1221 1月4日のこと
年が明けて、毎日が進んでいく。
今日は1月の4日。
今日の私は、今年が始まって以来、初めての1日フリーだ。
なので中央広場を散歩した。
すると……。
「おい! クウ! テメェはなんて薄情なヤツなんだ!」
と、いきなりロックさんに怒鳴られた。
「え。なに?」
「なにじゃねえよ! テメェ、年が明けて4日も経ったってのに、どうして店にも白猫亭にこねぇんだよ!」
「あー。うん。そういえばそうだねー。忙しくってさー」
主にファーのことで。
「とりあえず、ロックさん、あけましておめでとう。今年もよろしくね」
「今さらかよ!」
「いいでしょー。まだ新年は新年なんだし」
帝国では、1月の5日までが新年だ。
「まあ、それはそうか。おう! あけおめことよろ、だぜ!」
さすがはロックさん。
あっさり機嫌を直してくれた。
「で、ブリジットさんは?」
「店」
「あー」
姫様ドッグ店は、今日も大いに賑わっていた。
混んでいたので素通りしたけど。
「ロックさんはサボり?」
「ほんのわずかな休憩中だ。俺は元旦から休まず仕事してんだぞ。怠惰が服を着たみたいなテメェと一緒にするな」
「はぁ!?」
私は怒りかけたけど……。
はい。
お店を任せっきりにして遊んでいるのは私です。
ロックさんと話していると――。
「店長さんっ! 新年おめでとうっす」
「おお! これはクウちゃんさんではありませんか!」
タタくんとボンバーが現れた。
「わーい! タタくんだー。やっほー! あけましておめでとう! うちのお店に来てくれていたんだ?」
タタくんの手には、ふわふわ工房の紙袋があった。
「今年の験担ぎに精霊ちゃんぬいぐるみを買わせていただいたっす」
「クウちゃんさんっ!」
「なによ?」
いきなりボンバーに近づかれて、私は警戒した!
「新年記念の精霊ちゃんハンカチが……。すでにありませんでした……」
ボンバーが落胆してつぶやく。
「あ、うん。昨日でね」
大人気でした。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 私の今年は大凶ですぞー!」
「あーもう、うっさい! そんなにほしいならあげるよ」
はい。
私はポシェットから、実際にアイテム欄から、ハンカチを取り出してボンバーとタタくんに差し上げた。
「ありがとうっす。いいんすか?」
「うん。いいよー。2人はお得意様だしね。今年もよろしく」
「はいっす。こちらこそっす」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! これで今年は大吉ですぞおおお! クウちゃんさんありがとうございま――ぐはっ!」
「近づくな! 蹴るよ!」
もう蹴ったけど!
「おい、クウ」
そのやりとりを見ていたロックさんが不機嫌に言った。
あーはいはい。
ロックさんもハンカチね。
と私は思ったのだけど、違っていた。
「おまえ、おかしいだろ! なんで俺よりタタのヤツに心を許したような笑顔を向けてるんだよ! おまえはロック派だろうがよ! 何がわーいやっほーだ! それは俺の時にこそ使えや!」
「え。なんで?」
本気で意味がわからないんですけど。
「だから、え、じゃねー! テメェ、この俺を誰だと思ってやがる!」
「またウェルダンみたいなことを。誰なの?」
「この俺こそが、今をトキメク帝都の人気店、姫様ドッグ店で一番のホットドッグ職人のロック様だろうがよー!」
「いや、そこは、Sランク冒険者にしときなよ。その方がモテるよ?」
多分。
「バカ野郎。俺はすでにモテモテだ」
「あーごめん。彼女が100人いるんだったよね」
「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ここでボンバーが、広場中に響くような大声をあげた!
「許せません! 許せませんぞおおお! 我らのクウちゃんさんを強引に101人目の彼女にしようなど! この私が許しません! これより我らボンバーズが総力を上げてクウちゃんさん防衛態勢に入ります! 貴方のような不埒者は一歩たりとも近づかせませんぞおおおお!」
「うるせえええ! 耳がギンギンするだろうがぁぁぁ!」
ロックさんも怒鳴った。
私はモテモテのようだ。
まったく嬉しくないし、勘弁してほしいけど。
「新年早々すみませんっす、店長さん」
「……いや、うん。いいけどね」
なんかまわりのヒトたちも、完全スルーしているし。
私もスルーしたい気分だし。
「クウちゃん、新年おめでとう」
「ブリジットさん! おめでとうございます!」
ツインテールがよく似合う店員姿のブリジットさんが現れた。
「新年からロックがごめんね」
「ううん。いつものことだよ」
「そうだね。本当にロックでもないよね。ろくろくで36だよ。というわけで、去ろ」
「3、6だけに?」
36、すなわち、さん、ろく、去ろ。
的な?
ちょっと強引だけど。
「店長さん、ここはお任せくださいっす。適当に帰るっすので」
「じゃあ、悪いけどいいかな」
「はい。平気っす。あとそう言えばファーさんが随分と変わっていたっすね。人間みたいで驚いたっす」
「あはは。でしょー。また今度話すよー」
「楽しみにしているっす」
私はブリジットさんと2人でその場を離れた。
「ブリジットさんも休憩中だったの?」
「ううん。仕事中だったよ」
「すみません、わざわざ」
「騒いでいたのはロックだし、こちらこそコレだよ」
そういうとブリジットさんは、何故か、正面から振り下ろす素振りのジェスチャーを5回繰り返した。
いきなり、どうしたんだろ?
私は一瞬思ってしまったけど、すぐに気づいた!
5、面。
ごめん!
「折れちゃいますから、私と打ち合う時は木剣はやめてください、ですね」
すなわち!
きにしないで!
なのです!
「くくく。さすがはクウちゃん」
「くくく。さすがはブリジットさんです。ところでお店、今日もすっごい混み合ってますね」
まだ午前なのに。
「うん。新年で店員も少ないから大変。お昼時でパンクしそう」
「よし! なら、私が手伝ってあげるよ!」
久しぶりに!
「いいの?」
「もちろん! 実は今日、暇だったんだよねー!」
「ありがとう。クウちゃんが手伝ってくれるのなら千人力だよ」
「ふふー! だよねー! 任せてー!」
姫様ドッグ店のお手伝いなら、過去に何度もしている。
もう慣れっ子なのだ。
久しぶりに水色のメイド服に着替えて、大活躍してあげますかー!




