表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1245/1360

1245 なにゆえにその人は





「む。君は、私の娘の友人か」

「何をわざとらしく今気付いたフリをしているんですか。まあ、いいですけど」


 シャルさんのお店にいた男性客……。

 それは私の知り合いだった。

 年齢は30代の後半くらい。

 アクション映画の俳優みたいに精悍な顔立ちのお方だった。

 お方……。

 そう、眼の前にいるのは、私のお友だちセラのお父さん。

 なんと皇帝陛下だった。


「で、何をしているんですか?」


 私は繰り返してたずねた。


「見ての通り、バーガーを食べているだけだが?」

「あー。もう! それはわかりますけど! どうしてこんな、裏通りのパッとしないみすぼらしい店にいるのかと聞いているんです!」

「クウ、見ろ。パッとしないとかみすぼらしいとか言われて、店員が対応に困っているぞ」


 ふと見ればとなりにシャルさんがいて、目が合うと「えへへ」と笑われた。


「こほん。失礼しました」


 私はあらためて気持ちを落ち着けた。


「で、私のお友だちのお父さんは、どうしてここにいるんですか?」

「見ての通り、ただの散歩の途中だ」

「いいんですか!?」

「安心しろ。君にもらった指輪はつけている。それに――」


 その時だった。


 バン、と、勢いよくお店のドアが開いた。


「頼もう! ついにこの時が来たか! くくく。今度こそ、ちゃんとバーガー屋として営業をしているようだな! バーガー大会参加者シャルロッテよ! 我こそが食の求道者ドン・ブーリ! 今度こそ尋常に、いざ勝負!」


 現れたのは、以前、シャルさんがゴスロリ姿で「しゃるーん☆」していた頃に勝負を挑みに来た中年の食通男性だった。

 その時にはシャルさんの「しゃるーん☆」に困惑して帰っていったけど……。

 また来たようだ。

 あと先日、姫様ドッグ店で暴れていた気もするね……。

 本当に懲りない人のようだ。


「ふん! その顔は、いきなり現れた私が、いかに食通の雰囲気があろうと、実際には何様なのかと疑っているな! ならば見せてやろう! 見よ! これこそ、私がヨ・シノーヤ料理大会で優勝した証! 牛の刻印がついた名工スキーヤの包丁! ぐはっ」


 懐から包丁を取り出して掲げたところで――。

 どこからともなく現れた黒頭巾の人に気絶させられて――。

 彼は連れて行かれた。

 いきなり刃物を振り上げては、危険人物扱いされるよね。


 お店に静寂が流れる。


「こほん。えっと、話を戻しますね」


 私は気にしないことにした。


「戻す必要はない」

「どうしてですか?」

「俺は食べおわった。もう出ていくからだ」


 陛下が席から身を起こした。


「店員、これは金だ。釣りはいらん」

「ありがとうございます。って、金貨!?」


 驚くシャルさんを背に、陛下は悠然とお店から出ていった。

 まあ、うん。

 そういえば陛下は、若い頃は町で飲み歩いて喧嘩していたとか言っていたね。

 町歩きには抵抗もないのか。

 立場的には危険だろうけど、見たところ影に黒頭巾が付いているようだし、私が心配することでもないのかな。

 黒頭巾は、まさに忍者。

 ナオの親戚であるサギリさんが隊長を務める帝国でも屈指の精鋭部隊だ。

 任せて不安はない。

 それよりも……。

 くく……。

 これは良い弱味を握れたのかも知れない。

 お説教される機会は、随分と減ることになりそうだね。

 素晴らしい。


「ねえ、クウちゃん! 今のお客さんって誰!? 私、金貨もらっちゃったけど、これって返さなくていいのかな!? 後で返せとか言われないかな!?」

「言われないと思うよー」

「そっかー。やったー! もう今月は仕事しなくていいね、私!」


 シャルさんが無邪気に飛び跳ねて喜ぶ。


「ねえ、ボンバー。このお店を元に戻すのって、いくらくらいかかったんだろ?」


 私はボンバーにたずねた。


「金貨30枚はかかっていますね」

「そかー」


 約300万円かあ。

 リフォームって、お金かかるよねえ……。


「そう言えばさ、ボンバーたちってディニシア高原のダンジョンの再調査には行かないの? 年明けにあるって聞いていたけど」

「クランとしては難しいです。商隊護衛の依頼が同じ時期に多く入ってしまいまして。ただ個人的には行きたいので、私とタタの2名だけでも参加できないものか、ちょうど今、タタが冒険者ギルドで相談しているところです」

「へー。そんなにやる気なんだー?」

「ええ。ディシニア高原は、光の地なのです。私は、あの時、あの場所で見た輝きを、今でも忘れることができません。なので、もう一度――」

「どうしたの?」

「失礼しました。このことは秘密なのでした。いくらクウちゃんさんのたっての願いでも、光の乙女の話をするわけにはいかないのです」


 たっての願いをした記憶はないけど……。

 そういえばボンバーは、私がディシニア高原を浄化した時、現場に居たのだった。

 聖女ユイちゃんの姿も見ている。

 そしてユイの口から、その時のことは口外禁止と言われている。


「私は信仰心などたいしてなく生きてきた人間ですが……。光の乙女の姿だけは、決して見間違うことはないでしょう。まさにこれこそが信仰なのかも知れませんね……」

「それって、聖女様のことだよね?」

「もちろん、で――」

「いいの? 肯定しちゃって?」


 言葉を遮って私が確認すると、ボンバーが止まった。


「どうしたの?」


 たずねると、ボンバーは急に全身を震わせた。


「私はまさか、しゃべってしまったのですか!? 光の乙女との聖なる約束を破ってクウちゃんさんにペラペラと! 私は、おわりですね……」

「今のは適当に言っただけだよ? ただの当てずっぽうだから安心して。私はなんにもわかっていないからね?」

「そうですか! それはよかった!」


 まあ、うん。どうでもいいので適当に流すことにした。


 ちなみにユイとボンバーは帝都でも会っている。

 ハッピーさんの時だ。

 私は一度もハッピーできなかったけど……。


 この後、シャルさんは普通にバーガーを作って持ってきてくれた。

 仕事しなくていいとか言っていたから不安だったけど……。

 完成品はちゃんと、お肉の焼き加減は完璧でレタスはパリパリで、さっぱり味のソースが全体を優しくまとめていて上出来だった。

 私は、美味しくいただくことができました。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まあ大体安定している帝国ですが、今心配なのは皇帝の体重でしょうかね。普段の食事に加えてバーガーを食べているのでしょうし、執務に追われて充分に運動できているか怪しいし。お子さんの年齢を見てもそう若くもな…
なにやんてんだあの人はw
ヨ・シノーヤにスキーヤねぇ…。それって牛どn…ゲフゲフン、なんでもないです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ