1219 魔王クスカイの存亡
ユイたちと新年会をした後――。
1月3日。
午後のこと。
「え。なんで? クスカイって、クウさまのことよね? クウさま、世界を破滅へと導こうとしているの?」
「え」
「え?」
魔王クスカイの話を何気なく妖精のミルにしたら、衝撃の言葉が返ってきた。
場所は、我が家の3階にある私の部屋。
いるのは私とミルだけだ。
いつもならミルと一緒にいるセラは、只今、絶賛公務中。
暇になったミルが1人で遊びに来ていた。
ヒオリさんにフラウにエミリーちゃん、それにファーは、1階のお店で新年最初の営業を切り盛りしている。
お店は賑わっている。
次から次へとお客さんが来ていた。
嬉しい話だ。
みんな、新年のオープンを楽しみにしてくれていたようだ。
新年5日までの記念品として準備した「精霊ちゃんハンカチ」も大人気だった。
限定300枚。
銀貨1枚以上のお買い上げでプレゼント。
300枚は無理でしょと私は思ったものだけど、ヒオリさんが自信満々に大丈夫と言うので頑張って生成した。
お店に出入りする人の流れを見る限り、本当にはけてしまいそうだ。
すごいね。
下手をすると今日でおわってしまう気もする。
お店については私も手伝おうとしたのだけど、今日は某もいますし人手は足りているのでのんびりしていてくださいとヒオリさんに言われた。
フラウたちも同意見だったので……。
私は自分の部屋で窓際の椅子に腰掛けて、冬の陽光を浴びて、のんびりしていた。
まあ、うん。
それはいい。
お店のことは、任せて平気だろう。
それよりも、だ。
今はミルの口から飛び出した、まさかの衝撃発言の方が問題だった。
「ねえ、ミル。なんで私がクスカイだと思ったの?」
完全に別人なのに。
やっぱり、「ク」がついているから?
と私は思ったのだけど……。
「なんでって……。だって北の旅の時のプリンセス・ガードの偽名よね、蒼穹のスカイって。ク・スカイって、何度もセラたちがクウさまの名前を言いかけて訂正していた時の言葉だし、そうだと思ったんだけど……。私も間違えて、ク・スカイって言ったような気もするし……。違うの?」
違うよー。
私は呆れて言いかけて……。
…………。
……。
ついに、ようやく……。
そういえば、そんな呼ばれ方もしていた……。
と、恐るべき事実に気づいた……。
「ね、ねえ、ミル……」
「違うなら怖いわよね。クウさまの名前の魔王がいるなんて」
「仮にだよ? 仮にだけど、もしも私がクスカイだとしたら、どうしてその名前が海洋都市に広がっているんだと思う?」
「そんなの、北の都にいた悪い貴族の雇っていた連中が、海洋都市の傭兵団だったからに決まってるわよね? 捕まえたって言っても、ドサクサの中で逃げたヤツもいるだろうし」
そういえば、そうだった。
海洋都市の傭兵団の連中だったね、北の旅での敵は。
私のことを魔王とか呼んだ後、偉大なるクスカイ様とか言い直してヘコヘコしていた狼男もいたよね……。
あの狼男は、見逃したよね……。
いかん。
見事なほどに、つながってしまった……。
クスカイって、私かぁ。
まさに、うん。
クウちゃんだけに、くう。
そうとしか言いようがないね、これは……。
「とにかくクウさまじゃないなら、私、急いでセラにも報せてくるわ! これは国の一大事になるわよね!」
「待った!」
飛び去ろうとするミルを、私は捕まえた!
「どうしたの、クウさま?」
「秘密にします」
「え」
「え、ではありません。このことは、絶対の秘密にします」
「どうして?」
「国ではなく、世界の一大事だからです」
主に私の世界の。
「そ、そうなんだ……?」
私に見つめられて、ミルがゴクリと息を呑んだ。
「まさに、クウちゃんだけに、くう、です」
「くうなの?」
「そうです」
「そうなんだぁ……。意味はわからないけど、大変なのよね……」
「はい」
その通りです。
「この件については、私が責任を持って、密かに解決します。だからミルは絶対に誰にも言わないこと。いい?」
「え。でも……」
「いい?」
「はい……。わかりました……」
ミルはうなずいてくれた。
その後、ミルは、やっぱりセラのことが心配だからと……。
大宮殿に飛んで帰っていった……。
私はそれを笑顔で見送った。
私は部屋に1人になる。
私は思った。
この秘密は、アシス様の前に行くまで持っていこうかな、と。
クスカイについては、私が退治したことにしようかな、と。
うん。
わかる!
魔王クスカイについては、すでにナオやエリカが、たくさんの人員を割いて調査を進めている!
それは大変なことだ!
でも。
でもね……!
私、自信満々に言っちゃったの……。
違うって……。
もう、どうしようもないよね……。
だって今さら、実は私でしたー、あははー、なんて、言えないし……。
うん!
頑張ってシナリオを練ろう!
魔王クスカイ討伐の物語を、作るのだ!
と、私が1人で決意して、机にノートを広げて……。
早速、創作を始めていると……。
ヒオリさんがドアをノックしてきた。
『店長、よろしいでしょうか』
「うん。なぁに?」
『実は、皇太子殿下が緊急の用件とのことで参られまして……。すぐに店長に会いたいとおっしゃっているのですが……』
私は1階の応接室でお兄さまと対面した。
ミルも一緒だった。
ミルはいきなり謝ってきた。
「クウさま、ごめん! やっぱり世界の一大事なんて、みんなで協力するべきよ! だから全部言っちゃった!」
お兄さまが真顔で、対魔王への協力を申し出てくる。
帝国は力を惜しまないと言われた。
もはやこれまで、なのです。
私は罪を認め、深くお詫びしたのでした……。
お兄さまは許してくれました。
ありがとうございます。
この後、私はユイのところに行って、エリカのところに行って……。
ナオのところにも行って……。
3人に謝罪して、訂正しました……。
3人は言いましたよ。
「やっぱりね」
「やっぱりですの」
「やっぱり」
言い返す言葉もありませんでした。
ともかく。
本当に疲れたけど、1日でおわってよかったよ……。




