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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1230/1362

1230 閑話・少女オルデは緊張の中で……。





 鏡の前には、お嬢様がいた。

 それは、ずっと夢に見てきた、着飾った美しい姿の私だった。

 大宮殿のメイドさんはすごい。

 たった1人でテキパキと、私を別人にしてくれた。


 私は、オルデ・オリンス。


 帝都の下町に住む、普通の庶民の娘だ。


 普通に考えれば、新年の大宮殿にいて良い人間ではない。

 それは自分でもわかる。


 でも今、私は、大宮殿の控室にいる。


 これから新年会に参加するためだ。


 私は会の途中で、皇帝陛下にエスコートされて入場することになっている。

 まさに特別ゲスト扱いだ。


 この庶民の私が。


 私のことは、包み隠さず、庶民の娘として紹介される。

 居並ぶ貴族の方々からは、さぞ好奇の目を向けられることだろう。

 罵声を浴びせられることは――。

 皇帝陛下もいるのだし、さすがにないとは思うけど。


 ぶっちゃけ、公爵夫人なんて素敵よね!

 贅沢できそう!

 なーんて、欲望メインでナリユとの話を受けた私だけど……。


 受ければ、こうした試練が繰り返されることは……。

 ちゃんと理解していたけど……。

 実際の現場が近づくと、心の底から怖くもなる。

 やっぱりやめたい。

 と思ってしまう。

 もちろん、今更やめられるわけもないのは理解しているけど。


「こういう時、普通ならパートナーが助けてくれるものよね」


 私は鏡に映る自分に話しかける。

 だけど今、私の将来のパートナーであるナリユはいない。

 いえ、うん……。

 ナリユがいたら逆に苦労が増えそうだけど……。


「はぁぁぁぁ」


 私は盛大にため息をついた。

 最後のため息だ。


「よし!」


 気合を入れ直す。

 ここから先は、ため息ひとつ、つくことは許されない。

 モッサ先生との訓練を思い出す。

 私はお嬢様になるのだ。

 ずっと夢見てきた舞台に、ついに立つのだ。


 私は成り上がるのだ!

 ここから私の、真の物語が始まるのだ!


 やるぞ。やるぞ。

 やってやるぞおおおお!

 平凡で退屈な人生とは、今日でお別れするんだぁぁぁぁぁ!



 気合を入れ直したところで、ドアがノックされた。


「はい」


 返事をすると、ドアが開く。


「あのお……。こんにちは……」


 おそるおそるの声を出しながらも現れたのは――。

 ふわふわ美少女のなんでも工房の店員さんだった。


 私は正直、どうしていいのか戸惑った。


 なんでも工房の店員さんが、実はソード様であることは理解できている。

 でもそれは、決して口にしてはならない秘密だ。

 つまりソード様は今、ふわふわ工房の店員としてここに来たのだ。


「あの……。ふわふわ工房の店員さん、ですよね?」


 私はすっとぼけて、あえて知らないフリをしてたずねた。

 すると……。

 ソード様は心底驚いたような顔をして……。


「え。あ。ああ! えっと、えっとね! そうだよね、うん! その通りの店員さんです! あはははは!」

「ごきげんよう」


 ともかく私は椅子から身を起こして、丁寧に頭を垂れた。


「え、あ、うん。こほん。失礼しました。そちらは落ち着いた様子でよかったです」


 ソード様は明らかに挙動不審だった。

 とはいえ……。

 うん……。

 他国の重鎮とも平然と渡り合うソード様が、私を相手に動揺なんて有りえない。

 なのできっと、それは演技なのだろうけど。


 沈黙が流れた。


「こほん」


 と、ソード様――。

 いいえ、今は工房の店員さん、と思うべきよね――。

 が、あらためて、わざとらしく咳をついた。

 なんだろう……。

 私に何かを気づかせようとしている……?

 店員さんに意味のない行動なんてあるはずがない。

 店員さんの行動には、すべてに緻密な計算と意図があるのだ。

 だけど……。

 私には、まるでわからなかった。


 わからない時――。


 もちろん相手にもよるけど――。


 信頼できる相手の時、どうすればよいのかは学んでいる。

 モッサ先生は常に言っていた。


「ごめんなさい、店員さん。わかりません。ご用件は何でしょうか?」


 そう。

 素直に伝えるのだ。


「そ、そかー。だよねー。あははー。と、とにかくさ、今日は練習なんだし、まわりにいるのは私も含めて味方ばかりだから、肩の力を抜いて気楽に楽しんでね。あと、これ。その、えっと、これを渡してと頼まれてね!」


 そう言って店員さんが押し付けてくるのは――。

 銀製の指輪だった。

 宝石はついていない。

 細やかな模様は刻まれているけど、あまり高価とは思えないシンプルな指輪だ。

 もちろん、私の収入で考えれば高価な品だけど……。

 貴族の価値で考えれば……。

 実際、今、私が身につけているのは、宝石のついた品ばかりだ。

 すべて大宮殿でお借りしたものだけど……。


「じゃあね!」


 誰からの贈り物なのかをたずねるよりも早く、店員さんは身を翻して、開いたままのドアから廊下に出てしまった。

 外で待機していたメイドさんに、


「すみません、いきなりお邪魔しちゃって! どもでしたー!」


 と声をかけ、走って行ってしまう。

 メイドさんが外からドアを閉める。

 私は再び1人になった。


「…………」


 私は指輪を見つめる。

 やはり、ただの銀製のシンプルな指輪だ。


 ただ、ソード様がくれたものだ。


 私は、もらったばかりの指輪を空いている指にはめた。

 すると、まるでゴムみたいに指輪がフィットする。

 私は理解した。

 ただのシンプルな指輪なんて、とんでもない。

 これは魔法の指輪なのだ。


「それにしても、誰からなんだろ……」


 ソード様は、はっきり、頼まれて渡すと言っていた。

 噂のセンセイだろうか。

 センセイは、審判者マリーエ様と対等の存在で、現世に降りた神様って話だけど……。

 そんな存在が私を気にかけてくれているのなら、実にありがたい話だ。

 でも、そうね。

 慢心した考えは、持たないようにしないと。

 虎の威を借る狐になってはならない。

 それもまた、モッサ先生から厳しく言われていることだ。


 しばらくして、ついに時間が来た。


 私はメイドさんに連れられて、まずは皇帝陛下のところへ向かう。

 私はこっそりと、最後に深呼吸した。

 その後で、心も顔も引き締める。

 ソード様の言った通り、今日のパーティーはまだ練習のようなものだ。

 ここは帝国。

 まわりにいるのは味方。

 私の本番は、間違いなくトリスティンに行ってからだ。


「私はなるぞ……! 真のお嬢様に……!」


 私は気合を入れて、自分の足を動かした。







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― 新着の感想 ―
あらま、クウちゃんの事店員だと思ってるのかな。店長ですよー
[一言] 良かった。忘れられてはいなかったのですね。この指輪を付けていれば、分かる人には後ろ盾が明らかになるから随分楽になりますね。分からない人は多分どうでもいい相手だし。 まあ贅沢を言えば、指輪の意…
[一言] 成り上がり少女オルデの物語は最終幕へw
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