1215 対決! クウvsアンジェ
「クウちゃん、魔道具を起動させるのである。あと、みんなに防御の魔法を付与するのである」
「うん。お願い」
フラウが中庭の四隅においた、ポール状の魔道具を起動させてくれる。
中庭が、薄いシャボン玉のような半透明のドームに包まれた。
ガンガン打ち合うと近所迷惑だしね。
こういう時のためにヒオリさんとフラウと3人で設置しておいた、音を外に漏らさないための魔道具だ。
続けて、私たちの体に防御用の障壁を形成してくれた。
障壁が弾け飛んだら負けだ。
私は木剣を手に持って、アンジェと向き合う。
「ねえ、クウ。私、負ける気なんてまったくないんだけどさ、と言ってもクウに勝てるとはさすがに言えないわよね」
「どうだろう。やってみないとわからないかもよ」
「さすがにわかるわ。だから、ハンデくれない?」
「どんな?」
「クウは魔力による補助なし。私は、全力で補助する。どう?」
「いいよー」
「またそんな気楽に。驚いたって知らないからね」
「それは楽しみだ」
アンジェの実力、見せてもらおう。
私たちは剣を構えた。
お互いに正眼。
体の正面に、剣を中段で握った。
アンジェの体が緑と赤の魔力に包まれる。
見事な強化魔法だ。
風の力と火の力が、相反することなく綺麗に混在している。
対する私は素のまま。
肉体への魔力浸透も行わない。
私たちの脇では、早くもセラとファーが打ち合っていた。
木剣のぶつかり合う音が聞こえる。
心地よい響きだった。
まずはお互いに動きを確かめ合っているようだ。
あくまで練習だしね。
正しい姿だ。
「クウ、こっちは勝負だからね。ハンデもらって言うことじゃないけど、倒させてもらうわよ」
「了解」
さあ、私たちも始めようか。
軽く切っ先を触れ合わせて、それを開始の合図とする。
先手はアンジェに譲る。
私は動かず、アンジェの様子を窺った。
と――。
アンジェの姿が消えた。
次の瞬間には側面――。
に見せかけて、注意を向けたところで、正面に戻って――。
剣を突く仕草で蹴りを放ってきた。
さらに体をあびせて、まさかの投げ技を狙ってくる。
あぶなっ!
危うく捕まりかけた!
まさに突風のようなアンジェの連続攻撃だった。
アンジェは止まらない。
私は防戦一方になる。
正直、何度も危なくてヒヤヒヤしたけど――。
結果としては、私はアンジェの猛攻を何とかしのぐことができた。
「無理かぁ」
アンジェが距離を取って、剣を構え直す。
「正直、驚いたよ」
「次は力押しでいくわよっ!」
「どうぞ!」
アンジェが突っ込んできた。
宣言通り、今度の攻撃は正面からの面打ちだった。
私は受けて立った。
正面からまっすぐに受け止める。
剣と剣とがぶつかって、激しい音が鳴った。
あ。
と思った時には――。
バキン!
2本の木剣は砕けてしまった。
「あー!」
アンジェが額に手を当てて、無念の声を上げた。
「あはは。砕けちゃったね」
私は笑った。
そういえば、木剣には保護系の魔法をかけていなかった。
「んー。まだまだね」
「十分だと思うけど」
オーガでも倒せるくらいの一撃だったし。
「でも、ちゃんと剣にまで魔力が通っていれば、クウの剣だけ折って一撃は与えられていたわよね?」
「そうかもだねー」
「もー。余裕ぶってー。クウなら、それでも余裕でかわせる?」
「どうだろ」
かわせるかどうかについては、正直、その状況になってみないとわからないので答えようはないのが本音だ。
さっきについても、私は剣に保護魔法のかかっていないことを失念していた。
なので折れたのが私の剣だけなら、危なかったかも知れない。
とは思いつつも……。
まあ、うん。
多分、よけれてしまうとは思うけど。
なにしろ私、最強無敵だし。
「そかー」
と、これは私ではありませんアンジェです。
この後もアンジェとは激しく打ち合った。
アンジェは、うん。
ブレンダさんとメイヴィスさんの後をついで立派な狂犬になれそうだ。
まだ荒いものの、変幻自在の攻撃的な激しい剣撃だった。
一方、ファーとセラの打ち合いは、まるでダンスのように綺麗だった。
2人の相性は抜群のようだ。
とはいえ、遊んでいるわけではない。
最初は柔らかく打ち合っていたけど、どんどん加速していって、今では渓谷を流れる水の勢いだ。
時に滝のように、ガツン、と、剣と剣がぶつかることもある。
ただ、さすがは優等生コンビというべきか――。
力加減を間違えることはなく、木剣が折れることはなかった。
十分に打ち合ったところで、相手を変える。
私はファー。
アンジェはセラ。
ファーはセラと打ち合って、正しい剣の動かし方は確認できたことだろう。
次は応用編だ。
トリッキーな動きへの対処を学習してもらおう。




