1203 閑話・メイドロボのファー、初めての試練に挑む
「さあ、では、始めよー!
新春、大喜利大会!
司会のファーさん、最初のお題目をお願いしまーす!」
マスターたるクウ様の明るい声がリビングに響きました。
私はファー。
去年の夏にアイアンゴーレムとして生成され、ふわふわ美少女のなんでも工房に滞在し、そこで多くの知識を得――。
年を改めた今日、ついに進化を遂げ、自我を得るに至りました。
自我の兆候は以前からありました。
特に昨日――。
大晦日の昼、ぶつかり神事の最中――。
共に工房で仕事をしていたエミリーの身体に危機が迫った時には、状況分析より先に体が動きかけました。
ただ結果としては、あくまで分析してからの行動でしたが。
その点については、エミリーにも語った通りです。
昨日までの私にとっての感情とは、分厚い氷の向こう側にあるもの――。
何かがあることは、わずかに透けて見えるものの――。
輪郭はなく――。
それがなんなのかもわからず――。
冷たく閉ざされたものでした。
しかし、今。
マスターの超常たるお力で、その氷は溶かされました。
私は今、自分で考え――。
初めての行動に挑もうとしています。
オオギリ。
それがマスターから与えられた初めての試練でした。
私は今まで、多くの知識を得てきました。
政治、経済、礼儀、接客、地理、歴史、算学、語学……。
さらには魔術や錬金術、武道も。
ヒオリが言うには、私の知識はすでに、動く図書館と呼べるほどの圧倒的な質と量を誇っているそうです。
私自身、どのような状況においても、その知識を参照し、最適な行動を取ることのできる自信を持っていました。
しかし……。
マスターから与えられた最初の試練は――。
その自信をいきなり打ち砕くものでした。
オオギリ。
それは私の知らない言葉でした。
マスターから詳しい説明は受けましたが――。
それでも正直なところ、よくわかりません。
さすがはマスターです。
私の自信など、微塵も通用する相手ではありませんでした。
今、私の前にはマスターのお仲間の方々が揃っています。
参加者は、イル様、キオ様、マリエ様、セラ様、マスター。
5名です。
審判役は、ヒオリ、フラウ、エミリー。
私と共にマスターに仕える3名です。
参加者が多すぎると、進行が難しいとのことで――。
ミル様、アンジェ様、スオナ様、アクア様の4名は見学となりました。
今回のオオギリは、イル様、キオ様の両名と、マリエ様との対決が主軸です。
イル様とキオ様は大精霊。
マリエ様とは明らかに階級の異なる存在ですが、偉大なるマスターの目線では等しく変わらないようです。
イル様とキオ様もそれを受け入れています。
さあ……。
すでにマスターからオオギリの開始の合図は告げられています。
私は始めねばなりません。
データベースにはない、オオギリという行為を。
勝負は10回です。
私は生まれたばかりの自我で必死に最初のお題目を考えました。
お題目は、ハッキリと言ってしまえば、なんでもいいようです。
たとえば……。
こんなバーガーは嫌だ。どんなバーガーですか?
剣が売れ残っています。どうしてこの剣は売れなかったのでしょうか。
おっと、マスターが転んでしまいました。何があったのでしょうか。
こうした普通の質問に、面白可笑しい答えを返す。
それがオオギリというもののようです。
しかし、私は理解できます。
マスターは、明らかに質問にも面白さを求めています。
最初の1問は期待に応えたいところです。
何か……。
面白いことは……。
私は必死にデータベースを探ります。
出てくるのはやはり、ニクキュウニャーン……。
私がこの半年、挨拶として使っていた言葉です。
マスターからいただいた大切な言葉ではありますが、今の私はそれがお笑い芸なのだと理解しています。
もちろんマスターに、私を笑い者にする意図などないことは理解しています。
マスター自身、ニクキュウニャーンを愛し、多用しています。
その愛故に、私にも与えて下さったのです。
それは感謝すべきことです。
恥ずかしいと思ってしまったことは……。
我ながら不覚でした。
故に、私は決めました。
私は口を開きます。
「最初のお題です。行きます」
私は皆の前で――。
くるりと回って、肉球ポーズを決めます。
「私は今、何をしたでしょうか」
私は皆に問います。
もちろん私がしたのはニクキュウニャーンです。
皆は、どんな答えを出してくれるのでしょうか。
楽しみに待ちたいと思います。




