1236 皇太子サマに新年のご挨拶
私は1人になった。
セラとラシーダはどうなったのかなぁ……。
パーティー会場を見回してみると……。
いた。
セラが微笑ましく見守る中――。
ラシーダに抱きつかれてすりすりくんくんされているマリエが、とっても乾いた砂漠のような笑顔を浮かべていた。
マリエvsセラの第何十ラウンド目かの勝負は――。
見事、空気の極意を打ち破って、セラの勝利でおわったようだ。
よかったね、ラシーダ、再会できて。
マリエもよかったね!
ハッピーエンドだね!
視線に気づかれる前に、私は人混みの向こうに消えた。
さあ、私はのんびり、美味しいものでも食べようかなー、と思ったけど。
ここで気づいた。
まだメイヴィスさんたち冬の旅の仲間に挨拶していなかった。
私は急いでみんなを探して新年の言葉を交わした。
もちろん、お兄さまにも。
「お兄さま、新年おめでとうございます」
「ああ、おめでとう、クウ。今年も何かとあると思うが、よろしく頼む」
「はい。ところで、お兄さま」
「ん? なんだ?」
「肉は、もうお好きになられましたか? 憎い肉を」
「ははは。なあ、クウ」
「はい。肉は、憎いですよね、本当に」
年末のモルド旅行の時、お兄さまは肉を憎んだのだ。
私はそのことをぶり返した!
「ははは! 貴様のおかげでな、カラアゲは美味しくいただいたぞ」
「好きになったんですね。おめでとうございます」
「なあ、クウ」
「はい。なんですか、お兄さま」
「学院だが、2年生からの勉強は厳しくなるぞ? 後輩もできるのだ。異国の王女として恥をかかぬようにな」
「う」
「あと、学院の仕組みに変更はない。貴様、よりにもよって、学院長に命令するなどという私的なルートを使ってとんでもないことをしようとしたそうだが、却下だ。いいな? エリート育成には競争と共闘は絶対に必要なのだ」
「……どこからその話が?」
まさかヒオリさんが裏切った!?
「安心しろ、学院長への追及はしていないし、口を割ってもいない」
「なら、えっと……」
「フ。学院で、来年度から大きな変更があるとかで騒ぎになっていたからな。内容を聞いて、すぐに俺はピンと来た。先程のはカマだ」
「なるほどー! 私、引っかかりましたかー!」
「その通りだ」
「くううう。って言ってもいいですか?」
クウちゃんだけに。
「それで貴様、今のことを将来、エミリーにも言うのか? 私が私的にルールを変えて、学院教育を骨抜きにしてやりました、と」
「う、それは……」
くうううう……!
言えません……。
エミリーちゃんには、確実に苦笑いされる……。です……。
「わかったな? 勉強は頑張れよ。そして仲間と共に競い合うことを経験しろ。それは俺達のような存在にとって、学院でしか経験できないことだ」
「は、はい……」
このまま完勝できると思ったのに、やり返されたぁぁぁぁぁぁ!
悔しいです……。
「なあ、クウ。今年もよろしく頼むぞ」
「もう、負けましたよお」
「何を言っている。勝負などした覚えはないぞ。ははは!」
笑って、お兄さまは去っていった。
ともかく、挨拶はおわった。
と思って、
「はあー。まあ、いいやー。おわりおわりー。挨拶終了ー」
のんびり背伸びをしていたら……。
「ほほう。この国の皇帝に挨拶もせず、おわったとは良い心がけだな」
「新年明けましておめでとうございます、クウちゃん」
陛下とバルターさんのことを忘れていたあ!
私は急いで2人にも挨拶した!
そして……。
よくやく挨拶がおわって一息ついていると……。
「クウちゃん、お疲れ様です」
セラが来た。
「セラもお疲れ様。ミッション成功していたね」
「はい。苦戦しましたが、なんとか。マリエさんはすごいですね。魔法でもないのに景色に完全に溶け込んでいました」
「あはは」
お母さん直伝っていうけど、マリエの空気の極意はまさに奥義だよね。
私ですらわからなくなるし。
「クウちゃんは、もう何か口にいれられましたか?」
「ううん。これから。セラは?」
「わたくしもです」
じゃあ、一緒に行こうか。
私たちはカラアゲを食べに向かった。
その途中のことだった。
「はああああああああ!? マリエお姉さまがただの女の子ですって! 貴方、ロックとか言いましたか! 最高位の冒険者だというのに見る目がありませんのね! 瞼の裏にたまった泥はよく落としておきなさい! マリエ様こそは皇女殿下の世直し旅のお供! 皇女殿下をお守りする絶対無敵の盾! プリンセスガード! 幻影のミストその人なのですよ!」
と……。
ラシーダが、それはもうよく通る大きな声で……。
私が表に出したくないことベスト5には入る北の旅での適当設定を……。
思いっきり叫んで語った……。




