1237 新春対決? ロックvsマリエ
「お、おう」
叫ばれたロックさんが、勢いに押されて思わずうなずいていた。
ロックさんは、どうせまたいつもの軽ノリで、悪気なく余計なことを言ったのだろう。
「ふふーん。わかればいいのです」
ラシーダが満足げに、小さな胸を堂々と大きく張った。
まわりにいた人たちが静かにざわめく。
おい、世直し旅と言ったぞ……。
最近、噂には聞いたぞ……。
プリンセスガード、幻影のミストとは……まさか……。
あの少女のことなのか……?
そんな中、ラシーダがさらに余計なことを言う。
「そうだ! いっそ、庭に出て手合わせをしてみてはいかがですか? そうすれば幻影のその強さを骨身に染みて理解できるでしょう! いいアイデアですよね、お姉さま! 冒険者との格の違いを見せつけて下さい!」
まわりにいた人たちがそれに賛同する。
「おお、それは面白そうだ」
「Sランク冒険者と皇女親衛隊の対決か、確かに興味深い」
「おっと、急いで賭けの準備をせねばならんな!」
みんな、大いに乗り気だった。
マリエは返事をしなかった。
背筋を伸ばした綺麗な姿勢のまま、その場で静かに微笑んでいる。
私にはわかる。
それは、空気の極意の構えだ。
気持ちもわかる。
うん。
消えたいよね。
だけどさすがに衆目を集める中での発動は厳しいだろうけど。
「クウちゃん」
「あ、うん」
ぼんやりしていると、セラに腕を引っ張られた。
私は急いで現場に向かった。
「まったく。何をしているのー」
私がぷりぷりと間に入ると、さらにラシーダが、
「セラフィーヌ様! それに蒼穹のスカイ様! ふふ、これで貴方には、万に一つの勝ち目もなくなりましたね! プリンセスガードと伝説の皇女様が揃いましたよ!」
と、ロックさんに人差し指をぶつける。
「……クウ。……おまえ、本気で何にでも関わってくるな」
「あはは。いやあ、まあね」
我ながら困ったものです。
「というかロックさんこそ、けっこう不思議と関わってくるよね?」
「なんでだろうな」
ロックさんが肩の力を落とす。
「あはは」
「は?」
笑ったらジト目で睨まれた!
「とにかく知り合いなら、早くこのお嬢様を何とかしてくれや……」
「あ、うん。そうだね。ごめんね」
私は悪くないけど、思わず謝ってしまった。
まあ、うん。
仕方ないか。
「はいはーい!」
私は、パンパンと手を叩いて周囲の人たちに言った。
「すみません、この子、ジュースと間違えてお酒を飲んじゃったみたいで、物語と現実の区別がつかなくなっちゃってるみたいなんです」
「ええ。そうですね。困ったものです」
私の言葉にセラが同意する。
緑魔法『昏睡』!
私はラシーダを眠らせた!
そして、抱きかかえた。
「あ、寝ちゃったみたいですね。ちょっと休ませて来ますね」
あははー。
あとは、とにかく笑って誤魔化しました!
まわりにいた人たちは、セラの口添えが功を奏したのだろう――。
簡単に納得して、すぐにその場から離れてくれた。
「わけはわかんねぇが、助かったわ。じゃ、あとは任せたぞ、蒼穹のスカイ様」
ロックさんが頭をかきながら言った。
「スカイじゃありませんー! それはただの他人の空似ですー! そもそもその人物はフィクションですー! 実在の人物や団体などとは関係ありませんー!」
「うるせぇな。わかったわかった。あー、悪い悪い。クウちゃんだけに、くう、クウちゃんだけに、くう。クウちゃんだけに、くう」
「もー! それ、使うなー! クウちゃんは私なのー!」
「わははは。そういえばビディにも使いすぎるなって言われてたわ。できるだけたまにしか使わないから安心しろ」
「できるだけとかたまにもいらないんですけど? 禁止なんですけど?」
「いや、ギャグの時にはいるだろ?」
「それはそうか」
うむ。
私は納得した。
ロックさんが退散してから、私はマリエに笑いかけた。
「マリエもお疲れ様」
「あああ……。助かったよぉ、クウちゃん。もうどうしようかと思ったよー」
「あはは」
「あのクウちゃん……」
「どうしたの、セラ?」
気のせいか、なぜかセラの顔色が悪い。
「クウちゃんだけに、くうは……。ギャグの時以外には禁止なのですか?」
「あ」
思わず「はい」と言いかけた私ですが……。
それだとセラが可哀想なので、仕方なく違うよと言ってあげた。
この後はパーティー会場を離れて――。
落ち着いたところでラシーダを起こして、お説教しました。
プリセスガードのことは秘密。
そう約束したよね?
どうして叫んじゃったの?
ラシーダは思い出して、ちゃんと反省してくれました。
別室にいる内、新年会はおわった。
私は疲れた。
いったん家に帰って仮眠しよう。
晩餐会までには、まだしばらくの時間があるしね。
と思いつつ会場に戻ると……。
満腹になったイルが、ふわふわと空中に浮かんで爆睡していた。
私はため息をついた。
イルを送り届ける仕事も、まだあるんだったよ。




