1259 ラムス前王との再会
なんだかんだ言って、ユイはただの泣き虫駄々っ子というわけではない。
この大陸で絶大な影響力を持つ聖女ユイリア様だ。
そのユイリア様が平和を願って、関連国の素材を使って手料理を振る舞う――。
それはきっと大きな意味を持つ。
正直、面倒だけど、私も買い物を頑張らねばなるまいのです。
目指せ、キノコ!
というわけで、私は空から国境を越えて――。
トリスティンの小さな町にやってきた。
周囲に森の広がる自然豊かな場所だったので、きっとキノコもあるだろう。
まずはローブを着て、ちゃんとフードをかぶって……。
目立たない格好にしてから……。
私は町に着地して、通りを歩いた。
町の様子は静かだ。
往来にヒトの姿はあるけど、騒がしさはなかった。
まあ、うん。
私もすっかり帝都っ子で、都会になれてしまったということかな。
辺境の町なら、静かなくらいが普通だろう。
人の良さそうなおばさんを見つけて、地元のキノコのお店がないかどうか聞いてみると、すぐに教えてくれた。
なんとキノコの専門店があるそうだ。
私の予測通り、この町の周辺ではたくさんのキノコが採れるらしい。
シイタケの栽培もしていて、特産になっているそうだ。
早速、教えてもらったお店に行ってみた。
お店は、まさにキノコの山。
白いのから黒いの、赤いのまで、多種多様なキノコがお店には並んでいた。
私は、お店の人から話を聞きつつ……。
かなり迷いつつも……。
結局、栽培品の無難なシイタケに決めた。
いくら美味しくても、すき焼きに合わないと困るしね。
大きな袋いっぱいに買った。
さて、ミッション完了!
帰ろうかな。
と思った時だった。
「ふぉっふぉっふぉ。旅の娘さんかな。そんなにたくさんのキノコを買って、今夜はご家族とキノコパーティーでも開くのかな」
穏やかな笑い声と共に、老人の声がかかった。
私は振り向いて――。
にこやかに「そだよー」と言いかけて……。
目が合って――。
あれ。
と思った。
現れた老人は、シンプルながら仕立ての良い服を着ていた。
声と同じく、穏やかな顔立ちの男性だった。
ただ、どこか――。
ほんのわずかながら怖さも感じられた。
まるで権力者のような雰囲気があるというか……。
実際、その通りだったようで、
「これはご領主様」
と、従業員さんが頭を下げた。
「ふぉっふぉっふぉ。領主は私の息子じゃよ」
「そ、そうでした! 失礼しました!」
「私はただの隠居に過ぎん。かしこまる必要はないから気楽にしなさい」
「はい!」
そのやりとりを見つつ、私は思った。
私は老人に見覚えがある。
ただ、私の知る彼は、もっとずっと太っていたし、もっとずっとギラついて、欲望むき出しの怖い顔をしていた。
まさに、強権の権力者だった。
だから私も遠慮なく、トリスティン送りさせてもらっていた。
ただ、うん……。
「あのお……。もしかして、なんですけど……」
私はおそるおそる老人に語りかけた。
「うむ。何かな?」
「もしかして、ラムス王、ですか?」
私はたずねた。
「君は、誰かな……?」
「私は、あの、ほら、私ですよ、私。わかりますか?」
返事は、すぐには来なかった。
老人が私を見つめる。
そして、老人も私のことに気づいたのだろうか。
驚くように目を見開いた。
「まさか、貴女はソー」
あーそうかー!
私のラムス王との面識は、ソード様としてだったぁ!
「いえ、失礼。――勘違いでした」
ラムス王――。
ううん、ラムス前王が私に頭を下げる。
「あ、うん……。はい。そうですね……。びっくりしました」
まさかこんなところで会うとは。
ラムス前王は、自ら王位を退いた後、男爵としてジルドリア国境に近い小さな町を与えられたと聞いてはいたけど……。
「すみません、私も勘違いしました」
元王であることは秘密なのだろう。
話を合わせて、私も頭を下げた。
「私はただの、隠居した元中央の男爵に過ぎませんからの。しかし、どうだね。もしよければこの老体といくらかの話でも」
「――はい。そうですね」




