1262 見えない影は、影なのか
「うーむ。しかし、どうするか」
襲撃者はナオに引き渡したいところだけど……。
ナオは明日に向けて忙しいはずだ。
というわけで、私の大親友ゼノリナータさんにオネガイすることにした。
「というわけでオネガイね」
「まったく。いきなり呼び出したと思ったら、またこれか」
さすがはゼノさん。
あっという間に事件の真相を暴いてくれました。
幸いにも、彼らは新獣王国に所属する戦士ではなかった。
さらには組織的な犯行でもなかった。
彼らは、旧トリスティン王国の獣人突撃部隊にいた元奴隷たちだった。
獣人突撃部隊は、奴隷ながら鍛え上げられた精鋭。
戦闘能力は高い。
今は『ホーリー・シールド』に所属するバー・ウガイ氏も、元はトリスティンの奴隷として獣人突撃部隊に所属していたというし。
彼らは解放された後、新獣王国には行かず、海洋都市で暮らしていたという。
海洋都市には多くの品と共に多くの噂が集まる。
そこで彼らは、前王が平和に暮らしている話を聞いたそうだ。
そして……。
どうしても許せなくなって、殺しに来たという。
「なんかさ、クウ。怪しいね」
「だねえ……」
最近、すっかり見なくなっていたけど……。
すごく悪魔の影を感じる。
ただ彼らに、ダイ・ダ・モンにあった邪悪な力の侵食は確認できなかった。
魔術をかけられた痕跡もなかった。
ただ魔術については、時間の経過で痕跡も消える。
なので、魔術的要素で扇動された可能性は消えていないけど。
ちなみに話は、酒場でヒト族の中年の商人から聞いたという。
それ以上にはわからなかった。
たまたま相席になっただけの相手のようだ。
とりあえず彼らには、ゼノに思考をいじってもらって……。
キノコを仕入れに来た!
ってことで……。
キノコを渡して、海洋都市に帰ってもらうことにした。
ヒトの思考をいじるのは、とてもよくないことだ。
私は常々そう思っているけど……。
仕方ないよね、うん……。
今回も例外だ……。
元奴隷の復讐者を罪にかけるのも、正直、気が乗らないのです……。
「ねえ、クウ。手伝ったんだからさ、ボクのオネガイも聞いてくれるよね?」
「どんなこと?」
「実は、新しい仲間をウェーバー邸に招きたくてね」
「えー」
すでに軍団と呼べるほどいるのに。
どれだけウェーバー邸を闇に染める気なのか。
「もちろんいいよね?」
「……今度はどんな子なの?」
「例のブラックタワーの地下にいたウィルの仲間でね。ぜひ私たちもニンゲンの町で楽しく暮らしたいっていうからさ」
「ウィルの仲間かぁ」
嫌な予感しかしないんだけど。
「そんな嫌な顔しなくてさ、竜の里と同じように考えてよ。最上位の吸血鬼だから、いざという時には便利だよ?」
「まあ、いいけどさぁ……」
私だけオネガイして、ゼノのオネガイを断るわけにもいかないし。
「よかった。ありがとね」
こうしてなんとか……。
いきなりの大事件は、うやむやでおわった。
いいのか悪いのか。
私にはわからないけどね、正直。
とにかく明日の調印式に影響が出なくて、よかったと思っておこう。




