1213 ファーの能力測定!
「ねえ、アンジェ」
「どうしたの、クウ」
「年も改まったことだし、私との契約、解除してみる?」
「って、精霊の?」
「うん」
「なんで? 私、何かした?」
「むしろ信頼しているからだよー」
「……どういうことよ?」
「キオと、やっぱりほら、どうかなーと思って」
アンジェは風の魔力も持っているし。
契約するなら相性抜群だよね。
「……私に押しつけても、結局、ここに居着くと思うわよ? 私、学院で寮生活だから居候なんて無理だし」
「あー。そっかー」
名案だと思ったけど、考えてみればアンジェは寮生かぁ。
「それに、クウ。友情を売り買いするみたいな言い方はするもんじゃないわよ。そういうのって真面目に嫌われるからね?」
「あ、うん。ごめん……」
「……ま、気持ちはわからなくもないけど」
午前。
私の家の中庭には、セラにアンジェにスオナにエミリーちゃん。
セラの専属メイドのシルエラさん。
妖精のミルとアクア。
今日の主役のメイドロボのファー。
我が家の同居人の、フラウとヒオリさん。
が、いた。
勢ぞろいだね。
ゼノはアリスちゃんのところに帰った。
代わりに精霊枠では……。
来るなと言ったはずなのに……。
何故か平気な顔をして、大精霊のキオとイルが来ている。
今日はこれからファーの能力測定をする。
その後は戦闘訓練の予定だ。
戦闘訓練にはセラたちも参加予定だ。
参加者は、腰に剣をつけて、足はブーツ、動きやすい格好で来ている。
のだけど……。
「なにぃぃぃぃなのー! 水より優れた風なんてあるわけがないなのー! メイドの指導はイルこそが相応しいのー!」
「ふんっだ。カラアゲしか脳のないヤツが何を言っているのか。年末の時だって雪を降らせるしかできなかったくせに」
えー、今。
測定を始めるはずの中庭で、何故か、まったく無関係のイルとキオがファーの指導役の座を争って喧嘩をしている。
のです……。
「なんなの! ならキオは、何をやったっていうなの!」
「ふふーっんだ! 私はこう見えて、たくさんの建物を倒したわよ! 町に大被害を与えてやったんだから!」
「イルだってクウさまの妨害がなければ、帝都を沈めてやれたなの!」
「できなかったクセにー」
「妨害されたからなの!」
「できなかったはできなかったでしょ? ハイ、私の勝ちー。ファーの指導は私に任せて、イルは帰りなさいよねー」
「ぐぬぬぬ、なの! 許さないなの! こうなったら帝都を洪水に沈めてイルの力を見せつけてやるなの!」
「ふふふーんっだ! その前に竜巻で帝都なんてぶっ壊してやるんだから! そうしたらキオの完勝ね!」
「ぐぬぬぬぬぬぬ! 許さないなのー! それならキオをこの場でギッタンギタンにしてやるなのー!」
「ねえ、クウ。このままだと帝都が壊されそうなんだけど?」
アンジェが冷静に言った。
ちなみにセラたちは、脇で黙々と準備体操をしている。
ある意味で真面目だ。
「はぁ……」
私はため息をついた。
「昏睡」
「はう」
「なの」
2人を眠らせて、肩に担いで、精霊界に強制送還した。
ということがあっていきなり疲れましたが……。
気を取り直して!
ファーの能力測定を始めることにした。
ちなみにファーはジャージ姿だ。
よく似合っている。
まだ外見がゴーレム的だった頃、ファーの身体能力はたいしたものだった。
少なくとも、並の人間に太刀打ちできるレベルではなかった。
普段の生活で生かされることはなかったけど。
なにしろお店の手伝いしかしていなかったし。
今のファーは、胸に埋め込んだ『心核』で動いていることは同じとはいえ、見た目的には普通の女の子だ。
雰囲気はシルエラさんに似ていて、クールで綺麗系。
まあ、うん。
大宮殿にいるメイドさんは、そういう感じの人が多いけど。
その意味では、ファーは馴染めそうだ。
それはともかく。
果たして今のファーは、どこまで動けるのか。
「じゃあ、まず、ジャンプ力を見てみようか。思いっきり跳び上がってみて」
「わかりました。行きます」
ファーがジャンプした。
次の瞬間には、屋根の上より高い空の上にいた。
状態も安定している。
綺麗に着地して、一礼する。
私たちは拍手した。
ぱちぱちぱち。
「風の魔力を発動させたアンジェくらいだね」
拍手しつつ、私はとなりにいるアンジェに話しかけた。
「ええ。そうね。驚いたわ」
もうなんか、今のジャンプだけで測定の必要はなさそうだけど……。
念のため、他の測定も受けてもらった。
すべて超人レベルだった。
筋力的には、ボンバー級の巨漢でも殴り飛ばせることだろう。
「身体能力には一切の問題がなさそうですね」
ヒオリさんが言った。
「だねー。ファーはどう? 動いてみて以前とは違っている? 上がっているとか下がっているとか」
「身体能力の進化はなかったようです。以前と同じ水準です」
「そかー」
「期待に添えず申し訳ありません」
「前からすごかったんだから、とっくに応えてるよー」
私はだからこそ、何体も作った試作型メイドゴーレムの中から、ファーを代表として残したのだ。
次は剣の腕を見てみた。
進化前、ファーは帝都中央学院の剣技教本を読んで、わずかとはいえフラウから指導も受けた。
果たして、どれくらいのものか。
私は楽しみに剣を受けさせてもらった。
最初は驚かされた。
ファーの剣は、速く正確だった。
ただ、うん。
教本通りすぎて、慣れれば対処は簡単だった。
現状では、白騎士や黒騎士、『ホーリー・シールド』『ローズ・レイピア』の隊員には勝てないだろう。
「最後は魔法だね。ファーには土属性の魔力があるけど、以前は魔法については残念ながら使えなかったよね」
「はい。使えませんでした」
「今はどう? 魔術の教本も読んだんだよね?」
「試してみても良いでしょうか?」
やってもらうことにした。
魔術杖を渡して、教本通りに土魔術の呪文を詠唱してもらう。
すると……。
「おおっ!」
見事にストーン・バレットの魔術が炸裂した。
空に向かって石つぶてが飛んでいく。
「マスター、魔術の行使を確認しました」
「ファー、よかったね」
私は笑って称賛した。
「はい」
ファーは短く答えた。
それは、いつも通りの淡々とした態度だったけど……。
口元と目元は緩んでいた。
「ちなみにファー、今の石つぶてを矢の形に変えることはできる?」
「申し訳ありません。知識にはありません」
「強くイメージしてみて」
「わかりました」
残念ながら、うまくいかなかった。
ファーは現状、学んだことは完璧に再現できても、それを自由に応用して扱うことは苦手のようだ。
なにしろ、つい2日前まで自動応答しかできなかったのだ。
まだ発想することに慣れないのだろう。




