1193 初詣! クウちゃんさまは強く願って……。
「みんなー! 精霊の間へは、行きたいかー!」
「「「おおおー!」」」
「精霊様へのお祈りを、誰よりもしちゃいたいかー!」
「「「おおおー!」」」
盛り上がるイベントを尻目に、私たちは広場を出た。
最初は、イベントに参加して優勝しちゃうー!? なんて言っていたのですが……。
なにしろ私たちは、うん。
大司教の孫娘。皇女さま。精霊さま。
加えて、竜に妖精。
迂闊に優勝すると、いろいろ面倒になりそうな子で構成されている。
なので退散なのです。
とはいえ、向かう先は神殿なのですが。
初詣なのです。
大騒ぎの広場とは違って、通りは静かなものだった。
神殿に近づくと人混みはあったけど、大過なく私たちは礼拝堂に入った。
みんなで揃って、お祈りした。
……精霊様、精霊様。
……どうか1年、今年も私たちをお見守りください。
まあ、はい。
精霊様って私のことなんですけれどもね。
私のことじゃないとしても……。
ゼノは、100歩くらい譲って許してあげるとしても……。
真面目な話、イルやキオに見守られるなんて悪夢でしかないわけなのですけれども……。
まっぴら御免なのですけれども……。
特にイルとキオに私はお祈りをした。
いい?
ちゃんと聞いてね?
絶対に、うちには来なくていいからね?
見守りは不要だからね?
絶対に。
絶対だからね!
とはいえ……。
精霊の中には、イスンニーナさんのようなヒトもいる。
すでに故人ではあるけど……。
大聖堂に描かれた真っ白な美しい精霊として、今でも人々に敬愛され、世界を見守り続けている。
かつての闇の大精霊だ。
この世界を守るために、その存在を捧げたヒトだ。
世界にはそういう立派な精霊もいたわけなので、感謝と敬意を込めて、キチンとしたお祈りもするのです。
どうか、世界をお見守りください。
我が家のことも、よかったらお見守りください。
……ハイカット。
決して、「はい、カット」ではない、真面目なハイカットです……。
お祈りを済ませて、私たちは神殿から出た。
朝の大通りに戻る。
「ねえ、クウ。今日はこれから何かするの? それとも解散?」
「精霊の間に忍び込むのよね! 楽しみー!」
アンジェが私に聞いてくると――。
すかさずミルが物騒なことを満面の笑顔で言った。
もちろんそんなことはしません。
私は、大人しくて良識的で悪いことなんてしない子なのです。
「でもクウさま。それだと事件が起きないよ? おかしいよね? クウさまがいるのに事件がないなんて」
「そんなことはないからね?」
ミルに真顔で言われたので、キチンと否定しておいた。
「クウちゃん。わたくし、ふと思ったのですけれど……」
「ん? どうしたの、セラ」
「大聖堂の精霊の間には転移陣があるんですよね? 帝都の精霊の間にもあるのでは?」
言われてみれば……。
あるならば、移動が死ぬほど便利になる!
「アンジェ、ごめんっ! ちょっとだけ見てきてもいい!?」
「あの、店長」
ここでヒオリさんが手を上げた。
以前にヒオリさんは、帝都神殿の精霊の間に入ったことがあるそうだ。
残念ながら、転移陣はなかったらしい。
「そかー。残念」
「はい。忍び込む必要はないかと」
「おじいちゃんの迷惑にならなくてよかったわ」
アンジェが肩をすくめて言った。
ですよね。
「なら、どこに忍び込むの?」
「忍び込まないからね?」
「なら、どこの悪いヤツを倒すの?」
「倒さないからね?」
「なら、プリンセス・トラベラーズの活躍は!?」
「トラベラーズは解散しました」
「ええええ!?」
というやりとりをミルとした後、みんなを我が家に誘った。
「よかったらプチパーティーしようか」
「わーい! いくいくー! クウさまのことだから、あっちこっちの美味しいものを出してくれるのよねー!」
ミルは本当に現金な子だね。
まあ、いいけど。
みんなも参加してくれるとのことで――。
私たちは我が家に向かった。
「ねえ、クウちゃん。ファーのことは、みんなの前でするの……?」
道中でエミリーちゃんが聞いてきた。
「ううん。さすがにそれは奥でするよ。その後で、みんなに新しいファーを紹介しようと思うよ」
「そっか。よかった。わたしも、その方がいいと思うよ」
「ファーを見世物にするつもりはないしね」
「うん。そうだね」
アイテム欄に入ったファーには、今、こうコメントが出ている。
進化可能――。
と。
家に帰ったら、進化させてみるつもりだ。
道中、ミルが望むような悪党からの襲撃はなく――。
私たちは、平和に我が家に到着した。
ドアを開けて、みんなをお招きする。
「さあ、どうぞー」
すると……。
「早くカラアゲを食わせろなのー!」
「いきなり家を守れだなんて、どういうことなの! 来るなって言ったり来いって言ったり、クウさまは勝手すぎるわ!」
お店のカウンターに、なぜか2人の幼女が偉そうに座っていた。
私は、完全に油断していたようです。
まさか新年しょっぱなから事件もあるまいと、魔力感知も敵感知もまるで気にしていなかったのです。
「あの……。なんでいるの……?」
来なくていいと願った超迷惑な筆頭幼女コンビが……。
「はぁ!? クウさまが呼びつけたからに決まっているでしょ! 絶対絶対ってうるさいから急いで来たのに!」
キオが吠える。
「カラアゲはまだなのー!」
イルも吠えた。
これは、まさか……。
アレか……。
押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ……!?
ってヤツかぁ……。
強く念じすぎて、一部、本人に聞こえてしまったようだぁぁぁぁ!
そして……。
真逆の意味に捉えられたのだろう。
私は頭痛を覚えた。




