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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1197/1359

1197 閑話・従騎士フロイトの決断……!






 私、フロイトが最大の警戒をぶつける中、空色の髪をした異国の王女は、ケロリとした顔で言った。


「あはは。まっさかー。ただのクエストだってー」

「クエストとは何だ!」


 私には先程から、王女の言っていることがまるで理解できない。

 本気で何をするつもりなのか。


「……何と言われても困るけど、進化?」

「進化、だと……」

「そ。この子が進化するためにね。まあ、ちょっと見ててよ。ミレイユさんにもいいことがあるかも知れないからさー」

「いいこととは何だ!」

「ふむ」

「ふむとは何だ!」

「あ、うん。心配してあげてるの? 優しいねー」

「誰がだ! ここで騒動が起きてみろ! 私の責任になるのだぞ!」

「安心していいよー。クエスト通りなら元気になるだけだしー。消えてなくなったりはしないよー」

「そんな心配はしておらんわ! むしろ消えろ! 消えてしまえ!」


「じゃあ、ファー。まずはこの水晶を、ミレイユさんに手渡ししてあげて」

「了解シマシタ、マスター」


 叫ぶ私をスルーして王女がゴーレムに指示を出す。

 ゴーレムのメイドが水晶のサレコウベを手に持つ。


「ミレイユ、そんな怪しいものを受け取るんじゃないぞ」

「大丈夫だよ。私にはわかるんだ。これ、いいものだよ」

「おい!」


 私は怒ったが、ミレイユまでもがこの私をスルーした。


「ドウゾ」

「ありがとう」


 ミレイユが水晶を受け取る。


 すると……。


 不思議なことが起きた。


 薄く発光した水晶のサレコウベが、まるでミレイユの中に溶けるように、光と共に消えていったのだ。


「うん。いいね。ゲームと同じだ。さすがはアシス様」


 様子を見ていた王女が満足げにうなずく。


「どういうことだ! ゲームだと? アシス様とは、まさか創造神アシスシェーラ様のことか!?」

「あ、ううん。今のは気にしないで」


「なんか気持ちいい……」


 胸に手を当てて、ミレイユが言う。


「おい。大丈夫なのか?」


 私は思わずたずねた。


「うん。平気だよー。ものすごく、心があったまるの」

「何が心だ。幽霊の分際で」

「うわ。ひどっ」


 王女が顔をしかめるが、事実は事実だ。

 ヤツは幽霊。

 心どころか、命すらそもそもない。


「ファーはどう?」

「報告シマス。進化ノ第1条件ヲクリアシマシタ」

「よし! いいね! じゃあ、次は、ガガンボの羽を渡して」


「おい。本当に大丈夫なのか?」

「平気だってー。ミレイユの魔力だって安定しているでしょー。消えかけたりなんてしていないよー。そもそも元気になるクエストなんだしー」


 王女は相変わらずケロリとしているが――。

 ミレイユの表情は、満足げだ。

 それは、そう――。

 まるで、この世にあった未練を、昇華させているような――。


 第一、ミレイユの体は薄く輝いている。


 それは今にも消えてなくなりそうな雰囲気だった。


 ファーというゴーレムの少女が、大きな虫の羽をミレイユに手渡す。

 すると、水晶の時と同じように――。

 羽がミレイユの中に溶けた。


「進化ノ第二段階クリアデス」

「いいね」


「おい、まさか……。貴様、ミレイユを騙して利用するつもりか! そのゴーレムを強化するために!」

「人聞きの悪いこと言わないでよねー。ミレイユさんはどう? 変な感じではないよね?」

「はい……。不思議な感覚ですが、解放されていくようです……」

「おい! 解放とは、何だそれは!」

「まあ、心配する気持ちはわかるけど、ちゃんと私も魔力は見ているから、そこは安心してくれていいよー。アンデッドの浄化なんて、それこそ私は山ほど見てきてよくわかっているし」

「だ、誰が心配など! こんな幽霊女、むしろ消えてくれた方が清々すると言っているだろうが! むしろ消してしまえ!」


 私は本音で叫んでいたが――。

 心の中は複雑だった。

 なにしろ、ミレイユがいなくなるのは、正直、困る。

 私につきまとうこの幽霊女がいなくなれば、私は解放される。

 好きに遊べるのだ。

 だが……。

 この幽霊女がいなくなれば、今まで成果を上げてきた、ミレイユを使った偵察行為ができなくなってしまう。

 そうなれば、私は正騎士となることができない。


 くっ!


 それは、マズイ。


 せめて正騎士となるまで、ミレイユにはいてもらわないと困るのだ。


 それに――。


 消えてしまえと叫びつつ、私の脳裏にはこの1年の生活が蘇っていた。

 この1年の生活には、もう慣れてもいた。

 ミレイユは、一緒に飯を食うことも、一緒に寢ることも、手をつなぐことすらできない幽霊女だが……。

 苦楽は共にしてきた。

 私は常に、ミレイユには消えろと言ってきたが――。

 ミレイユはそれを気にすることもなく、いつも笑ってばかりいた。

 私もつい、つられることもあった。

 たまに、だが……。

 だがそれは、思い返してみれば、悪いものではなかった。


「じゃあ、最後は陸ガニの爪ね。これを渡すとクエスト完了。ファー、進化の過程で異常があったら報告してね」

「了解シマシタ」

「……あの、私はどうなるんでしょうか?」

「ミレイユさんは、元気になると思うよー。魔力も安定しているし、消えることはないから安心して」

「あの、少しふーちゃんとお話しても?」

「どうぞ」


 王女に断ってから、ミレイユがわざわざ私に向き合う。


「何の用だ?」


 私は腕組みして睨みつけた。

 少なくとも私に用はない。


「うん。あのね……。もしも、もしも私が消えちゃったらいけないから、最後にひとつだけ、ね……」

「何だ?」

「この1年、本当に楽しかった。ありがとう。いいお嫁さん、見つけてね」


 ミレイユが私に近づいて――。

 触れた。

 頬にキスをしたつもりなのだろう。

 実際には触れることはできず、ただ冷気を感じるだけだったが。


「バカバカしい! 貴様のように図太いヤツが簡単に消えるなど――」


 あるものか!


 わずかに区切った私の言葉を待つことなく――。


 あまりにもあっさりと――。


 ゴーレムの少女が、手に持った陸ガニの爪をミレイユに渡そうとする。


「おい待て! そもそも考えてみれば、おかしいだろう! どうしていきなり現れたヤツの言う事を聞く必要があるのだ!」


 私は反射的に止めていた。


「ううん。それは、わかるんだよ」

「何をだ!」

「これは、私の受け取るべきものだって。不思議な感覚だけど、まるで最初からそう決まっていることみたいに」

「ええいっ! ともかくやめろ!」


 私は陸ガニの爪を奪おうと動いたが――。


「はい、待ってねー。途中で邪魔する方が危険だよー」

「ぐはっ」


 私は騎士のはずだが――。

 これでもこの1年、訓練を重ねてきたはずだが――。

 あっさりと簡単に、王女に引かれて、尻餅をついて転倒してしまった。


 ああああ……。


 ミレイユが、大きなカニの爪を受け取った。

 カニの爪がミレイユの中に溶ける。

 ひときわの光が、ミレイユの体を包んだ。


 まるで、消えるように――。


 おわるというのか。


 この1年の、辛く苦しく、どこまでも鬱陶しかった――。

 だが、ほんの少しだけ楽しくもあった――。

 幽霊娘との日々が――。

 こんなにも、あっさりと、唐突に。


「待て! 待てー!

 消えるなー!

 貴様が消えたら、この私の正騎士への道はどうなる!

 貴様にはまだまだ、この私の道具として――。

 便利に働いてもらわねばならんのだぞ!

 わかっているのか!

 この私の許可もなしに消えるのは許さんぞ!

 待て!

 待つんだ、ミレイユ!」


 私は叫んでいた。


 そんな私の声を聞いて――。


 光の中、ミレイユは微笑んだように見えた。


「もー、ふーちゃん。私はみーちゃんだって言ってるでしょー」

「消えるなぁぁぁぁ! 貴様はこの私の――」


 あああ……。


 光の中に、ミレイユが溶けていく……。


 私は呆然と、その光景を見つめた。





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― 新着の感想 ―
[一言] ………何を一人盛り上がってるのでしょう?大丈夫だと言ってるの不思議な騎士未満さんですねー(超棒読み)
[一言] なにも知らないツンデレさん大慌てw
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