1209 クウちゃんさまの食通三本勝負!
「こ、これは……!」
ファーの作ってくれた料理は、まさにご馳走だった。
テーブルにずらりと、肉にスープにサラダにフルーツが並んで……。
凄まじい迫力だった。
「ほお、これは。ハラヘールの料理家マルコメス・ミソスキー先生の著書『我が家のとっておきの祝い事』に記されたディナーの再現ですね。見事です」
ヒオリさんが言う。
「ありがとうございます。お口に合えば嬉しいのですが」
「見る限り美味そうなのである。さすがはファーである」
「ファー殿は、味覚もあるのですか?」
「はい」
「それはすごいですね。まさに進化したのですね」
「味付けはレシピ通り、味見もしましたので問題はないと思いますが……。私は今までに食物を摂取したことがないので、そこについては、ぜひ忌憚ない意見をいただければと思います」
「うむ。では早速、いただくのである」
「だねー」
3人に目を向けられて、私は笑った。
「ファーも立っていないで、ほら、早く座って一緒に食べよ」
ファーも座らせてから――。
みんなで揃って――。
いただきますっ!
クウちゃんだけに、くう。
私はまず、サラダをフォークに刺していただいた。
ぱく。
食感はいいね。
瑞々しい。
ドレッシングは、オリーブオイルをメインとして、レモンに砂糖……。
それに……。
うん。
その奥に、何やら深い味わいがあるね……。
これはなんだろう……。
やっぱりお約束なら桑の実かな……。
言ってみる?
食通の人みたいに……。
おのれ、このクウちゃんさまの味覚を試すとは。
これは、桑の実か!
って……。
「よいサラダですね。わずかに加えられたスイートバジルとペパーミントが、実に奥深い風味となっています」
「ありがとうございます。さすがはヒオリです。一口で言い当てるとは」
「某は本の内容も知っていましたからね」
「そうでした」
ヒオリさんとファーが笑い合う。
ふむ。
私、余計なことを言わなくてよかったね。
一命を取り留めたよ。
ぱくぱく。
私は静かに奥深い風味のサラダを食べた。
さあ、では。
気を取り直して、次は肉をいただこうかなっ!
茶色のソースがかかった焼いたお肉を、フォークで刺して、口の中に運ぶ。
これは……!
ソースが実によいっ!
普通のバーベキューソースかと思いきや、何かが違うっ!
ここにも隠し味があるようだ……。
なんだろう……。
この芳醇な、懐かしさすら感じる味の膨らみ……。
これは……!
私は閃いた!
ピンと来た!
味噌!
隠し味に、味噌が入っているに違いない!
だって、マルコメス・ミソスキーだし!
どう考えても味噌だろう!
これで味噌じゃなかったらおかしいよね!
よし!
今度こそ、私は言おう。
我こそは、伝説の美食家ク・ウチャン!
故にこそ、何か言わねばならないのだ!
「この肉もよいのである。特にソース。普通のソースと思いきや、こちらにも何やら隠し味が入っているのである。……。これは、ふむ。まるで、妾への挑戦状のようであるが……。む。むむ! わかったのである! このソースに隠されているのは桑の実であるな! これは桑の実の風味である!」
「さすがはフラウ。その通りです」
な、ななななななな……。
なんだってぇぇぇぇぇぇ!
フラウとファーの話を聞いて、私は戦慄した。
その戦慄は、まさに……。
地球が滅びると言われたレベルに等しかった。
だって!
だってだって!
桑の実!
桑の実が隠し味だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
なぜそんな前世のお約束をファーが知っているのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
いや、うん。
普通にこちらの世界にも桑の実はある。
うん。
あるのだ……。
落ち着け、私……。
しかし、そうか……。
マルコメでミソスキーなのに、ソースに味噌は使われていないのか。
なんということなのか……。
私はもう、前世に顔向けができないよ……。
「マスター、お気に召しませんか?」
「あ、ううんっ! ちょっと懐かしい味だなーと思ってね! サラダもお肉もおいしいよー!」
いかんいかん!
ファーに心配されてしまった!
私は気を取り直して、今度はスープに口をつけた。
ふむ。
これは……。
なんという新鮮な味わい!
今までに飲んだことのない衝撃がここに!
短時間で作ったとは思えないほどに多くの野菜のエキスがつまった……。
見事な黄金のスープだね。
深い。
どこまでも染み渡る、まるで海のようなスープだ。
ふふ。
よし。
今度こそ私が言おう。
命名してあげよう!
ファーオリジナル、ゴールデン・シー・スープ。
我ながら、素晴らしい名前ではなかろうか。
名前をつけるだけなら、失敗もない。
完璧だ。
まさに我こそかク・ウチャン。
伝説の美食家であることを、今、ファーに教えてあげよう。
「ふむ。このスープは……。いつもの味であるような気がするのである」
「オダウェルオリジナルのコンソメスープですね」
「はい。スープについては、市販の固形素材を使えばよいとありましたので……。問題ありましたでしょうか」
「いや、むしろよいのである。新鮮な味付けの中、このスープは穏やかな気持ちにさせてくれるのである」
「そうですね。口休めに最適かと」
3人の会話を聞いて……。
私は1人……。
なんでもない顔でスープをすすりながら……。
戦慄していた……。
な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ……。
このスープは、いつもの味だと……。
た、たたたたた、たしかに言われてみればそんな気もする……。
では……。
私の感じた衝撃は、なんだったというのか……。
ファーオリジナル、ゴールデン・シー・スープとは、どこにあるのか……。
まあ、いいか。
私は気を取り直すことにした。
だって、うん。
やっぱり私は、伝説の美食家ク・ウチャンではなかったのだ。
そういうことなのだろう。
すべては私の錯覚、幻想に過ぎなかったのだ。
ファーの初めての手料理――。
そんなわけで――。
私は完敗した。
この最強無敵のクウちゃんさまに負けを認めさせるとは……。
ファーは、恐ろしい子になったものだ……。
味はとってもよかったです。
ネタに走りすぎていたらごめんなさい。
桑の実って何!?
という方は、ユーチューブで「桑の実 美味しんぼ」と検索していただければ
元ネタを見ることができます。第20話です\(^o^)/




