1244 しゃるーん☆はうす、ナウ
シャルさんと言えば、しゃるーん☆はうす。
お店をピンクに塗って……。
ゴスロリ姿のシャルさんがとびきりの笑顔で接客して……。
大人気のメイド喫茶と化していたけど……。
お客さんが増えすぎて、シャルさんは燃え尽きて……。
最後は弟のボンバーが紳士の装いで、シャルさんに代わってお店に立って……。
その大きな身体で、「しゃるーん☆」とお客さんをもてなしていた。
私の記憶はそこで止まっている。
だって、さ……。
関わりたくないよね……。
うん……。
でも、気にならないかと言えば嘘になる。
気になる。
しゃるーん☆はうす、は、あれから時間も過ぎて、今、どうなっているのか……。
私はドキドキしながらお店に向かった。
そして、到着した。
しゃるーん☆はうす、ナウ。
その現状は――。
私はお店の看板を読み上げた。
「……バーガー6番」
私は、シャルさんと出会った時のことを思い出した。
あの時、シャルさんは、バーガー2番というお店を1人で切り盛りしていた。
今、私の目の前にあるシンプルなバーガー屋さんには、
確かに「バーガー6番」とある。
「退化じゃん! 劣化じゃん!
バーガー大会に出たり、黄色になったり、メイド喫茶になったりしてきたのに!
どうして2番から6番になっているのさぁぁぁぁ!
せめて1番! 1番だよねここは!」
私は叫んだ。
1人で叫びましたとも。
さすがの冷静沈着なクウちゃんさまも、ツッコまずにはいられませんでした。
たとえば6番通りにお店があるから、とかならわかる。
だけどここは6番通りではないのだ。
そもそも元は、2番だったわけだし。
喚いていると、お店からシャルさんが出てきた。
出会った時と変わらない、頭に三角巾を巻いた可愛らしいお姉さんだ。
「クウちゃん、新年おめでとー。どうしたの元気な声を出してー」
「シャルさん、どういうことですかこれは!」
「え。何が?」
「何がじゃありませんよ! お店ですよ!」
「あー。うん。元に戻しちゃった」
てへ、とシャルさんが笑う。
「元に戻ってませんよね!? どうして6番なんですかー!」
「ロクに働いていないからかな? 6だけに」
「なるほど。じゃなくて、上手いこと言わなくていいですからー!」
「え。上手いこと言わなくていいの……?」
「え」
「いいなら言わないけど……」
「あ、すみません」
私は冷静になった!
上手いことは、言った方がいいよね、うん。
お店の中に入った。
お店の中もすっかり昔に戻っていた。
また工事費、かかっただろうね……。
シャルさんの実家は、超お金持ちだから平気だろうけど。
お店にはボンバーたちがいた。
「こんにちは、クウちゃんさん。今日もお元気でお可愛らしいですね」
いきなりボンバーに遭遇して、うんざりしたけど……。
新年なので挨拶だけはちゃんとしておいた。
と思ったら、すでにボンバーとは会っていたらしい。
うん。
ボンバーのことなんて即座に忘れる私の頭脳は実に正常です。
シャルさんは厨房に行ってしまった。
私は、やさぐれてテーブルに膝をついて、ボンバーを睨みつけてたずねた。
「で、なんで6番なの?」
「いえ、我々ボンバーズは間違いなく若手で1番ですが」
「ボンバーズのことじゃなくて、ここ!」
私はテーブルを叩いて訴えた。
「ははは。クウちゃんさん、ここはロック氏の店ではありませんよ」
「あーもう!」
どうして、どいつもこいつも上手いこというのか!
ロックさんの店は姫様ドッグ店だよね、知っているよそれくらいは!
「タタくんはどこ!?」
「タタなら冒険者ギルドに出かけていますが」
「あーもう!」
唯一の常識枠がいないとは!
「で、このお店の名前が6番になった理由は!?」
私はボンバーにあらためてたずねた。
「いいですか、クウちゃんさん」
するとボンバーが、妙にかしこまった態度で言った。
「なによお!」
「姉上のやることに、意味があると思いますか? ただの思いつきです、確実に」
「あーもう!」
確かにその通りだよね!
私がもがいていると、シャルさんが再びやってきて、
「はい。どうぞ」
と、目の前に水を置いてくれた。
「ありがと」
私は遠慮なくいただいた。
ごくごく。
それで少し落ち着いた。
「シャルさん、メニューはどうなっているの?」
「野菜バーガーと肉バーガーがあるよ。野菜バーガーは昔からのバーガーで、肉バーガーは肉をたくさん挟んだヤツね」
「肉バーガー、復活させたんだ」
「お客さんからの要望が多くてねー。それにモスさんも喜んでくれるし」
えへへ。と、シャルさんは頬に手を当てて恥ずかしそうに言った。
モスさんはドワーフの時計職人。
シャルさんとは種族を超えて仲良しになった。
今でも仲良しのようで何よりだね。
「じゃあ、野菜バーガーをお願い」
「はーい。あとクウちゃん」
「うん。なぁに?」
「他のお客さんに迷惑だから、叫んじゃダメだよー?」
にっこり言われた。
よく見れば、お店には一般のお客さんがいました。
1人だけだけど。
でも、うん。
1人でも、お客さんはお客さまだよね。
ごめんなさい。
って。
一般のお客さん!?
いや、うん。
このお店に普通の客がいるの!?
って意味で驚いたわけではありません。
深めに帽子をかぶって、寡黙にバーガーを食べていた精悍そうな男性――。
「あのお……。こんなところで何をしているんですか?」
話しかけると、こちらに顔を向けてくれた。
うん。
間違いなく私の知り合いだ。




