1202 新春の対決は……。
「にくきゅうにゃ~ん! 波ざはざば~! からのお!
必殺、スルメ焼きー!」
私は仰向けに寝転ぶと、体をゆっくりと折り曲げていった!
じゅじゅ、じゅじゅ、じゅじゅ……。
まさに、網の上で焼けるスルメ!
カンペキだ……。
わー!
ぱちぱちぱち!
みんなの拍手を受けつつ私は立ち上がると、片方の手をリビングの天井に伸ばして堂々と宣言した。
「えー! というわけで、これより!
新春、一発芸大会を行いまーす!
みなさん、芸の準備を、よろしくお願いしまーす!」
「いきなりどうしたのかと思ったら、そういうことね」
アンジェが肩をすくめた。
「クウのことだから、やるとは思っていたよ」
「そうね」
「準備してあるんだ?」
「一応はね」
私が質問すると、スオナも肩をすくめてうなずいた。
「ふふっ! もちろんわたくしも準備は万歳ですよ!」
セラも平気のようだ。
ただ、さすがにいきなり過ぎた仲間もいて、
「ねえ、クウさま。私、よくわからないんだけど……。とにかく今のクウさまのを真似すればいいの?」
と、ミルは首をひねっていた。
「猫の真似をすればいいのね! わかったわ!」
「なの。任せろニャなの」
キオとイルも似た感じだった。
受けて立ったものの、内容は理解していなかったらしい。
まあ、うん。
猫の真似でも立派な芸ではあるんだけど……。
それではさすがに、歴戦のマリーエ様には太刀打ちできないだろう。
「覚悟しなさいっ! マリエ! アンタなんて、この私の猫でギッタンギッタンにノシてやるんだから!」
「なの! マリエを猫ツメで引っ掻いてやるなの!」
キオとイルが斜め上のやる気を見せていると、
「なるほどわかったわ! 私もマリエなんてやっつけてやるわ!」
と、なぜかミルが乗っかってきた。
「やっつけるんですか……? マリエは、お友だちですよね?」
アクアが不審げにたずねる。
「何を言っているの、アクア! このお2人は偉大なる精霊様なのよ! 間違ったことを言うはずはないわ! マリエは敵だったのよ! ……本当に残念なことではあるけどね」
「そうなんですか……。わかりました。というか失礼ですが、もしかして、そちらの水色の髪の御方はイルサーフェ様では……?」
「なの! おまえはよく見れば、この間、ゼノの紹介で祝福してやったヤツなのね! 元気そうでよかったなの!」
「はい。お陰様でこのように成長することができました。わかりました。私も全力でマリエさんを倒します」
「ふふーん。おまえたち、妖精の割にはなかなか見どころがあるわね! いいわ! このキオ様の手下にしてあげる!」
「あ、それはいいです。私は闇の主さまのシモベだし、アクアは水の子なので」
「なの! キオはすっこんでろなの!」
「ふえ」
まあ、うん。
キオが泣きそうになるのはいつものことだとしても……。
「で、クウさま。カラアゲはどこなの? ハッ! まさかマリエを倒さないとカラアゲを出さないなの! やってやるなの! マリエなんて水竜に食わせて海の底に沈めてやるなの! 早く勝負をするなの!」
イルが一気にスパートするのも、いつものことだとしても……。
何故か雲行きがおかしくなってきたね。
と私が冷静に思っていると……。
「店長。店長と大精霊殿の対決ならまだわかりますが、何故、マリエ殿が敵扱いされているのですか?」
ヒオリさんが質問してきた。
「あ、うん。それはね」
私は、ざっくりと成り行きを話した。
「なるほど。そういうことですか。しかしこのままでは認識不足により、マリエ殿が不当なダメージを被る恐れが……」
「ふむ……。そうだね……」
私はちらりとマリエに目を向けた。
――向けようとした。
あれ、いない?
と思ったけど、探したらいた。
マリエは静かに姿勢を正し、微笑みを浮かべて気配を消していた!
いるとわかっているこの私でさえ……。
探さないと認識できないほどの薄い薄い空気感で!
空気の極意……。
おそるべし……。
ついには真空へと進化してくかのようだね……。
まあ、それはともかく。
マリエに怪我をさせるわけにはいかない。
私は考え、一瞬で閃いた!
そうだ!
これだ!
「皆さん、ごめんなさい。唐突ですが、ルールを変更させてください」
「そうね。その方がいいとは思うけど、どうするの?」
アンジェがたずねる。
「新春! 大喜利大会にしましょう!」
そう!
私はなんてかしこいのか!
大喜利なら、即興でも遊べるよね。
「ヒオリさん、フラウ、エミリーちゃん、工房の店員組は申し訳ないけど採点者に回ってもらっていいかな?」
「はい。内容はわかりませんが、まずはわかりました」
「同じくである。クウちゃんのためとあらば、何肌でも脱ぐのである」
「うん。わたしも頑張る! ファーはどうするの?」
「ファーには司会をやってもらいます。ファーは初仕事になるけど、私は参加者になるから頑張ってね!」
「マスター、申し訳ありません。私のライブラリーには、オオギリという言葉が存在していません。よって、何をどうすればいいのかわかりません」
ファーが頭を下げてくる。
「そうですね……。某も初めて聞きましたし……」
「平気だよっ! 簡単だから説明するねっ!」
大喜利とは!
司会者が出したお題に、参加者が面白可笑しく答える演目!
なのです!
たとえば……。
「この寿司を作ったのは、誰だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
と、いきなり食通が怒り出しました。
何故でしょう?
と問われたら……。
「はいっ!」
元気よく手を上げて、
「では、クウちゃんさん、どうぞ」
司会者に指名してもらえたら、答えます。
「ご飯が砂だったから! ぺっ! ぺっ! あー、口の中がシャリシャリするー! シャリだけに」
ダジャレを効かせてみたりとか。
あるいは、
「具がグーだったから! グーグー!」
たとえ意味はなくても、拳ひとつで押し切るとか。
あるいは、
「こう、なんかこぼれちゃったから? ぽろっ、ぽろって」
必死に答えてみたものの、ダジャレどころか意味も勢いもなし……。
うん。
それもまた、シュールでよいものです。
案外、そういうのがウケちゃうかも知れません。
つまり、答えにさえなっていれば、だいたいなんでもアリです。
さあ、がんばろー!




