表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1240/1361

1240 1月7日のこと





 1月7日、朝。


 ラシーダをお見送りした後、私はすぐに我が家に帰った。

 帰ると、まだ始業には早い時間なのに、お店の前にエミリーちゃんがいた。

 工房のエプロンをつけてお店の前を箒で掃いている。

 エミリーちゃんは真面目で、実によく働く。

 今年でやっと10歳になるまだ子供なのに、すでにお店の主戦力だ。


「おはよ、エミリーちゃん」

「おかえりなさいませ! おはようございます、店長!」

「今日は早いねー」

「はい。今日はなんだか、すごく元気で。家に居ても手持ち無沙汰だったので。店長は昨日から大変でしたよね。お疲れ様でした」

「ありがとー」


 エミリーちゃんは公私をしっかりと切り替えることができる。

 仕事の時は、私のことを店長としか呼ばない。

 ウェルダンの厳しい指導の賜物だ。

 ウェルダン……。

 最初はただの悪役その1かと思っていたけど、何気に付き合いも長くなった。

 今ではすっかり身内のひとりだ。

 オダンさんと一緒に立ち上げたオダウェル商会には、私も大いにお世話になっている。

 特に去年の最強バーガー決定戦では、食材の手配から会場のセッティングまで、ほとんどのことを引き受けてくれた。


「そういえば……」


 オダウェル商会に合わせて、私はふと思い出すことがあった。


「店長、どうかされたのですか?」

「あ、ううん」


 ひとつはエミリーちゃんのことだ。

 エミリーちゃんはオダンさんの方針で、ずっと無給のお手伝いだった。

 だけど10歳からは、ちゃんと働けているなら給料を払ってもいいことになっている。

 もちろんエミリーちゃんはちゃんと働けている。

 給料は、いくらにするのが妥当なのか。

 私が勝手に決めるのは、色々と問題の発生する気がする……。

 ウェルダンとオダンさんに相談するべきだろう。


 もうひとつは――。


「前にオダウェル商会に預けた小麦……。ディシニア小麦っていうんだけどね。どうなっているのかなぁと思って」

「その小麦なら研究していますよ」

「そうなんだ?」

「はい。お父さんから少しですが聞きました。普通の小麦よりも甘いのでスイーツに使うのが適切ではないかと言っていました」

「おー。そうなんだー。それなら、うまいこと特産品ができるかもだねー」


 ディシニア小麦は、去年まで瘴気に満たされていた土地――。

 ディシニア高原で栽培された小麦だ。

 立派に育ったのだけど、呪われていた土地とあって、なかなか買い手がつかず、売り手のヒトは大いに困っていた。

 一応、高原の呪いはユイが祓ったことになっている。

 それを公表さえすれば、小麦は大いに聖女様の御意向で売れるのだろうけど……。

 それは秘密とされていた。


 恐ろしいことに、誰一人、居合わせた人たちは口を割っていない。

 荒くれ者の冒険者ですら、です。

 ユイちゃんさんの威光、恐るべし、なのです……。


 そして実は、瘴気を祓ったのは私だ。

 ディシニア小麦は、私の魔力に触れた土地で育った小麦なのだ。

 私としては、それが売れないというのは悲しい。

 なので、協力を申し出ていたのだった。


「ごめん、エミリーちゃん。今日は私、お店にいる予定だったけど、気になるからオダウェル商会に出かけてもいいかな?」

「はい。どうぞ。こちらはお任せください」

「うん。ありがとねー」


 少し休憩してうちの工房の開店時刻になったくらいで、行ってみることにした。


 オダウェル商会は、うちからそれほど遠くない。

 中央広場を経由した大通りに、立派な本社ビルを構えている。

 すごいよね。

 設立1年ですでに自社ビルなのだ。

 まあ、といってもそれは、ウェーバー商会のサポートがあればこそだけど。

 オダウェル商会は、設立してすぐにウェーバー商会の傘下に入った。

 そのおかげで最初から信用は高いし、大きな取引もできたのだ。

 ちなみにオダウェル商会だけでなくて、姫様ドッグ店に姫様ロール店も、今ではウェーバー商会の傘下に入っている。

 うん、はい。

 私が関わったお店は、すべてウェーバーさんに取り込まれたね!

 まったく、手が早いとは思うけど……。

 ただ、どのお店も傘下に入ったことで、ますます勢いを増しているし、店長さんたちも楽しく仕事をしている様子だ。

 かくいう私も、ウェーバーさんには一般向けのぬいぐるみ制作をお任せして、そのライセンス料で大儲けをさせてもらっている。

 まさにウィンウィンなので文句はないのです。


 私はビルの中に入った。


「あのお……」

「いらっしゃいませ、マイヤ様。本日はどのようなご用向きでしょうか」


 カウンターに近づくと、受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれた。


「すみません、ウェルダンかオダンさんいますか? 私用なのですけど……」

「少々お待ち下さい」

「はい」


 すぐに確認に向かってくれた。

 私は大人しく、ロビーのソファーに座って待つ。

 ちょっと緊張。

 なにしろオダウェル商会は、いつの間にか普通の会社みたいだ。

 いや、うん。

 普通の会社どころか、すでに一流企業なんだけどね……。

 私、思う。

 私、今、一流企業にいるのかぁ……。

 前世の就活では相手にもされなかった一流企業に……。

 …………。

 ……。

 うう……。

 うわ……あああああ……。

 私の頭が、どんどん沸騰していき、ついには爆発しようとした刹那――。


「マイヤ様」


 受付のお姉さんに呼ばれて、私は我に返った。

 気づけばお姉さんが目の前にいた。


「社長がすぐにお会いになるそうです。ご案内させていただきます」

「あ、はい」


 この私が、社長との面談かぁ……。

 異世界、すごいね……。

 緊張しつつ、私はお姉さんの案内を受けた。

 すぐに気づいたけど。

 社長ってウェルダンだよね。

 緊張して損した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 〉緊張して損した 皇帝とその一家に会ってる娘が変な事を気にしますねー。時期精霊の王なのにw
[一言] 危うく一流企業が、グフンクウちゃんがテンパって爆発するとこだったw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ