1212 1月2日の朝
朝、パチリと目が覚めた。
身を起こす。
私は1人で寝ていた。
となりにいるはずのファーの姿はなかった。
昨夜は私の部屋で一緒に寝たのだけど。
となりの部屋をプレゼントしたものの、まだベッドもなかったしね。
まあ、うん。
ファーのことだから朝食の支度かな。
と思って2階に降りてみると、やっぱりそうだった。
「おはようございます、マスター」
私がリビングに入ると、ファーが1番に挨拶してくる。
朝からテーブルには豪華な食事が並んでいた。
すでにフラウとヒオリさんと、なぜかゼノも椅子に座っていた。
ファーはメイド姿で、立って待っていた。
「おはよー、みんなー」
朝の挨拶を交わす。
私も席に着いた。
「ゼノが朝からいるなんて珍しいね」
最近は、もう完全にウェーバーさんちに居着いて、うちの工房に戻ってくることもほとんどないのに。
ちなみに昨日、あれやこれやのお祭り騒ぎに誘わなかった件については問題ありません。
ゼノりんは、新年はアリスちゃんと過ごすことになっていましたので。
決して忘れていたわけではないのです。
「ニンゲンの暦では新年なんでしょ。一応、挨拶に来たのさ」
「そかー。今年もよろしくねー」
「相変わらず気が抜けてるね、クウは」
「朝だしねー」
あくびもでますよ。
「それにしても、ファーは進化したもんだね。驚いたよ。もうこれ、ほぼニンゲンだよね」
「ゼノから見てもニンゲンに見えるの?」
「存在的にはね。でも実際にはゴーレムなんだよね? 埋め込んだ宝珠が動力源なんだよね?」
「そうなの?」
「聞いてるのはボクなんだけど? どうしてクウが聞き返すのさ」
「私、難しいこと、まったくわかんないし」
「自分で作っておいて、何を言っているのかボクには理解できないね。わからないのにどうして作れるのさ」
ゼノが呆れた顔をする。
「あははー」
真面目な話、アイテム欄のコメントとゲーム知識を参考に、成り行き任せで進化させただけなのです。
詳細は、本気でわからないのです。
すべてはアシス様を信じて、アシス様のお導きのままに……。
大正義なのです。
「まあ、いいけど。どうせクウだし」
「で、ある。ゼノ、クウちゃんのやることに理屈は不要なのである。すべては正義であり正解なのである」
「そうですね。店長こそが、まさに世界の法則なれば」
うんうん、と、フラウとヒオリさんがうなずく。
私、世界の法則になった記憶はないんだけどね。
まあ、いいけど。
私は細かいことは気にしないのです。
なるがままでいいのです。
ともかく朝食をいただこう。
私はお腹が空いた。
「ファーも一緒に食べよー」
と、私は誘ったのだけど、今回はご遠慮されてしまった。
ファー的には、食事は必須ではない。
昨日、私が補充して、現在の魔力は満タンだしね。
あと、そもそもメイドは、主人と一緒に食事をする存在ではないという価値観もあるようだ。
それはそうなんだけどね……。
シルエラさんなんかも、いつもうしろにいるし。
私的には寂しい気もするけど、強引に食卓に着かせるのも違うよね。
ファーのしたいようにさせてあげよう。
というわけで。
ファーが脇に控える中、豪華な朝食タイムは始まった。
ファーの料理は絶品だ。
ホント、すごいよね。
レシピ通りに作っているだけと言っても……。
レシピ通りに作れることがすごい。
「ところで、ゼノ。ミレイユさんはどうなったの?」
「しばらくウェーバー家に住まわせることにしたよ」
「もしかして、メイドとして?」
「うん。ウィルの下につかせて、一般的な常識を覚えさせるよ」
「へー。そかー。って、なら、フロイトはどうなったの?」
「フロイトって、あの氷漬けの男だよね?」
「うん。そうだけど……」
「あいつなら氷漬けのままだから安心してもいいよ」
「そかー」
なら、ミレイユさんの拘束がなくても、安心だねー。
町の人に迷惑をかけることもないかー。
私は笑ったけど……。
「えっと、ゼノ。それって大丈夫なの? 何日も氷漬けなんて」
「なんで?」
「死んじゃわない?」
「とっくに死んでるけど、問題があるの?」
「あ、うん。ないかー」
あははー。
そういえば目の前にいるのは、闇の大精霊様だったねー。
「……でも、ウィルの下で大丈夫なの?」
「他に適切な人材もいないしね。まあ、いいんじゃない? アンデッド同士で気も合うみたいだし」
「……気、合ってるんだ?」
「うん。クウの話で盛り上がってるよー」
「嫌な予感しかしないんですけど?」
主にウィルの方で。
「安心してもいいよ。クウのことはアリスが大好きなんだからさ、良いところしか話していないよ」
「なるほど!」
「ボク的には、少しだけ困っているけどね」
「どうして?」
「だってクウってさ、結局、力がすべてだよね。ミレイユのことにしてもウィルのことにしても、ねじ伏せただけだし。アリスが影響されて、力こそ正義!なんて叫び出したら大変だよ」
「そ、そかー……」
「クウ、今年の目標を決めようか?」
ゼノがニッコリと言った。
「えっとぉ。なに?」
「今年は、知性と理性で事件を解決する。なんてのはどう?」
ご遠慮させていただきました。
だって、うん。
はい。
私、まさにふわふわな精霊さんなので……。
直感だけが友達なので……。
探偵みたいに事件を解決できる自信は、ありませんのです。
ちなみにこの後、セラたちが来ることはゼノに伝えたのですが、残念ながらウェーバーさんちで用事があると帰っていきました。
ウェーバーさんち……。
だだでさえ、ゼノとアリスちゃんがいるのに……。
最近では加えて、他国で悪事を働いていた上位吸血鬼数名と、さらに最上位のウィルまでもが居着いていて……。
加えて雪女系アンデッドのミレイユさんまでもがメイドになったけど……。
いったい、家の中はどうなっているのだろうか。
私は少しだけ気になったけど、気にしないことにした。
うむ。
気にすると大変だしねっ!




