1217 柔軟性の大会
こんにちは、クウちゃんさまです。
今日は1月の2日。
新春です。
私は今、セラにアンジェ、スオナにマリエ、それに、ミルにアクア。
お友だちたち。
さらには、ヒオリさんにフラウにエミリーちゃんに、ファー。
家族同然の工房の仲間たち。
大勢と一緒に、中庭で訓練をしていました。
消音の魔道具を起動させているので、近所迷惑の心配はありません。
我が家の敷地には高い塀もあるしね。
そして今は……。
柔軟性の大会をしています。
「いっち、に。いっち、に。
ちゃんと足を伸ばして、まっすぐに体を前に倒そうね。
いっち、に。いっち、に」
はい。
みんなで柔軟体操をしています。
いったい、私は何をしているのでしょうか。
そう思わなくはないのですが……。
訓練の後の柔軟体操は、大切ですよね、きっと。
本当は私、剣の訓練に関係したお笑い大会をやりたかったのけど……。
ネタを思いつかなかったのです。
なので、マリエの言葉に乗っかったのです。
「まさか柔軟性の大会が、本当に柔軟性の大会だとは思わなかったわ」
さすがはアンジェ。
まさに私もそう思います。
「ははは。クウらしいよね」
スオナが笑った。
笑ってくれたのなら大勝利だよね、うん。
「わたくし、てっきり大喜利大会の続きかと思って、急いで、いろいろとネタを考えてしまっていました」
「……クウちゃんだけに、じゃなくて?」
セラの言葉に、私は思いっきり疑ってたずねた。
するとセラが非難めいた顔を向けてくる。
「クウちゃん。クウちゃんだけに、は、大切な言葉なんですよ。そんな気軽に使うものではないと思います」
昨日、連発していたよね!?
間違いなく確実に!
あれは私の幻覚だったのかしら!?
と、私はツッコミかけたけど、やめておいた。
だって、うん。
「そうですね」
「で、ある」
ヒオリさんとフラウが、セラの言葉に深々とうなずいたから。
私は顔を逸した。
するとエミリーちゃんと視線が合った。
するとエミリーちゃんが言った。
「クウちゃん、運動後のクールダウンって大切だね。ちゃんとやらないと明日の仕事に響いちゃうし」
「あーそっか。工房、明日からだったよねー」
「うん。今年もよろしくお願いします」
「うん。こちらこそ」
私たちは笑い合った。
こうして、しっかりと体をほぐして、今日の訓練はおわった。
みんなとお別れの時間だ。
「みんなとは、次は大宮殿でのパーティーで、だねー」
大宮殿での新年パーティーは、1月5日。
明後日だ。
「そうですね。お待ちしています」
「……正直、僕は気が重いよ。行くしかないのだけど」
「何故か私も招待されているのよねえ。ハァ、私、平民なのに。居場所がなさそうで私こそ憂鬱よ」
「大丈夫だよ。いざとなればマリエがいるし」
私は笑った。
そう。
パーティーには、壁の花マスターのマリエも来るのだ。
実に心強い。
「そうね。マリエ、頼りにしてるわ」
「ああ。僕のことも、いざとなったら助けてほしいよ」
「……あのー。みんな、わかってて、からかっているんだよね? 私なんて本気で、無害で無力なただの空気だからね?」
「何を言っているの! マリエほど頼りになる子なんていないでしょ! 本気に決まっているじゃない。ねえ」
ミルのマリエ評価は、まだまだ最高のようだ。
私は大いにうなずいておいた。
私も、マリエのことは頼りにしている。
それは事実なのだ。
今日もセラの家の大きな馬車が、みんなを送ってくれることになった。
私とヒオリさん、フラウにファーは見送りだ。
馬車の姿が通りに消えたところで、私はファーに笑いかけた。
「ファー、今日はどうだった?」
「はい。よい訓練でした」
「みんなとは、仲よくできた?」
たずねると、すぐに返事は来なかった。
「……ニンゲンと普通に接するのは、とても難しいと感じました。データベースに情報がありません」
「そっか。そうだよね」
「学習資料があればいただきたいのですが……」
「残念だけど、それはないかな。経験を積んで蓄積していこう」
「はい。わかりました」
ファーは、どれだけ優秀でも、まだ生まれたばかりなのだ。
焦る必要はない。
「まずは店員なのである。明日から頑張るのである」
「はい。店員であれば、応答は可能です」
「妾やエミリーともたくさんおしゃべりをして、ニンゲンとの接し方に慣れていくといいのである」
「はい。お願いします」
「さあ、では、明日の新年開店に向けて、お店と仕事の確認をしましょう。店長には在庫の補充をお願いしたく。新年の記念品なども用意してみませんか? 喜ばれると思うのですが」
「記念品かぁ。それ、いいかもだねー」
ヒオリさんの話を聞きつつ、私たちはお店に戻った。




