1239 昼間にゾンビ……?
お昼のふわふわ工房にて。
ランチ休憩中のエミリーちゃんに代わって私が店番をしていると――。
カランカラン。
心地よく鈴の音を鳴らしてドアが開いて――。
「クウ、ちゃぁぁぁん……」
「うわああ! ゾンビー! って、マリエかぁ」
なんか、うん。
外は明るく快晴なのに、どんより闇を背負ったお友達が現れて、私はあやうく椅子から転げ落ちるところなのでした。
「かぁ、じゃないよお。昨日はよくも置いていってくれたよねぇ。うらめしやぁ」
「幽霊!?」
「ちーがーいーまーすー」
「マスター、お客様も驚いていますので、まずは応接室にどうぞ」
「あ、うん。そだね」
ファーに冷静に言われて気付いた。
お店には、普通のお客さんが4人もいるんだった。
というわけで。
心配して奥から出てきたエミリーちゃんに大丈夫だよと笑いかけて、私はマリエと共にお店の奥の通路から応接室に入った。
「……で、えっと、ラシーダとは上手くいった?」
「クウちゃん」
睨まれた!
その後でマリエは深くため息をつくと、
「ラシーダ様は、ちゃんと大宮殿の客室で一泊なさいましたよ。明日の朝には護衛を付けて強制送還とのことです」
「かまー。かまかまかまま」
「……なにかな、それは?」
にっこり睨まれた!
「いえ、あの。場を和ませようとカマ先輩のマネでね?」
そかー。それはよかった、と。
「そういうのはいいからね?」
「あ、はい」
ごめんなさい。
「ラシーダ様は来年、帝都中央学院に入学してこっちに来るから、その時には先輩として面倒を見てあげてね、蒼穹のスカイさん」
「いやそれはさすがに、幻影のミストさんの役割ですよね?」
だって仲良しだし。
「残念だけど私、帝都中央学院の生徒じゃないので」
「頼んであげるよ! 陛下に! きっと、無試験で編入できると思うよ!」
「ふふ。それは遠慮しておくよ。裏口入学なんてよくないよね」
「たまにはいいと思うよ!」
「ふふ。ダメだよ、不正は」
「あははー。まあまあ、そう言わずにー」
「とにかくクウちゃん。明日の朝はラシーダ様のお見送りだからね? 大宮殿から迎えの馬車が来るから起きていてね」
「はい。ちなみに今日はどうしているの? マリエは一緒じゃなくていいの?」
「昨日は夜遅くまで一緒だったよ?」
「うん。そうだね」
晩餐会にも出ていたしね。
「ラシーダ様のお相手は、今はセラちゃんがしてくれていると思うよ」
「セラも大変だ」
「蒼穹のスカイさんが手伝ってあげないとね」
「あはは。いえいえ、そこは幻影のミストさんにお譲りしますとも」
「お譲りされなくても、今日もこれから行く予定だよ」
「そかー。頑張ってねー」
「というわけで、続けてクウちゃん。もうすぐ馬車が来ると思うから、蒼穹のスカイさんとして準備をよろしくね?」
「え?」
「馬車はちゃんとここに来てもらうように頼んだから。任せて。当然だよね」
さらに、にっこりされた!
「私、今日はお店を開けているんだけど……」
「クウちゃん、お店に要る?」
「要らない?」
「ふふ」
「ふふ」
あははー。
結局、マリエと一緒に大宮殿に行くことになりました。
工房にはフラウとヒオリさんもいるし、お店のことに問題はないしね、実際。
ラシーダとは楽しく遊べた。
私たちとだけなら、素直でいい子なんだよね。
第三者が入ると、幻影のミストさんへの敬愛が爆発して暴走しがちだけど。
そして、夕方。
私は帰ろうとしたけど、帰れなかった。
皇妃様から夕食に誘われたのです。
どうしても、料理長のバンザさんが私に食べてほしいということで。
夕食は、ずらりと料理人に並ばれて、大変なプレッシャーの中で取ることになりました。
私は頑張ってキチンと残さずにいただきました。
「美味しかったですよ」
そう伝えると、料理人のヒトたちに泣かれて困ったけど。
バンザさんなんて本気の号泣をしていた。
まあ、うん。
早めに解決できてよかった。
さらにはその日は、大宮殿にお泊りとなった。
もちろんマリエも一緒です。
で、翌朝。
たくさんの護衛に囲まれたラシーダをお見送りして……。
「おわったぁ」
私はマリエと共に大きく息をついたのでした。
こうして本当に、新年会はおわった。
明日からこそ、平和な日常なのです!




