1243 その新名物は……。
「おおおお! これは! ふっくらほふほふ! なんと柔らかく、ディシニア小麦の甘味が口の中に優しく広がるのか!」
くくく。
クウちゃんだけに、くくく、ですよ、これは。
9かける9かける9なのです、数が多すぎて私には計算できませんが。
まんじゅう、成功しました。
蒸した生地は、まさにウェルダンが感動している通り、ふっくらとした見事なまんじゅうへと生まれ変わってくれました。
社員の人たちも、これこそディシニア小麦のための調理法だと感動してくれている。
「しかし、確かに素晴らしくはあるが、やや淡白ではあるな……」
ウェルダンがもっともな感想を言う。
今回作ったのは、ただ生地を丸めただけものだ。
普通はクリームやアンコを入れるしね。
私はそのことも教えてあげた。
「それはまさに、無限の可能性ですね! 早速、研究しないと!」
私の話を聞いた社員たちが興奮した声をあげた。
「うむ! おまえたちはすぐに動け! まんじゅう、我が商会のものとするぞ!」
「「「おー!」」
ウェルダンの号令で社員たちは即座に動いた。
有能な人たちのようだ。
「言っとくけど、まんじゅうは私のオリジナルではないからね? 聖国にあるものだし」
「あると言っても有名なものではなかろう? 私は見たことがないぞ」
「まあね。聖国でも、スイーツはケーキ類が中心だしね」
「それは知っている。聖女様のお好みだろう? 聖国の菓子職人は、聖女様のために日々情熱を賭けてケーキ類を作っていると聞く」
「すごいよねー」
和食大好きなユイだけど、スイーツについてはケーキ類が好物なのだ。
聖国の食文化は、思いきりユイの影響を受けている。
なのでまんじゅうは、せっかく紹介されても、流行っていなかった。
「だからこそ、我らに商機はあるということだな」
ウェルダンが不敵に微笑む。
と思ったら、眉をしかめた。
「どうしたの?」
「しかし、本当にウィートのヤツも上手くやりおって。これだけの商機を、あんなヤツと共有せねばならないとはな……」
「あはは。まーまー、儲かればいいでしょ」
「無論、おまえについてのロイヤリティはちゃんと払わせてもらうが」
「あー。私はいらないから」
「そんなわけにはいくか」
「あのさ、私が今、いくら持ってると思う? これ以上ためこんだら、帝都の経済に影響が出るくらいの量だよ」
「……本当にいらないのか?」
「いらないー」
「なら、いいが。あとから文句を言ってきても知らんからな?」
「言わないよー。文句を言うほど困るなら、別のところに泣きつくから平気だってー」
幸いにも私には、泣きつける場所が多い。
ユイちゃんナオちゃんエリカちゃんを始めとして、
陛下とかフラウとかね。
どこに泣きついても、多分、なんとかしてくれるだろう。
なんとかならなくても……。
まあ、うん。
はい。
ゼノちゃんにちょっとだけオネガイしてね……。
記憶をいじってしまえばね……。
と、それはやっちゃダメだね! なしなし!
「好きに儲けてよ。その代わり、エミリーちゃんのことはお願いね」
私は気持ちを切り替えて明るく笑った。
ディシニア高原の未来も明るくなりそうでよかった。
ウェルダンには頑張ってもらって、まんじゅうを名物にしてほしいものだ。
そうすれば自然と小麦も売れるだろうしね。
話に一段落ついたところで、オダンさんが帰ってきた。
エミリーちゃんの件については快く了承してもらえた。
ウェルダンが言っていた通り、オダンさんは普通の子と同じようにエミリーちゃんを扱ってほしいと私に言ってきた。
エミリーちゃんの口座を勝手に作っちゃう件は……。
秘密にしておこうと思ったけど……。
迷った末、やっぱり言うことにした。
オダンさんは当然のように反対してきたけど、万が一の時のために、という私の言葉に最後にはうなずいてくれた。
「本当に、エミリーのことを想ってくれてありがとう」
深々と頭を下げられてしまった。
いえ、はい。
私こそ、勝手に決めちゃってごめんなさい。
空気がしんみりしてしまったけど、同じ場所にはウェルダンがいた。
「オダン氏よ、頭を下げている暇はないぞ! これはさらなる発展の機会なのだ! すぐに幹部会を開いて次の動きを決めよう!」
「そうだな。俺達は飛躍していくのだものな」
「うむ! 我らの商会こそが帝国の食の未来を支配するのだ! では、またなクソガキ! アイデアが浮かんだら、また教えるのだぞ!」
「はーい」
また支配とか、人に聞かれたら問題にされそうな発言を言って。
と私は思ったけど、ツッコミは入れなかった。
「じゃあ、クウちゃん、またな。ゆっくり会話できなくて済まない。エミリーのことは、本当に心から感謝している」
「ううんー。気にしないでー」
ウェルダンは、オダンさんと共に慌ただしく行ってしまった。
用事も済んだし、私も会社から出た。
時刻はいつの間にか、お昼を過ぎていた。
冬の太陽は、すでに少し傾いている。
でも今日は、まだまだ自由だ。
次はどうしようかなー!
お腹も空いたし、いつもの『陽気な白猫亭』……。
ううん。
シャルさんのバーガー屋に行ってみよう!




