122 武闘会の決着
さあ、対決だ。
2回戦。
ブレンダさんとガイドルが舞台に上がった。
強化魔法はかけない。
向こうもすでにドーピングポーションの効果は消えている。
いろいろあったけど、正面対決だ。
ブレンダさんは大剣を上段に構えて、隠すこともなく、初手に渾身の力を込めるという気迫を見せている。
対するガイドルは一般的な中剣を正眼に構える。
事件の後だというのに、少なくとも見た目的には落ち着いている。
自分で売った喧嘩だ。
決着はつけてもらおう。
「いけいけーっ! ブレンダさん、ぶったぎれー!」
もちろん私はブレンダさんを応援する。
「はじめっ!」
審判が開始を告げる。
「うおらあぁぁぁぁ!」
ブレンダさんが跳んだ。
速い。
唸りを上げた大剣が一瞬でガイドルに襲いかかる。
それをガイドルは体のひねりでかわそうとした。
無駄のない動きだ。
でも、少し読みが浅かったようだ。
迫る大剣が加速度を増す。
惜しい。
大剣がガイドルの肩と腕をかすめて、地面に当たった。
ブレンダさんには隙ができるけどガイドルはそこを突くことが出来ない。
「くっ……!」
ガイドルは大剣の触れた肩をもう一方の手で押さえ、うしろに下がる。
かすめただけでもダメージを与えたようだ。
お互いに構え直す。
「さあ、次はそっちの番だぜ?」
ブレンダさんが挑発するように微笑む。
「……まったく、信じられないほどの馬鹿力だな」
「来ないならこっちから行くけど?」
「まあ、慌てるな」
腕の痺れが引くのを待っているのかな。
そんな気がする。
「3分で判定なんだぞ、早くしてくれよ」
ブレンダさんは一気に攻めれば確実に有利だけど、待つみたいだ。
気持ちはわかるけどね。
だってバトルは楽しみたいよね。
「生意気な――!」
ガイドルが動いた。
一気呵成の連撃をブレンダさんにぶつける。
「悪いね、才能ありまくりで」
ブレンダさんは巧みに距離を取りつつ、大剣でその攻撃を受け止める。
あ。
太ももへの打撃を受け損ねた。
だけどそれは敢えてか。
攻撃のためだ。
ダメージを無視して、大剣の柄でガイドルの胸を打った。
ガイドルがよろめく。
そこに遠心力を思いっきり利かせた、ぶん回すような一撃をお見舞いする。
勝負アリ。
歓声の中、ブレンダさんが大剣を掲げた。
ガイドルは無言で貴族席に一礼すると、そのまま舞台から降りた。
アリーシャお姉さまが楽しそうに拍手をしている。
ディレーナは無表情だ。
次はメイヴィスさんの番だ。
メイヴィスさんも2回戦を勝ち、上に進んだ。
ただ残念ながら準決勝でのフリオとの対戦は消えてしまった。
フリオが2回戦で、あっさりと負けたからだ。
彼は気持ちを上手く切り替えることができなかったようだ。
そもそも実力不足か。
まあ、しょうがない。
かわりに対戦することになったのは騎士科の最上級生だった。
盾を正面に構えた、重厚感のある男子だ。
刺突と敏捷性で戦う人間にとっては、なんとも相性の悪い相手に感じる。
私もゲームでは、この手のタンクタイプが苦手だった。
なにしろ堅くて攻撃が通らない。
しかも慎重だからフェイントにかけるのも難しい。
メイヴィスさんは頑張ったけど、結局、相手の防御を崩せず、ちくちくと反撃を受けて最終的には判定で負けてしまった。
残念。
でもすごかった。
会場も大いに盛り上がったしね。
健闘を讃えようと舞台に近づいた婚約者のウェイスさんに気づきもせず私たちのところに戻ってきたのはご愛嬌。
むなしく席に戻るウェイスさんの姿には、正直、笑いました。
ごめんね。
そして、再びブレンダさんの出番。
メイヴィスさんに続いて準決勝の舞台に立つ。
相手は冒険者を兼業しているという騎士科の最上級生。
獣人の男子生徒だ。
爆発野郎のボンバーさんと違って知名度はないようで、普通に出迎えられた。
あれ。
私は首を傾げた。
彼、どこかで見たことがあるような……。
名前をコールされて気づいた。
うちで装備一式を買ってくれたタタくんだ!
彼も学院生だったのか!
「おーい! タタくーん!」
手を振ると、気づいてこっちを見てくれた。
だけど、
誰?
って顔をされる。
あ、そうか。
今は変装中。
水色のメイド姿で、髪を隠しているんだった。
「私だよっ! 私っ! ふわふわの店長さんだよー! 頑張れー!」
「あ、はい! こんにちはっす! 頑張るっす!」
試合が始まる。
タタくんは、左右の手に短剣を持っていた。
二刀流スタイルだ。
短剣は私が作ってあげたものだねっ!
タタくんは腰を深く落として、獲物を狙う動物のように構える。
ブレンダさんが動いた。
先手を打って、草を刈るような一撃。
そこから先は、低い姿勢のまま動き回るタタくんを、ブレンダさんがひたすら斬ろうとする展開が続いた。
ブレンダさんは、かなりやりにくそうだった。
無理もない。
なにしろ普通に横に振っても、タタくんの体はその下にあるのだ。
次第にブレンダさんは苛立ってくる。
そして、これで決めると言わんばかりに、一呼吸置いて、大きく振りかぶって大剣を背中に持ち構えた。
タタくんはタイミングを見逃さなかった。
下から飛び込む。
ピタリ。
と、ブレンダさんの首に2本の短剣を当てた。
「勝負あり! 勝者、タタ!」
審判が宣言する。
「おおー!」
私は拍手で祝福した。
タタくん、決めの瞬間を見逃さない見事な判断力だった。
ブレンダさんが戻ってくる。
「お疲れ様。残念だったね」
「クッソ。野生動物みたいな奴だったよ。やり難いったらなかった」
「相性が悪かったね。ブレンダさんもメイヴィスさんも運が悪かったと思う」
対戦相手が逆なら、結果は十分に変わっていた。
「女子生徒優勝の夢は来年に持ち越しですね」
メイヴィスさんがブレンダさんにタオルを渡す。
「だな」
ブレンダさんは顔の汗を拭う。
「もっとも来年には、夢どころか確実な未来でしょうけれど」
メイヴィスさんが私を見て笑う。
「私は出るつもりないよー」
たとえ来年、流されるままに入学したとしても参加することはないだろう。
「クウちゃん、こういうお祭り騒ぎ好きそうなのに、そうなんですか?」
「だって他の参加者が可哀想でしょ」
お祭り騒ぎは好きだけど、わざわざ「どやぁ」したいとは思わない。
なにより私は、参加するならお笑いステージの方がいい。
「はははっ! そりゃそうだ!」
「では来年も、わたくしたちで頑張りましょうか」
「だな!」
「ふっふー。来年はセラが来るからねー。優勝を狙える女の子は、2人だけじゃなくなる可能性も大だよー」
なにしろ努力する天才だしね、セラは。
剣だって、あっという間に1人前になってしまう気がする。
「そういえば愛弟子か。ていうか、私たちから見れば姉弟子になるのか?」
「楽しみですね」
「だな!」
勝気な姿は2人らしくて素晴らしい。
「ところでさっきの先輩は、クウちゃん師匠の知り合いなのか?」
「うん。お客さんなんだ。彼の武具は私が作ったんだよ」
「そうなのか。対戦相手も応援するから、なんて薄情な師匠かと思ったけど、ならしょうがねーな」
「あはは。ごめんね。つい」
ちなみに武闘会を優勝したのは、盾を正面に構えて重厚に戦う、タンクタイプの最上級生さんだった。
タタくんは健闘したけど、鉄壁を崩すことができずにおわった。




