1214 訓練の時間!
能力測定の後は、訓練の時間だ。
「というわけで、ここからは打ち合いです。まずは練習として、相手を変えつつ一対一でやりあいましょう。最後にみんなで大会です」
ファーが今、一番に学ぶべきなのは柔軟性だろう。
そのためには実戦が一番だよね。
「みんなで大会とは、どういうものになるのでしょうか?」
ヒオリさんがたずねてくる。
「ふふー。なんでしょうかー。今日の大会は、柔軟性を競う大会でーす」
「ああ、なるほど。いつものですね」
「いつものであるな」
ヒオリさんがうなずくと、フラウもうなずいた。
まあ、はい。
うん。
いつものですね。
と言っても、もったいぶってはみたけど、具体的にはまだ未定なのですが。
訓練しつつ考えようっ!
「それはまさか、アレですねっ!」
セラが弾む声で言った。
「アレじゃないからね!?」
クウちゃんだけに、くう!
未定といっても、ソレでないことは確かなのです。
「え。クウちゃん名物ブチノメシじゃないのですか? 去年の夏に白騎士の皆さんをわずか一日で覚醒させたという伝説の」
「あ、ううん。ホントにそれではないです。新年の余興なので」
クウちゃんだけに、くう!
じゃないだと……。
セラが真面目だなんて……。
私は心の中で戦慄したけど、表情には出さなかった。
「ねーねー、クウさま。私とアクアも剣の訓練してもいーい?」
「ミルたちもやりたいんだ?」
「ええ。私たちだって剣が使えれば、いざって時に少しは役立つわよね。この間の旅の時に特にそう思ったし」
「んー。そだねー。でもミルたちって、剣なんて持ったことないよね?」
「もちろんないわ」
「それなら、まずは剣の握り方や振り方から勉強しないとだね」
がむしゃらなだけでは、子供の喧嘩と同じになってしまう。
「店長、某が基本の指導をしましょうか?」
「うん。そうだね。ヒオリさん、お願いしてもいい?」
「はい。お任せください」
というわけで、妖精2人の指導はヒオリさんがしてくれることになった。
ヒオリさんはハイエルフの魔術師だけど、剣も使える。
万能なのだ。
「あのお。クウちゃん」
ふと見れば、近くにマリエがいて、片手を小さく上げていた。
「ん? あれ、マリエ、いたんだ」
本気で気づかなかったよ。
「うん。いたよ」
マリエがニッコリと言う。
「今日は剣の訓練だけど、マリエも参加するんだ……?」
マリエは、剣はやっていないよね。
魔法もだけど。
「明日も来てねって話だったから来ていたんだけど……」
「ごめんね。気づかなくて」
「ううん。いいの。私もね、空気の極意・二式改を発動させていたから、気づかれないのは当然だし」
いや、うん。
ホントに気づかなかったよ……。
マリエ、知らない内に、どんどん恐ろしい子になっていくね。
私が本気でそう言うと――。
「クウちゃんといると、本当にいろいろあるしね。私も進化しないと、本気で旅先で殺されちゃうよね」
と、実に爽やかな笑顔で言われた。
「マリエは実にタフなのである。しかも天賦にも恵まれ、まさに逸材なのである」
「そうですね。海賊に攫われて、暗殺者に襲われながらも、その腕ひとつで生き抜いてきたわけですし。特に海賊事件の時には、単身で敵のアジトから脱出するばかりか囚われていた人々も救出したのだから大したものです」
フラウとヒオリさんがマリエのことをそう評する
2人の評価は、意外にも高かった。
しかし……。
言われてみれば、確かにマリエにはいろいろとあった……。
マリエって、よくトラウマにもならず、私と友達でいてくれているよね……。
「ありがたや」
私はマリエのことを拝んだ。
「どうしたの、クウちゃん?」
「いやね、うん。私と友達でいてくれてありがとう」
「何を言っているのー。それはこっちの台詞だよー」
ありがたや。
マリエと笑いあっていると……。
そこにセラが来た。
セラは何故か、いきなりマリエを睨んだ。
「マリエさん、貴女というヒトは……」
「えっと、あの。どうしたの……?」
「貴女というヒトは、つまり、自分が一番だと言いたいのですね?」
「え。あ。ちがうよ!? 私はほら、ただのぷんくらとんだし!?」
「ぷんくらとん、ですか?」
セラが首を傾げる。
「う、うん……。そのはずだけど……」
マリエがちらりと私の方を見たけど、私は気づかないフリをした。
だって、ね。
うん。
ぷんくらとんって何、と聞かれても困るのです。
何故なら意味はないのですから。
「意味はまったくわかりませんが、よくわかりました。つまり、マリエさんは、わたくしでは相手にならないと――。そう言いたいわけですね?」
「どうしてそうなるの!? 相手になるからね十分に!?」
マリエがツッコムのは当然だろう。
なにしろ会話につながりがない。
まあ、それを言ったら、そもそもぷんくらとんが、だけど。
「相手に……。わかりました。受けて立ちましょう」
セラが静かに言う。
「クウちゃん!?」
マリエが私に助けを求めてくるけど――。
時すでにおすし。
セラがビシッとマリエに指を向けた。
「マリエさん! 勝負です! わたくしと打ち合いましょう! 確かにわたくしにはマリエさんのような天賦はありませんが、訓練の成果による努力の剣を見せて差し上げます!」
「それは面白いのである。天才の剣と努力の剣の戦い、であるか」
「あのお……。天才の剣って誰の……」
「無論、マリエである」
「クウちゃん!?」
フラウに堂々と肯定されて、またもマリエが私に助けを求めてきた。
まあ、うん。
マリエは確かに天才だと思うけど、剣は素人だよね。
わかる。
「マリエは今日は、ミルとアクアと一緒に、基本をヒオリさんから習おうか」
さすがに私は助け舟を出してあげた。
「うん! せっかくだし、そうさせてもらうね! 実は私も、剣の使い方くらいは覚えておきたいなーって思ってたし!」
マリエはすかさず舟に乗った。
「マリエって謙虚なのね……。とっくにマリエは悪党どもを倒せるくらいに強いんだから、基本なんていらないと思うけど……」
「ミルちゃん、何度も言っているけど私は素人だからね?」
「あはは! わかってるって! 虎やオーガが最初から強いのと一緒で、マリエは生まれながらの天才ってことよね!」
「虎やオーガと一緒にされても困るからねっ!?」
マリエはホント、大変だね。
ミルからも過剰な評価を受けているようだ。
「セラは最初、ファーとお願いしてもいい?」
私はセラに言った。
「ファーちゃんとですか?」
「うん。お互いに正統派だし、まずは肩慣らしってことで」
「わかりました。マリエさんとできないのは残念ですが、相手にとって不足なしですね」
幸いにもセラはあっさりと納得してくれた。
セラの剣は基本に忠実。
ファーの剣も、教本通りで実に素直。
お互いに自分の動きを確認するには最適の相手だろう。
「クウちゃん、わたしもヒオリさんのクラスでいい?」
エミリーちゃんが言った。
「エミリーちゃんも基礎からがいいんだ?」
「わたしね、思うの。わたし、アンジェちゃんやセラちゃんと打ち合うと、きっと死んじゃうよね……」
中庭では、アンジェがウォーミングアップとして素振りをしていた。
凄まじい速さと力強さだ。
虎やオーガくらいなら一撃で粉砕しそうなほどに。
「ごめん。そうだね」
よく考えれば、エミリーちゃんはまだダンジョンにも行っていない子だった。
基本的に優秀だからアンジェと同じ枠で考えてしまったよ。
「クウ、僕も基本クラスでいいかな。さすがにアレを受けるのは怖いよ」
ごめん、スオナも同じだったね。
スオナは完全に後衛だし。
というわけで。
ミル、アクア、マリエ、エミリーちゃん、スオナの5人は、ヒオリさんから基本の指導を受けることになった。
フラウは、全体のサポート役を買って出てくれた。
打ち合うのは、ファーとセラとアンジェ。
その3人になった。
「アンジェは私とやろう」
「いいわね。ついにこの時が来たのね」
「この時?」
「そ。クウと一対一で打ち合う時よ。全然なかったでしょ」
「そういえば、そうだね」
考えてみると。




