1252 久しぶりのファーネスティラ
「じゃあ、コレルリースさん! あとはよろしくお願いしまーす!」
「はい。お任せを」
ファーネスティラ近郊のダンジョンに転移して、外に出ると、すでにジルドリア王国の精鋭が帝国の使節団を待っていた。
お迎え部隊の指揮官は、コレルリースさん。
エンナージスさんと共に『ローズ・レイピア』の副長となった4人の竜の人のひとりだ。
普段は表に出ることのない忍者タイプの人だけど、それだけに知覚能力には特に優れていて不意を打たれる心配はない。
お迎えの部隊には、他にもトーノさんとファラーテさんがいた。
どちらも『ローズ・レイピア』の正規メイドで、私とも交流のある人たちだ。
人格、能力共に、信頼することができる。
お任せして問題はないだろう。
残念ながらエリカはいない。
普通なら皇太子と公爵のお出迎えには王女クラスの格が必要だろうけど、エリカはトリスティンの使節団に付いている。
トリスティンの代表って、ナリユキだけのナリユ卿なんだけどね……。
正直、放っておいていいと思うけど……。
ジルドリア王国は、あくまでトリスティンの友好国として、トリスティンのためにということで今回は動いている。
なのでどうしてもそちらが優先されるようだ。
ちなみに帝国の使節団は、皇太子たるカイストお兄さまを団長として、補佐に帝国公爵たるバルターさんが付いている。
あとは、今回の影の主人公であるオルデに、メイドさん数名、文官数名、護衛として白騎士6名が付いていた。
私は3往復して、みんなを運んだ。
白騎士の中には、ロディマスさんの姿もあった。
すっかり立派になったものだ。
お迎え部隊に守られて帝国使節団が出発したのを見届けて――。
私は1人、気楽に空に浮き上がった。
解放感!
うーんと背伸びしていると、となりにリトが現れた。
今日のリトはフェレットではなく、白い神子服を着た獣人の少女の姿だった。
「さあ、クウちゃんさま。仕事なのです。2人で結界を張るのです」
「はいはーい」
そう。
残念ながら、私の仕事はまだあった。
私はリトに連れられてファーネスティラの上空に先行した。
そして、以前にかけた結界を解除して、あらためて強力に張り直す。
万が一にも悪魔が入りこまないようにね。
その上で、魔力感知と敵感知。
すでに町にはたくさんの兵士が立ち並んで厳戒態勢を敷いていたけど――。
残念ながら、完全ではなかったようだ。
私は敵反応を見つけた。
しかも複数。
「リトはユイが心配なので戻るのです。任せてもよいですか」
「いいよー」
さて、じゃあ、パパッと片付けますかー。
まずは姿を消して、様子を見よう。
それで悪党だと確認できたら、問答無用で眠らせて、あとはいつものお約束コースといきたいところだけど……。
今回は残念ながらトリスティン送りは無理かぁ……。
なにしろ当事者だしね……。
まあ、どこかのダンジョンに送ろう。
私はまず、1番強い反応のところに向かった。
そこは――。
新獣王国の先行官吏が貸し切っているらしき、宿の一室だった。
「――陛下。――王妃様。――そして、無念に散っていった同胞たちよ。――その仇、すべてを捨てて、最後にこの俺が取らせていただきます」
なるほど、『ローズ・レイピア』でも調査の手を伸ばし切ることができなかったわけだ。
薄暗い部屋の中――。
ひとり、戦斧を磨いてそうつぶやくのは――。
熊族の大男――。
「ナオ様、申し訳ありません。俺は――。あの、ナリユとかいう男の、なんの苦労もせず幸せに生きてきた馬鹿面を見て――。あの男が、これからも平和に生きる姿を想像して――。許すことはできそうもありません――」
ああ、うん……。
私は今さらながら、妙に納得したというか、気づいてしまった。
国を奪い、家族を殺し、すべての尊厳を蹂躙して、自分と仲間たちを奴隷として扱ってきた相手のボスが――。
のほほーんと平和そうに笑っている姿を見たらね……。
そりゃ、ブチギレルよね……。
ナリユなんて、オルデとの婚約も内定していて、幸せの絶頂だろうし……。
自分たちが蹂躙してきた相手のことなんて、考えている様子すら見たことがないし。
僕たちに賠償金は?
とか、ふざけたことを言っていたしね、真顔で。
ただ、それでも――。
1人、決意を固める戦士ダイ・ダ・モンは、新獣王国を支える重鎮だ。
勝手な暴走は許されない。
ダイ・ダ・モンが暴挙に出れば、成功しようが失敗しようが、それこそ全面戦争。
今度こそ、どちらかが滅びるまでおわらないだろう。
私は『透化』を解いて、戦士ダイ・ダ・モンの前に立った。
ダイ・ダ・モンが静かに顔を上げる。
「貴女は――。精霊殿か」
揺るぎない決意に満ちた瞳が、私のことを射抜いた。
「うん。止めに来たよ」
次回は、超久しぶりのシリアスです。




