1199 ファーの進化完了、みんなにご挨拶!
「……まったく。新年早々、いきなり呼び出して何かと思えば、アンデッドを進化させましたって、どういうことなのさ」
「いやー。あははー。成り行きでねー」
「まあ、いいけど。この子にいろいろと教えればいいんだよね」
「うん。お願いー」
こんにちは、クウちゃんさまです。
というわけで。
アンデッドのことはよくわからないので、ゼノさんに来てもらいました。
ゼノさんに任せておけば、安心だよね。
なにしろ総元締めだし!
「ねえ、ところでフロスト・メイデンってどんな存在なの?」
「上位の吸血鬼と同じようなものだよ」
「ウィルみたいな感じ?」
「そそ。ぶっちゃけ、かなり力のある存在だよ」
「へー」
ただ違うのは、フロスト・メイデンは、人間の血ではなく、人間の精気を糧とする存在らしい。
ただ、吸血鬼のように誰の血でもいいというわけではなく――。
基本、パートナーに定めた、たった1人の相手からだけしか、精気を得ることはないのだという。
かなり愛欲の深い存在らしい。
しかも、なんと、愛を育めば出産も可能なのだそうだ。
確かに思い出してみれば……。
日本の昔話でも、雪女って人間との間に子供を作っていたよね。
向こうは妖怪だけど。
なんにしても、これにはミレイユさんも大喜びだった。
氷柱となったフロイトに抱きついて、永遠の愛を誓っていた。
うん。
お幸せにねっ!
フロイトとフロストって、なんか似ているし。
超お似合いだよねっ!
と、私も祝福してあげたのです。
とりあえずミレイユさんは、ウィルにも紹介して、帝都在住のゼノちゃん一派の一員となることに決まった。
フロスト・メイデンは、かなり希少なアンデッドのようで、ゼノも嫌がらずに世話をしてくれると言ってくれた。
町で冷気を振りまいたりしないように、しっかり指導してくれるそうだ。
よかった。
ミレイユさんも、ゼノが闇の主だということは、すぐに理解できたようだし。
アンデッドなら本能的にわかるようだ。
というわけで。
あとのことは、申し訳ないけど、ゼノさまにお任せして――。
私はファーを連れて空へと舞い上がった。
「さあ、ファー。工房に戻ろうか。みんな、待ってるしね」
「歓迎してもらえるとよいのですが……」
「してくれるよー。まずは、ご挨拶だね」
「あの、マスター」
「ん? どうしたの、ファー」
私がたずねると――。
ファーは一拍の間を空けてから――。
「いえ、なんでもありません」
と言った。
「あはは。すっかりニンゲンっぽくなったね。言いたいことがあるなら言ってくれていいからね」
「はい。ありがとうございます、マスター」
私はしつこくは聞かなかった。
急の要件ではなさそうだし。
ファーも感情が芽生えたばかりで、表情はクールなものだけど、内面では混乱しているだろうし。
おうちに帰った。
みんなは、2階のリビングでおしゃべりしていた。
窓の鍵はかかっていなかったので、窓を開けて、ファーと共に中に入る。
「おかえり、クウちゃん! ファーもお帰り!」
「ファー殿は無事に進化を果たしたようですね」
「うむ。めでたいのである」
エミリーちゃんとヒオリさんとフラウが、明るい声をかけてくれた。
他のみんなも歓迎してくれた。
「さあ、ファー。みんなに最初のご挨拶を」
お披露目だよっ!
私はファーを前に出した。
ファーは、やや緊張した様子で、まずは姿勢を正した。
一礼して、はじめまして、と言うのかな。
あるいは、ただいま、かな。
私もファーがどんな挨拶をするのか、とてもとても楽しみだ。
とてとてだ。
ファーが挨拶を始める。
くるりと回って――。
両手で猫の肉球を作って、こう言った。
「にくきゅう……。
にゃーん」
それを聞いて、私は思った。
あー。
そっかー。
そう言えば、ファーの挨拶はニクキュウニャーンだったねー。
なんとなく、気のせいか……。
ぎこちなかったけど……。
ファーの挨拶を受けて、みんなが拍手をする。
「よかったね。ファー、歓迎してくれてるよ」
私はファーのとなりに並んで……。
ファーの横顔を見上げた。
ファーは、見た目的には10代の後半の高校生くらい。
私よりも背が高い。
見上げるファーの横顔は、なんとなく赤かった。
ふむ。
いや、うん。
ややうつむいたファーの顔は、赤かった。
なんだか恥ずかしそうだ。
手を握って、体もプルプルしているし……。
「どうしたの?」
私はたずねた。
私と目が合うと、ファーはあわてて顔を上げた。
「い、いえ! 失礼しました! なんでもありません、マスター!」
「ならいいけど」
なんとなく違和感があるけど。
どうしたんだろ。
「店長、よろしいでしょうか」
ヒオリさんが手を上げた。
「どうしたの、ヒオリさん」
「思いますに、ファー殿はにくきゅうにゃ~んで挨拶をするのが恥ずかしかったのではないでしょうか」
「え」
「はい」
私が驚くと、ヒオリさんはうなずいた。
「ファー、そうなの……?」
「いえ……。そのようなことは……。マスターが定めてくれた挨拶を恥ずかしいなとどいうことは、決して、決して……」
「あ、うん。ごめんね……」
恥ずかしかったのね。
すぐに、挨拶は普通にしてもいいよ、と訂正しました。




