1261 リバース前王太子との再会
部屋に運ばれたリバース前王太子は、すでに瀕死だった。
「父上――。私は事故で死んだと、そうご発表下さい。すべての者に謝罪を――。先に――。させていただこうと思います――」
リバースが、必死に絞り出した声で言った。
父親たる男爵は、
「そうか」
と、だけ答えた。
部屋にいた従者の男が叫んだ。
「獣人です! どれだけ顔を隠しても輪郭でわかります! リバース様にいきなり刃を突き立てたのは間違いなく獣人でした! 奴らは侵略をやめる気などないのです! 仇を! このままやられ放題でいいのですか!」
「良いのだ」
男爵は即答した。
それに、リバースがうなずく。
「そんな……!」
従者の男は、悔しさのあまりかその場で四つん這いに伏せてしまう。
私はそっと部屋に入っていた。
前に出ると、気付いた男爵が場所を譲ってくれた。
私はリバースを見下ろす。
「助けようか?」
私はリバースに言った。
「不要です……。むしろ私は、生き過ぎた……」
「そんなことはないと思うけど」
私がそう言うと、リバースは自虐気味に微笑んだ。
顔色が一気に白くなっていく。
彼の生命力は、急速に失われている。
もうすぐ死ぬのだろう。
私はそれを、自分でも驚くほどに冷静に、何の恐怖心もなく見ていた。
どうしてだろう。
血なんて、普段なら見るだけで卒倒しそうになるのに。
自分でも不思議な感覚だけど、恐怖よりも、リバースのすべてを受け入れようとする態度に憤りを感じているからかも知れない。
「困るんだよ。君が獣人に殺されたとあっては、ヒト側の収まりがつかなくなる」
私は言った。
「これは……。ただの事故ですよ……」
それは無理だ。
目撃者は何人もいる様子だし、従者の姿を見れば、どれだけ箝口令を敷いたとしても罰を覚悟で破るのは容易に想像できる。
今のリバースは、領民に慕われる穏やかな人格者なのだ。
「君には生きてもらう。生きて、どうすればいいのかを考えていくことだね」
「酷いことを……。言うものですね……」
「そうだね。これは酷いことだよ」
白魔法「ハイヒール」――。
私の魔法でリバースの体は白い光に包まれて――。
そして、全快した。
「ああ……。本当に、酷い話です……」
リバースが身を起こす。
「おお、リバース! よかった! 本当によかった!」
そこに、感極まった男爵が抱きついた。
居合わせた人たちも喜んでいる。
「ここから先の対処は、この私、『ホーリー・シールド』のソードに一任してもらう。君たちは普段通りの生活を続けるように。間違っても喧伝などしないように。代わりに事件は、こちらで責任を以て解決しておく」
返事は待たず、私は『透化』の能力を発動した。
壁をすり抜けて屋敷の外に出る。
敵感知に反応アリ。
数、6。
全員、問答無用で『昏睡』させて――。
まとめて転移。
いつものマーレ古墳の隠し部屋に閉じ込めた。
頭巾をはぐ。
襲撃者は全員が獣人だった。
まったく。
よりにもよって、終戦の調印式の前日に何をやっているのか。
いや、むしろ、前日だからか――。
以前の講和も、そういえば襲撃でうやむやになった。
あの時は完全に悪魔の仕業だったけど。
様子を見て、さらに襲撃をかける気だったのか。
男爵も殺すつもりだったのだろうか。
ナオも本当に頑張っているのはわかるけど、それでもすべての獣人の怒りと恨みを抑えるまでには至らなかったようだ。
まあ、それはさすがに仕方ない。
今回の件は、起こるべくして起きた出来事だろう。
むしろ、私がいるタイミングで起きてくれてよかったと思う。




