1231 新年会!
ううう……。やってしまったぁ……。
このクウちゃんさまともあろう者が、本当に不覚だった。
どうして素のままの私で、オルデのところに行ってしまったのかぁ!
どう考えても行く理由がない!
なにしろほとんど他人ですし!
オルデも困惑していた!
私も困惑した!
どうしていいのかわからなくて、まともに会話もできず、よりにもよって「精霊の指輪」を渡してしまった。
精霊の指輪は、シルバーリングをベースに、オートガードにオートキュアポイズンの効果を付与した私特製の超レアな魔道具。
1日1回とはいえ、あらゆる攻撃と毒を防ぐのだ。
皇帝一家にユイにエリカにナオを始めとした、親しい相手にしか渡していない。
私との絆を示した特別な品なのです。
さすがに、ばらまくものではないと私も理解している。
まさに、やっちまったぁ!
なのです……。
とはいえ、今更やっぱり返してとは言えない。
まあ、うん。
まあ、いいか、の心意気で、過去へと流してしまうことにしました。
ともかくオルデは落ち着いていた。
私の励ましは必要なさそうだった。
あとは陛下たちにお任せして、大丈夫そうだ。
パーティー会場に戻ると、すぐにアンジェが声をかけてきた。
「クウ、新年おめでとう」
「おめでとう、アンジェ。今年もよろしくねー」
アンジェとは今年に入ってからすでに会っているけど、公の場ではあらためて挨拶するのが帝国のマナーなのです。
「よろしくね。本当は、もっと早くクウには挨拶したかったんだけどさぁ」
「あはは。大変そうだったね」
「ホントよ。早くもくたくた」
赤いドレス姿のアンジェが肩を落とす。
アンジェの姿は、実は見えていた。
アンジェはスオナと共にディレーナさんを中心とする門閥派の人たちと一緒にいたのだ。
そこには寮の先輩もいて、いろいろ気遣いが大変だったそうだ。
「人って成長するもんだよねえ。私は誰とでも自然体で接する! とか言っていたアンジェが気遣いで疲れるなんて」
「そうね……。学院に入るまでは、確かに私、そんなことを言っていたわね……」
「あはは。肩、揉んであげようか?」
「遠慮しとく」
少しだけ会話して、アンジェは門閥派の人たちのところに戻っていった。
ちなみにスオナは輪から抜け出せない様子だ。
その輪にはディレーナさんやオーレリアさんやエカテリーナさんもいるので、私の方から話しかけにいってもいいけど……。
そちらにいくのは、もう少し後からにするべきか。
ちなみにマリエは、どこかに消えていた。
よく探せばいると思うけど……。
逆によく探さないと、もはやマリエの空気の極意は見破れない。
恐るべし、だね……。
時間もかかりそうだし、マリエのことはいったん忘れよう。
忘れると、もう思い出せないかもだけど。
それほどにマリエは、気配を消すことができる。
本当に恐るべしなのだ。
私は1人で、セラとアリーシャお姉さまのところに行った。
そう。
私は、押しも押されぬ皇帝派。
ディレーナさんのところより、まずはお姉さまのところに行くのが当然だ。
私は前世からキッチリと派閥には属するタイプなのだ。
セラとお姉さまは、ちょうどタイミングよく大人たちからの挨拶を受けておわって、一息つこうとしているところだった。
「セラ、お姉さま、新年おめでとうございます」
声をかけると、2人とも笑顔を見せてくれた。
とはいえ、2人も少しお疲れの様子だ。
挨拶って、けっこう疲れるものだしね。
イルはお姉さまから離れて、テーブルでひたすらカラアゲを食べていた。
「うまい! うまいなのー!」
イルの幼く明るい声がホールの賑わいの中に聞こえる。
大いに満足しているようだ。
イルのことは、うん……。
カラアゲを食べていれば無害だし、放っておこう。
幸いにも、イルにちょっかいをかける人もいないようだし。
「ところでお姉さま、今日はトルイドさんは来ていないんですか?」
ざっと見たところいないけど。
「ええ。残念ながら」
「来る予定でしたよね? 何かあったんですか?」
私がたずねると……。
「クウちゃん、それは……」
なぜかセラが困ったような顔をした。
どうしてかと思ったら、なるほど。
水の都サンネイラの次期当主たるトルイドさんが、予定していた新年会への参加を急遽キャンセルした理由……。
それは年末に、いきなり精霊の使徒を名乗る妖精が現れて……。
妖精の呼びかけで、再び水の大精霊様が現れて……。
それを祝して、例年よりも盛大に……。
町の総力をあげて新年祭を行うことになってしまったからなのでした……。
はい。
アンジェとスオナのせいだね……。
「すみません、お姉さま」
私も謝った。
「謝罪の必要はありませんわ。吉事なのですし。とはいえ、その主役たる水の大精霊様は今ここにいるわけですが」
「あはは。ですね」
「わたくし、新年会がおわったらイルちゃんを連れてサンネイラに行こうかしら。クウちゃんの許可をいただくことはできて?」
「その判断は陛下たちにお任せします。陛下たちがいいなら私もいいですよ」
「ありがとうございます。では、イルちゃんにもその旨を伝えてきますわね」
お姉さまはイルのところに行った。
お話だけではなくて、一緒にカラアゲを食べるようだ。
食べ過ぎ注意ですよ、と言いたいところだけど、まあ、新年だしいいか。
「クウちゃん、わたくしたちも何か食べませんか?」
「そだね。グルメしよっか」
私たちは普通にビュッフェを楽しんだ。
まずは、スイーツにフルーツといった軽いものから。
その最中だった。
「ミストお姉さまー? ミストお姉さまー? どこですかー?」
聞き覚えのある女の子の、不安げに呼びかける声が聞こえた。
「あれは……。ラシーダさんですね」
「だね」
セラも気づいたようだ。
それは北への旅で出会った、思い込みが激しくて世間知らずで節穴な――。
出会った時には10歳、今年で11歳になる、私たちよりも2つ年下で小柄な女の子――。
北の辺境伯家のお嬢様、ラシーダだった。
「ミストというのは、マリエさんの異名でしたよね」
「うん。だね」
蒼穹のスカイが私、幻影のミストがマリエ。
皇女殿下の旅仲間、プリンセス・トラベラーズとして私が名付けた異名だ。
「どうしましょう。声をかけたほうがいいですよね」
「さすがに放ってはおけないか……」
マリエに預ければいいし。
私たちは食事を中断して、ラシーダのところに向かった。




