1256 聖女ユイリアの怒り
ダイ・ダ・モンと明日のことをしっかり約束して、私は宿から出た。
疲れた……。
とりあえず空中に浮いて休憩していると……。
「クウちゃんさま。ユイが呼んでいるのです」
唐突にリトが現れた。
リトは、何故か神妙な顔をしていた。
「どうしたの?」
「リトは今こそクウちゃんさまに言うのです」
「何を?」
「ざまぁ、なのです。ユイは怒っているのです。クウちゃんさまに怒り心頭なのです」
神妙な顔のまま煽られた!
魔力ビリビリしてやろうかと思ったけど……。
んー。
そかー。
ユイを怒らせちゃったかぁ。
終戦前の大切な時に騒いじゃったしね……。
でも、うん。
私は悪くないよね?
どう考えても。
むしろ褒められる場面のはずだけど……。
「リトさあ、わかってるとは思うけど、ダイ・ダ・モンが暴れたのは邪悪な力の侵食を受けていたせいだからね? ちゃんとユイに説明した?」
私はリトを疑ってみた。
「したのです」
「でも、怒ってるんだ?」
「なのです。リトはユイがあそこまで真剣に怒っている様子を見たことがないのです。クウちゃんさまは本気で怒らせたのです。だからリトは何回でも言うのです。ざまぁ。ついにクウちゃんさまはおわりの時なので――。ぎゃあああああ!」
「よーし、かわいがってあげるねえ。どうせリトが余計なことを言ったんでしょー? ほらほら素直に言いなさーい」
「言っていないのですー! リトは何も言っていないのですー! 許してなのですー! リトはクウちゃんさまにざまぁしただけなのですー!」
ふむ。
魔力ビリビリしてリトをほんの少しだけヨシヨシしてあげたけど……。
リトは何も吐かなかった。
正直、とても怪しいけど、さすがにやりすぎはよくない。
私は仕方なくリトを離した。
「リトは無実なのですう! クウちゃんさまはそういうところがいけないのです! 1000年は死んで学習しろなのです!」
「あーはいはい。学習しなくてごめんねー」
ともかく行ってみよう。
ユイから話を聞けば、何がどうしたのかわかるはずだし。
ちなみにユイは、すでにファーネスティラに来ている。
ただ、今夜の晩餐会には出席しないとのことだった。
事前には参加すると聞いていたけど……。
どうやらそれは情報の伝達違いのようだ。
新獣王国への配慮で、トリスティンやジルドリアと親しくしすぎるのは避けるそうだ。
それならば、ユイとリトは2人とも転移魔法を使えるのだから、明日の朝にでも飛んで来ればいいのにと思ったのだけど……。
実は本来は、その予定だったそうだけど……。
ユイが来ると聞いた聖国からファーネスティラに至る街道沿いのすべての町が、
「聖女様が来るぞおおおお! 全力で歓迎だぁぁぁぁぁぁ!」
と盛り上がってしまって……。
顔見せしつつ、正規の予定通りに馬車で来ざるを得なかったようだ。
人気者も大変だね。
私はリトと2人、ユイの滞在するホテルの一室に飛んだ。
ユイは正座して私を待っていた。
部屋にはソファーもあるのに、わざわざ床に正座しているところがユイらしい。
「クウ、座って」
「あ、はい」
ユイに真顔で言われて、私はストンとお尻から床に降りた。
「正座」
「あ、はい」
言われるまま私も正座した。
「ねえ、クウ。どういうこと?」
「どういうことと言われても……。リトから聞いてないの?」
「聞いていません」
「……リト?」
「言ったのです! リトはちゃんと言ったのです!」
「って言ってるけど?」
私はユイに確かめた。
「クウが来たことは聞きました」
「さっきの騒ぎの理由は?」
「聞きました」
「なら、私の活躍をほめるところだよね……?」
なのにどうして真顔なのか。
それがわからない。
だけど、私とユイは前世からの仲。
しかも幼馴染だ。
だから、私はすぐにピンと来た。
「ねえ、ユイ……。まさかとは思うけど、もしかして、真剣な話なんて関係ない、ものすごくどうでもいいことで怒ってない?」




