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120 約束したからね?




 私は改めてディレーナに向き直った。


「あ、貴女……。いったい……。何者なんですの……? あの2人を一瞬で……」


「助けてあげてもいいけど――。

 精霊に誓って、二度とこんなバカなことはしないって約束できる?」


「バ、バカなことですって……!」

「実際、死にかけてるよね。これがバカなことじゃなければ、何がバカなことなのさ」

「無礼な! このわたくしに向かって!」


 まだまだ元気のようだ。


「さよなら」


 背を向けて、私は帰るフリをした。

 本当に帰るわけじゃない。

 イラッとするけど、さすがに見捨てることはできない。

 最終的には助けることになる。


 でも、このまま助けたとしても、今のディレーナの態度を見る限り、根本的な解決にはならないだろう。

 たぶん、ほとぼりが冷めたら、また攻撃してくる。

 この恨み、この屈辱、晴らさないでおけようか!

 とか逆上しそうだし。

 その時には、今度こそお姉さまが被害を受けるかも知れない。

 今回は私がいたけど、次はいないだろうし。


 だからなんとか改心させたい。


「待ちなさい! お、お待ちくださいませ!」

「……約束する?」


 振り返らず、私はたずねた。

 できるだけの静かな声で。


「します! しますから助けて!」

「……わかった」


 振り返って、装備を切り替える。

 神話武器『アストラル・ルーラー』を手に持った。


「約束したからね?」

「わかったから! 早く助けてお願い! 脚が――わたくしの脚がぁぁぁぁぁ!」


「消滅させるよ――。

 いいね? アストラル・ルーラー」


 強く願いを込めて、青く輝く刃の先で黒い粘液を突いた。

 粘液が弾ける。

 四散して、あっけなく消え去った。


「……あ、ははは。

 ……助かった、の、ですわね」


 黒い粘液から解放されて、ディレーナが力なく笑う。


「あ」


 そして、自分の脚に気づいた。


「あ……」


 スライムに包まれた影響で黒く変色している。

 膝から下が半ば溶かされていた。

 神経が死んでいるのか、痛みはないようだけど――。


「わ、わたくしの……。

 そんな……」


 ディレーナの顔が絶望に染まる。


「わたくし……。

 わたしくの脚が……溶けて……黒く……。

 何も……感じません……痛いはずなのに……何も……。

 動いても……くれません……。

 あ、ああ……。

 これでは……。

 これではもう……わたくしは……」


 せっかく助けてあげたのに、ボロボロと泣き始めてしまう。


「大丈夫。元に戻してあげるから」


 ごめんね。

 イラッとしたからとは言え、ちょっと意地悪くしすぎたかな。

 でも、大丈夫。

 大怪我だろうが呪いだろうが病気だろうが毒だろうが、ガイドルとフリオとまとめて一気に回復させる方法はある。

 ソウルスロットを変える。


「パワーワード」


「我、クウ・マイヤが世界に願う。我に力を与え給え」


 状態がよくわからない以上、これしかない。



 発現せよ――。


 集中せよ――。


 解放せよ――。


「エンシェント・ホーリーヒール」


 天から降り注いだ光が柱となって、部屋の中を包み込んだ。

 究極回復魔法。

 これで治せなければ、私にはどうしようもない。

 でも、間違いなく平気だよね。


 うん。


 大丈夫だ。


 ほんの一瞬で、ディレーナの脚は元通りの艶やかさを取り戻した。


「……光。

 ……白い……真っ白な光。

 ……これは……陛下を包んだのと同じ。

 精霊様の……」


 ディレーナがぼんやりと部屋に残る白い光を見つめる。


「足が……綺麗に……。

 動きますわ……。

 痛みも何もなくて……」


 ディレーナがよろよろと立ち上がる。


 ガイドルとフリオも意識を取り戻したようだ。

 2人は、頭を振って身を起こす。

 そしてディレーナと同じように、部屋に残る究極魔法の残滓に呆然と目を向けた。


 私はすっきりした。


 うむ!


 やっぱこれだね!


 イラッとした時には大技をブッパ!

 これに限る!


 ああ……。

 MPが一気に減るのは心地よい。

 消費MPと一緒にストレスがすうっと抜ける感じがする。


 『飛行』みたいにじわじわ減っていくのは辛いけど。


 気分爽快。


 それはともかく。


 すっきりしたところで話をまとめねば。


「いい?

 君たちは、偶然ここにいただけ。

 今のも偶然。

 何事もなかった。

 だから気にせず普通に武闘会を続けること」


 たしか、これでいいんだよね。

 内乱とかにならないように、何事もなかったように済ませる。

 面子だけは保たせてやって。

 でも勝利はいただく。

 うん。

 間違いないよね。

 お兄さまの作戦は、こんな感じだったはずだ!


「あとっ! 私、セラじゃないからね! セラフィーヌじゃないから! たまに間違われるけど別人だから! そこは絶対に間違えないこと! 迷惑になるから! 私は普通に精霊だから! ただのかしこい精霊さんだからね!」


 これはキチンと言っておかないとね!

 さすがにこれ以上、セラに重荷を背負わせるわけにはいかない。


「とにかく君たちは私と約束しました。

 もう二度と、こんなバカなことはしないと。

 他人を攻撃する陰謀なんて企てないと。

 忘れないように。

 精霊への誓いがどれだけの重さを持つのか、よく理解すること」


 ガイドルとフリオとはしていない気もするけど。

 うん。

 ここは強引にしたことにしておこう。


「……わ、わかりましたわ」


 きちんとディレーナがうなずいてくれた。

 大丈夫そうだね。


 ガイドルとフリオを睨みつけると、2人も呆然としつつもうなずいた。


 よかった。


「じゃあ、私、行くから。何事もなかったかのように武闘会は続けるんだよ。事件も陰謀もここには何もなかった。いいね?」


 私は安心して部屋から出た。


 さあ、これでオーケー。


 あとは正々堂々の戦いを楽しむとしようっ!



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― 新着の感想 ―
[良い点] わあ、自滅お灸据えちゃったぁ( º﹃º ) ξ゜⊿゜)ξ『こんなん惚れちまうやろーですわ!』 [気になる点] あれ~? 解決しちゃったヽ(゜Q。)ノ?
2021/07/28 16:56 退会済み
管理
[一言] ただのかしこい精霊さん(笑)
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