1228 舞台裏にて
パーティー会場にはファーの姿もあった。
果たしてファーは、大宮殿のメイドさんと仲良くやれているのだろうか。
正直、心配していたけど……。
見る限り、ファーはすっかり馴染んでいる様子だった。
他のメイドさんと変わらない姿で、壁際に立っている。
となりにいるのは、皇妃様付きのエリートメイドさんだね。
私が、つい逃げ出してしまった……。
ファーはすごいね。
エリートさんと並んでいても遜色がない。
遠間で横目に見ていると、若いメイドさんがファーに走り寄ってきた。
ファーに話があるようだ。
ファーは話を聞いて、となりにいたエリートさんに確認を取る。
その後、若いメイドさんと共に歩き出した。
エリートさんもついていくようだ。
なんだろう……。
若いメイドさんは、明らかにファーを呼びに来た様子だけど……。
ファーは体験学習中の新人以下の存在だ。
呼び出す用事があるとは思えないけど。
まさか、嫌がらせ……?
それはないと思うけど、万が一そうだったら大変だ……。
「マリエ、ごめん。ちょっと行ってくるね」
「どうしたの、クウちゃん?」
「事件の予感」
「え?」
「何かあったら、こっちはよろしくね」
「え、あの」
パーティー会場のことはマリエに任せて、私は『透化』した。
ファーの後を追う。
ファーが入るのは厨房だった。
向かった先のテーブルには、真ん中にポールを立てた大皿があって……。
大皿の上にはカラアゲが散らばっていた。
カラアゲは、脇のトレイにも大量に積まれていた。
「すみません、ファーさん。追加用のものが、どうしても上手く積めなくて……。もう時間がないのでお願いできますか?」
ファーを連れてきた若いメイドさんが申し訳なさそうに言う。
「わかりました。お任せください」
私がこっそり見守る中、ファーが作業を始める。
それは山の制作だった。
ファーは、とても器用だった。
バランスを取ってテキパキとカラアゲを高く積み上げていく。
追加用とのことで、すでに大ホールにあるものと比べれば小型だし傾斜も緩やかだったけど、それでも立派な山だ。
「ファーさんはすごいですね! 神業です!」
若いメイドさんが感動の声をあげる。
テーブルのまわりには若い料理人もいて、彼らもファーに感謝する。
「ただの得手不得手です。私は計算を元にした作業を得意としているだけです」
ファーの手さばきに迷いはない。
完璧だった。
バンザさんを始めとするベテラン勢は、すでに夜の晩餐会の準備に大忙しのようだ。
厨房は、まさに戦場だった。
「ファーさんについては、私も感心しました。しかし、ティス。貴女はもう少し、感情を抑えて行動しなさい。走ったり大きな声を出すなど、プロのメイドとしては失格ですよ」
「す、すみませんっ! キティアラ様!」
「それです」
エリートさんが眼鏡をクイッとさせて、冷たい声と目で注意する。
こわ!
私は心からそう思いました。
頑張れ若い子!
私は応援して、あとはホールに戻った。
ともかく、ファーは活躍して、信頼を勝ち得たようだ。
素晴らしいね。
「ただいま、マリエ」
「敵は!? もう倒せた!?」
カマキリ拳法の構えで、マリエが物騒なことを言う。
「どうしたの?」
「どうしたって、敵がいたんだよね?」
「ううん。いないけど」
「あ、そうなんだ?」
「うん」
ファーの様子を見に行っただけだし。
「ならいいけど……」
マリエはカマキリの構えを解いた。
「あ、もしかして」
「やっぱりいたの?」
「残念だった? なら今度、一緒にダンジョンに――」
「クウちゃん」
「うん。なぁに、マリエ」
「そろそろ私のこと、ちゃんとわかってね?」
にっこりされた!
「あはは。冗談だってばー」
「クウちゃんが言うと冗談に聞こえないの!」
「う。……そ、そうなの?」
「そうなの」
それは正直、ちょっとショックです。
なにしろ私、こう見えて、お笑い属性の精霊のつもりなので……。
まあ、うん。
今は、本気で言ったんだけどね……。
まあ、いいけど。
「それよりマリエ、カマキリの構えが堂に入ってたね。ネスカ先輩の健康道場で普通の拳法を勉強しているんじゃなかったの?」
「あはは。なんか咄嗟に出るのはカマキリみたいだね、私」
「相性がいいんだね」
幻影のミストとしても、咄嗟に使ったのはカマキリ拳法だったみたいだしね。
「よかったら今度、カマキリ道場についていこうか?」
「んー。そうだね。ちょっと迷っちゃうね。その時にはお願い」
むむ、てことは……。
マリエとマンティス先輩のカップリングがアリに……?
ふむう。
お似合いなのかそうでないのか、想像してもまったくわからないね。
そうこうしている内に、時間が来た。
陛下たちがご入場されるとのことで、私たちは会話をやめ、それなりに整列して、正面奥の大階段の方に目を向けた。
陛下に皇妃様、お兄さまにお姉さま、セラにナルタスくんが現れる。
えっと……。はぁぁぁぁ!?
あぶな!
私は一瞬呆けて、その後、あやうく変な声を出すところだった!
だって、ですよ!
堂々と登場したお姉さまの上に、なぜか水色の髪の幼女――。
イルが肩車されて乗っているんだもの!
有り得ないことに!
いくらいい加減でふわふわな私でも、それはないでしょう! と思いましたよ!




