1208 夕食、どうしようか
夕方になって、セラたちが馬車で帰宅した。
私とヒオリさんとフラウとファーは、お店から通りに出て、大宮殿から迎えに来たセラの馬車を見送る。
エミリーちゃんとアンジェとスオナとマリエも同じ馬車の中だ。
ミルとアクアもね。
セラが一緒に送ってくれることになった。
キオとイルは、すでに帰らせた。
次に2人と会うのは、ゼノが準備している精霊界での挨拶会だ。
2人は当然のように、明日も来ると言っていたけど……。
挨拶会でちゃんとルールを決めるまでは、ニンゲン社会の迷惑になるから勝手に来ないようにと強く念を押しておいた。
うん。
はい。
正直ね……。
幼女2人の疲れを知らない元気爆発な大暴れにはね……。
さすがの私も疲れてしまうの……。
連日は本当に許してほしいの……。
「さあ、我々は夕食ですね」
馬車が通りに消えてから、ヒオリさんが言った。
「ファーは、食事はどうするのであるか? 食べるのであるか?」
フラウがたずねる。
「食事については不要です。待機状態で魔素の吸収を行えば通常行動の維持は可能です」
「で、あるか。それは残念である」
「だねー。一緒に楽しめればよかったけど」
外見的には人間そっくりになったけど、構造は違うようだ。
と思ったら……。
効率は悪いものの、食事によるエネルギー補給も可能とのことだった。
なので付き合いで食べることはできるらしい。
なんてすごいゴーレム!
いや、あえて言おう。
さすがは私なのです。
さすクウなのです。
って!
ああああああああああ!
しまったぁぁぁ!
自分で言ってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
たまに突破されるとはいえ……。
頑張って「さすクウ」はブロックしてきたのにぃぃぃぃぃぃ!
今までの苦労がぁぁぁ!
なんて私が一人で悶えていると……。
それを気にすることなく、ヒオリさんがファーに質問した。
「通常行動は可能ということは、現状、激しい行動は難しいのですか?」
「はい。現在は制限状態にあります」
進化で大半のエネルギーを使って、今の残量は12%ほどらしい。
通常行動には問題なしと言うけど……。
危険水域だよね、明らかに……。
「それは、しばらくというか、ゆっくり休んだ方がいいね。ごめんね、気づかなくて。というか私が補充してあげられるんだっけ?」
できるようだった。
早速、お店の中に戻って、ファーの背中から魔力を注いであげる。
ファーは本当に強力な存在になったようだ。
このクウちゃんさまをもってしても100%の状態まで補充するのには数分かかって、補充した後はそれなりに疲れた。
ユーザーインターフェースでステータスを確認すると……。
なんと、私の膨大なMPが5分の1も減っていた!
「……それでも5分の1なのですね」
「さすがはクウちゃんである」
ヒオリさんには呆れた顔をされて、フラウにはうなずかれたけど。
ともかくファーは元気になった。
よかった。
「じゃあ、今夜はファーの初めての食事として家で食べようか!」
いつもの『陽気な白猫亭』では騒がしすぎて、絶対に絡んでくる人もいるし、落ち着いて食べられないよね。
今夜はファーにも、ゆっくりと食事を楽しんでもらおう。
「わかったのである。何か作るであるか?」
「うん。そうだねー」
久しぶりに私の得意料理のラザニアを披露しちゃおうかなー。
と思っていると……。
「マスター、料理は私にお任せいただけませんでしょうか?」
「ファーが?」
「はい。味見もできるようになったので、ぜひ皆様のために作らせていただきたいです」
今夜はファーの歓迎会だから、ファーが作るのはどうかなぁ。
と私は思ったけど……。
ファーはメイドロボなのだから……。
むしろ作りたい側なのは、当然なのかも知れない。
「なら、お願いしてもいいかな?」
「はい。お任せください」
「ファーの手料理であるか。それは期待なのである」
「そうですね。期待させていただきましょう」
ふ。
キタイ、か。
懐かしい響きだ……。
まるで、そう、遠き日に見た花火のような……。
「どうしたのであるか、クウちゃん」
「ううん! なんでもー! 私もマッスルだよ、マッスル!」
私はマッスルポーズを取った!
「……どうしたのであるか、クウちゃん?」
「あ、ううん! なんでもなんでも! マッスルだよー!」
はうううううう!
って私はセラじゃないけど、ついうっかり……。
またもマッスルしてしまったぁぁぁ!
重ねマッスル!
こほん。
まあ、いいです。
「じゃあ、2階に戻ろうか」
我が家のキッチンは2階のリビングに隣接している。
「ファー、材料はいっぱい出すから、なんでも作ってくれていいよー」
「はい。わかりました」
「いっそ勝負にしちゃう!? 料理対決!」
「店長、ファー殿にとっては初めての料理ですよ。それに勝負なら昼にしたばかりですよね? 昨日も勝負でしたし」
「あ、うん。そうだね」
「クウちゃんは本当に、勝負が好きなのである」




