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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1198 閑話・従騎士フロイトの幸せな結末





 私、フロイトの前で、ミレイユは光の中にその姿を消した。

 私はそれを――。

 浄化だと感じた。

 すなわち、ミレイユは、ついに解放されたのだ。

 幽霊として大地に縛られていた鎖が解かれ、その魂は天へと帰り――。

 彼女は私の前から消えるのだ。

 永遠に。


「ああ……。ああ……」


 私は何故、悲しんでいるのか。

 ああ、そうか。

 便利な道具をなくしたからか。

 幽霊として、どこにでも入り込んで、どんなことでも見てこれるミレイユなくして私の活躍はなかった。

 それをなくした私は、ただの力なき従騎士――。

 今後の出世は、おそらくないだろう――。

 それが悲しいのか。


 いや――。


 私は理解していた。


 純粋に、ミレイユと永遠に会えなくなることに――。

 私は悲しんでいるのだ――。


「ミレイユ――。私は、今になって――」


 だが、もはや。

 すべては手遅れなのだ。


 私は四つん這いになって、顔を床に伏せた。


 ミレイユは消えて――。


「どうしたの、ふーちゃん」


 ああ……。


 声が、遠く聞こえる。


 これは私の記憶の中から聞こえているのだろうか。


 そうなのだろう――。


「すまなかった、ミレイユ。私は、今更、気づいてしまったのだ……」

「何を?」

「それは――。おまえを――」


 ん?


 私は不意に、その声が妙に近いことに気づいた。

 それは記憶の中――。

 ではない――。


 私は顔を上げた。


 すると、目の前にミレイユがしゃがんでいた。


「私を? 何を気づいたの? 私のこと?」


 ミレイユが首を傾げる。


 私は――。


 ハッと我に返った。


 私は何を、感傷に浸っていたのか……!?


 ミレイユなど、こんな厄介な幽霊娘など、いない方がいいというのに!


「熱でもでちゃった?」


 ミレイユが手を伸ばして、私の額に触れようとしてくる。


「ええい! 触るな! 冷たいだろうが!」


 私はその手を振り払った。


「いたっ!」


 手を弾かれて、ミレイユが顔をしかめる。

 そして……。


「え」


 ミレイユが心底、驚いた顔をした。


「どうした……?」


 あまりに驚いた様子だったので、思わず私はたずねてしまった。


「今、だって私、いたって……」

「む?」


 確かに、そういえば。


 今、私はミレイユの手を払ったが――。

 それはいつもなら、冷気を感じるだけの行為だ。

 なぜならミレイユは霊体。

 触るという言葉を使ったところで手はすり抜けるだけで、実際には触ることはできないのだから。


「ね、ねえ……。ふーちゃん」


 しゃがんだままのミレイユが、おそるおそる、四つん這いで顔を上げたままの私の頬に指で触れた。


 感触を、感じる。

 相変わらずの冷たい指ではあるが……。


「触れちゃった……。私、ふーちゃんに触ってるよね、今……」

「どうやら、そのようだな……」


 私は驚きの中、自分でも妙に冷静な声で答えていた。


「おめでとう。ミレイユさん、クエストのクリアで元気になって、実体化できるようになったんだねー」


 王女が言う。


「それはどういうことだ?」


 私はたずねた。

 何しろ意味がわからない。


「女神様の祝福じゃないのかな。クリアボーナス的な」

「そんなバカな」

「と言われても、ねえ?」


 王女が首を傾げる。


「何がねえだ!」


 私は身を起こした。

 王女に食ってかかろうとするが――。


 振り上げた私の腕は、あっさりと脇にいた少女に掴まれた。


「――マスターへの暴力は許容できません。続けるのであれば、実力で排除させていただきます」


 それはメイド姿の、まるで人形のような少女だった。

 その表情に感情はない。

 声も平坦なものだった。

 外見も美しく完成されすぎていて、逆に人らしさがないとも言えた。


 だが――。


 少女に、人形のような継ぎ目はない。

 髪もさらさらとしたものだった。


 それは間違いなく、王女がゴーレムと呼んだ少女だったが――。

 明らかに、存在が変化していた。


「ファーもやったね。おめでとう。進化成功だね」

「ありがとうございます、マスター。自分でも不思議なほどに思考が鮮明になって困惑もしています」

「自我が生まれたんだね」

「自我――。はい。そう定義すべきものかも知れません」

「見た目も随分変わったよ」

「そうですか。自分では、よくわかりません」


 その様子を見ていると……。


「ぎゃああああああああ!」


 突然の冷気が私を襲った!

 何だ!?

 と思えば、頬を膨らませたミレイユが攻撃魔術を放ったのだった!

 私は再びぶっ倒れた!


「なななな、なにをするかー!」

「もー! 酷くない!? 目の前に実体化した私がいるのに、いきなり他の女の子に目を向けるなんて!」

「貴様ー! そんなことで魔術をぶつけたのか! 見ろ! 私の右肩が凍りついているではないか!」

「知りまーん。自業自得でーす」

「いいから早く治せ! いつものことだが壊死したらどうする!」


 ミレイユは氷の魔術を得意とする。

 氷は、水の派生。

 故にミレイユは、幽霊ながら回復の魔術も操れるのだ。


「イヤでーす」

「貴様ー!」

「そんなことより、私を見て。ほら、手も足も触れるよ? 私、ふーちゃんのお嫁さんになれるかも!」


 私を氷漬けにしておいて、ミレイユがキャッキャと喜ぶ。


「ねえ、ミレイユさん。ちょっと魔法で鑑定していい? ミレイユさんが今、どんな状態なのか見てあげるよ」

「はい。お願いします」

「じゃあ、行くね。緑魔法、ステータスアナライズ」


 王女が不思議な魔術を使った。


 結果、ミレイユはアンデッドのままだったが――。

 ただの幽霊、ゴーストではなくなっていた。


「フロスト・メイデン……ですか」

「そ。雪女。氷結の乙女、だねー。アンデッドではあるけど、かなりニンゲンに近い存在だと思うよー」

「子供は産めるんでしょうか!?」

「それは、どうだろ……。ごめん、なんとも言えないや……」

「なんとも言えないということは、可能性アリと!? 結婚もできちゃいますよねそれならば!」

「おい、何を勝手なことを話している! そもそも私は結婚など――」


 まだする気はない。

 私が言うより早く、興奮したミレイユが抱きついてきた。


「きゃー! やったよ、ふーちゃん!」

「ぎゃあああああああああああああああああ!」


 私は悲鳴を上げた。

 何故なら、ミレイユに抱きつかれた瞬間――。

 柔らかな女の体の感触と共に――。

 全身を針で刺されたような、とんでもない冷気が襲いかかってきたからだ!


「ふーちゃん!? どうしたの、ふーちゃん!?」


 ミレイユに揺さぶられながら……。

 私は全身が……。

 意識も含めて……。

 凍りついてくのを感じた……。






ハッピーエンド!\(^o^)/


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― 新着の感想 ―
[一言] 昔の漫画で、雪女の恋人と結ばれた主人公が男女の行為をするのに凄く苦労していた記憶があります。こちらも同様の苦労がありそうです。 子供とか作れるのかな。今この場で問題に気付いていれば、目の前に…
[良い点] 確かにハッピーではあるんだけどww [一言] まぁこれも女性に不貞を働いてた事への罰で、ちょっとお茶目な女神様からの制裁かもだから諦めな? 女神様も茶目っ気がある可愛らしい女性なんだしw
[一言] フロイトならぬフロストさんですか。収まるところに収まってなにより。 しかし、クリスタルスカルはともかく、ガガンボはカゲロウ的なアレで、カニは…カニ…鍋…大根おろしの雪鍋…そういうことか!?
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