけど……。
この異世界で普通を再現できたのなら、それは上々と言えるだろう。
そもそも、普通でもすき焼きは絶品だ。
きっと明日、みんなも美味しく食べてくれることだろう。
そして願わくば……。
キチンと終戦して、平和になってほしいものだ。
すき焼きの煮える鍋を前に、石に座って、夕日にきらめく川面を見つめて――。
私は心からそう思った。
謎トーク回。意味不明だったらごめんなさい。
個人的にはけっこう好きですw




