1227 会場に到着!
な――。なんじゃこりゃー!
カラアゲ祭りの会場かー!?
と、危うく叫びかけたところを必死に堪えた私は偉い子です。
こんにちは、クウちゃんさまです。
1月5日の午後。
私はドレスで着飾って、今日は普通に招待客として、大宮殿の大ホールにヒオリさんとフラウと共に入りました。
そして、真っ先にカラアゲの山を目にしました。
うん、はい。
まさにそれは山でした。
むしろ山の中の山、聖なる山ティル・デナすら彷彿とさせる――。
そびえ立つほどのマウンテンでした。
マウンテンといえばマウンテン先輩だけど……。
先輩は今頃、どうしているのだろう。
中央騎士の一般選抜試験は、いよいよ1月の15日。
あと少しだ。
真面目な先輩のことだから、新年だからってのんびりなんてしていないで……。
必死に訓練しているのだろうね……。
頑張ってほしいものだ。
何はともかくカラアゲ。
カラアゲは、裾野にも一面、まるで大地のように広がっていた。
しかも、ひとつのテーブルだけではない。
いくつものテーブルに、カラアゲマウンテンはあった。
間違いなく、先に大宮殿に来たイルの仕業――ではないにしても、要望によるものだろう。
会場の空気は微妙だった。
このカラアゲは一体どういう趣旨なのかと訝しむ声があちこちから聞こえる。
新年会でカラアゲの山を出す習慣は、帝国にはないようだ。
私は早くも頭痛を感じた。
「クウちゃーん! やっほー!」
お。
マリエだ!
会場に入った私の姿を見つけて、こちらに来てくれた!
「クウちゃんたちとは今さらだけど、公の場だし、あらためまして。新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
マリエが礼儀正しく言った。
「あらためまして、おめでとう。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
私も同じように返した。
「それにしても、すごいカラアゲだよね……。今年はカラアゲの年なのかな?」
フラウとヒオリさんとも挨拶を交わした後、マリエがカラアゲの山に目を向けて言った。
「そんな年はないと思うけどねぇ」
私は苦笑した。
身内が本当にすみません。
私はイルのところに話を聞きに行きたかったけど……。
残念ながら、それはできなかった。
「おお、クウちゃん! 今年も元気そうで何よりです! 聞きましたぞ! モルドと北方でも大活躍なされたとか!」
ローゼント公爵が私のところに走り寄ってきたからだ。
「久しいな、マイヤ殿。新年の喜びを申し上げる」
続けてアロド公爵も来た。
いきなり2人の公爵に囲まれては、私も場を離れることができない。
愛想笑いを浮かべるしかなかった。
ヒオリさんとフラウは、両公爵に挨拶の後、中央魔術師団の方々に挨拶をしてくると言って離れていってしまった。
2人は去年、魔術師団とは多くの共同研究をしたしね。
「じゃ、じゃあ、私も……」
「うん。一緒にね」
にっこり。
そそくさ逃げようとしたマリエの手は、がっちり掴みましたとも!
一緒にいようね!
両公爵はさすがに耳が早く、イルの来訪をすでに知っていた。
何か事件でも起きたのかと心配されたけど……。
すみません……。
ただのカラアゲ欲なんです……。
「そうですか! それならば結構! 帝都に精霊様が集まる! それはとても良いことに違いありませんからな!」
幸いにもローゼントさんは好意的に受け止めてくれた。
「聞けばイルサーフェ殿は、当家のスオナ・エイキスに加護をお与え下さったとか。後で私から感謝させていただいても宜しいですかな?」
アロド公爵が言う。
私は一瞬……。
何か感謝以外に目的があるのかと思って、返事に迷ってしまったけど……。
「はい。いいと思いますよ」
断るのは失礼なので、とりあえず了承した。
両公爵は、短く会話を切り上げて、去っていってくれた。
私はマリエと2人になる。
「それにしてもクウちゃん、結局、今日も何かあったの?」
「そうだね。マリエには包み隠さず教えておくよ」
「え」
「ん?」
「あ、えっとね、今のはアレだよ、アレ。なしのキャンセルでお願い。よく考えたら私が聞いたところでどうしようもないよね。私なんて、ただの一般人だし」
「またまたそんなご冗談をー」
私は笑って、
「私に何かあったら、頼りになるのは、もう幻影のミストだけだよね」
「懐かしいねその二つ名! まだ生きてたんだ!」
「懐かしいねー。北の旅も、プリンセスガードも」
まだ最近のことなのに、もう何ヶ月も前のことのような気もするね。
「すでに過去の話だよね、うん! しまっておこう! 思い出という名の宝石箱に!」
「またまたー。マリエは現役でしょー」
「私は引退しました!」
「え。そうなの?」
「そうなのです」
「……じゃあ、ぷんくらとんはどうするの?」
「それはつい最近も使ったよ!」
「あはは」
ぷんくらとんは、マリエと初めて出会った頃のネタだ。
我が家での新年会でも使ったっけ。
「考えてみると、クウちゃんとも長い付き合いだねえ」
「だねー」
正確に言うなら、まだほんの1年だけど。
でも密度が違うのだ。
私も心を許せる、すごく昔からの友達だと思えてしまうのです。
「で、さっきの話なんだけどね。実は、またもやイルが来ちゃってさー」
「あ、言っちゃうんだ?」
「うん。もちろんだよ?」
にっこり。
私はカラアゲのことをマリエに話しました。
「というわけだから、私がいない時に騒動が起きたらあとはよろしくね。最悪、キオが襲撃をかけてくるかも知れないからさ」
「無理だからね!?」
「またまたー。あははー。マリエ、頼りにしてるよー」
「もー。いいからー!」
マリエに丸投げするのはさすがに冗談だけど、でも、マリエならなんとかしてくれそうな気もするのがすごいよね。




