1251 クウちゃんさまの1月9日の朝
1月9日、朝。
私は今日もいつも通りに目覚めた。
うん。
私は実に規則正しい生活を送ることができている。
さすがはクウちゃんさま!
私なのです!
だけど慌てることはしない。
何故ならば、学院はまだ冬休みなのだ。
なので、ごろごろ……。
私は布団の中で、それなりに怠惰な時間を過ごした。
あーもう、今日はずっとこうしていようかなぁ、なんて思ったりもしたけど、お腹が空いたので起きることにした。
2階のリビングに下りて、1人で朝食を取る。
ヒオリさんたちはいない。
時計を見れば、まだ午前の早い時間。
お店の開店にも、まだ間がある。
工房にいるのかな。
みんな、研究熱心だしね。
私は工房に行ってみた。
すると予想通り、ファーとヒオリさんとフラウがいた。
「みんな、おっはよー」
「およはうございます、店長」
「おはようなのである!」
「おはようございます、マスター」
挨拶の後、ヒオリさんが言った。
「店長、今日はのんびりされていても大丈夫なのですか?」
「ん? なんで?」
「本日からファーネスティラなのですよね?」
ふむ。
私は考えた。
ファーネスティラとはなんだったか。
そして、すぐに思い出した。
ファーネスティラとは、ジルドリア王国の避暑地だ。
悪党がたくさんいたのでゼノと成敗した。
調印式のためにね。
調印式……。
「明日は調印式で、本日は午後から現地に行かれるのですよね?」
「あーうん! そうだよね! もちろん知ってたよ! まだ時間には余裕があるし、私の準備は常に万全だからね!」
「そうですか。それならばよかったです」
「あはは!」
私は笑ってごまかした!
忘れていた、とは言わない!
なぜなら私は、もう思い出したのだから!
幸いにも時間に余裕はあるしね。
お腹が空いてよかった。
今日はお兄さまとランチをご一緒して、最終的な打ち合わせを行う。
予定としてはこうだ。
午後2時に出立。
転移魔法で、ファーネスティラ近郊のダンジョンに出る。
ダンジョン町からは馬車に乗って町に向かう。
夜は晩餐会。
晩餐会にはエリカとユイが出席する。
ジルドリア王国とトリスティン王国の貴族も参加予定となっていて、エリカらしい豪華な催しになりそうだ。
私としては、トリスティン側が参加するのに……。
ド・ミ新獣王国側は誰も参加しないことが気になるけど……。
ジルドリアとトリスティンには長年の友好関係がある。
貴族同士の付き合いも深い。
ジルドリア王国的には、あくまでトリスティンに助け舟を出す形として今回の調印式を取りまとめたことになっているので……。
まあ、しょうがないのだろう。
表面上、ジルドリア王国はトリスティン側なのだ。
ちなみに私は、晩餐会には出ない。
ソード様は白仮面をつけているので食事ができないのだ。
クウちゃんとして参加するのは、明らかに不自然だしね。
ただ念の為、私もファーネスティラで一泊はする。
エリカに部屋は取ってもらったので、リゾートホテルでのんびりとね!
飛び回ることにならなければいいけど……。
ナオは当日の朝、現地入りすることになっている。
式典が済んだら、すぐに帰国の予定だ。
トリスティンとは終戦して、ジルドリアとは友好関係を結ぶとはいえ、心を許すつもりはないという政治的なアピールのようだ。
そのあたりについて、私は口を挟まないことにしている。
難しいことはわからないしね。
ともかくようやく終戦するのだから、まずはそれでよいと思うのです。
と、今日と明日のことをあれこれ考えていると……。
「そんなことよりクウちゃん! 見てほしいのである!」
「ん? どしたの?」
「ふふー。似合っているであるか?」
何かと思えば、襟につけた社章のことだった。
「うん。似合ってるよー」
「で、あるか! 嬉しいのである!」
フラウは誇らしげだ。
「店長、某はどうですか!」
「マスター、私は正しく装着できていますでしょうか? 間違いがあれば教えてください」
ファーとヒオリさんまで社章を見せてくる。
もちろん私は似合っているよと答えました。
この後、エミリーちゃんも出社してきて――。
襟につけた社章を、
「クウちゃん、わたし、ちゃんとつけてきたよ! どうかな!?」
と、興奮した様子で私に見せてくれた。
もちろんエミリーちゃんにも、似合っているよ、と、言ってあげました。
「やったー! 早くセラちゃんたち来ないかなー! 自慢したいー!」
「あははー。そうだねー」
ウェルダンの言ったことは、どうやら正しかったようだ。
私は正直、ここまで喜んでもらえると思っていなかった。
私もまだまだ、人生修行が必要だね。




