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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1178 クナは元気





 いったんナオの家に戻って、ナオも正装に着替えてから、私たちは丘の麓の広場へと飛んで行った。


 ぶつかり神事の会場となる広場では、ヒトの移動が行われていた。

 人々は、広場の周囲や丘の斜面で見学するようだ。


 クナは、人々の見学会場よりも上――。

 風魔衆が守護する、丘の中腹に張られた立派な天幕の中にいた。


 私たちは天幕の中に入った。


 中には銀狼族の幼女と、お世話係の女の子がいた。

 椅子に座った女の子に抱かれて、幼女はうつらうつらとしていた。


 幼女はクナだ。

 以前に見た時より、明らかに大きくなっている。

 といっても、まだまだ小さいけど。

 3歳だしね。


 女の子にも私は見覚えがある。

 名前はラスカ。

 年齢は10代の後半で、漁村時代からクナのお世話をしてきた狸っぽい獣耳と尻尾を持った女の子だ。

 私と視線が合うと、ペコリと頭を下げてくる。


「やっほー」


 私は笑顔で手を振った。

 すると、ピクン、と、クナの銀色の獣耳が立った。

 瞼を開けて、赤い瞳で私のことを見る。

 私は繰り返して挨拶した。


 次の瞬間。


「クウちゃんさまだー!」

「うおっとぉ!」


 クナが突風みたいな勢いで飛び込んできたぁぁぁぁぁ!

 私は受け止めたけど――。

 気のせいか、ううん、気のせいではなく――。

 かなりの衝撃だった。

 並の大人なら余裕で突き飛ばされていることだろう。

 幼女とはいえ、さすがは銀狼族だ。


「クナは、元気そうだねー」

「あそぼー! あそぼー!」

「うん。いいよー。と、言いたいところだけど」


 私はナオに目を向けた。

 ナオが腕を伸ばしてきたので、クナを渡した。


「クナはこれからご挨拶。遊ぶのはまた今度ね」


 ナオが言う。


「やだー! やだやだやだー! あそぶー! あそぶのー!」


 ナオの胸の中でクナが暴れる。

 これも、うん……。

 並の大人なら、弾き飛ばしてしまいそうな勢いだ。


「クナ」


 ナオがクナを見つめて、静かに名前を呼ぶ。


「……くにゅ」


 あ、それで大人しくなった。


「躾、大変」


 私に顔を向けてナオが言う。


「あはは」


 確かに大変そうだ。

 クナには、お父さんもお母さんも、もういないから――。

 ラスカさんとナオが家族みたいなものだろうし。


 しかし、シュンとさせてしまうのは可愛そうだ。


「クナ」


 私は笑顔で呼びかけて、クナの注意を引いてから、くるりと回って、


「にくきゅうにゃ~ん」


 ばっちり肉球ポーズを決めてあげた。


「ねこさんだぁ! にゃ~ん! にゃ~ん!」

「波ざはざばー」


 続けて、両腕を横に広げて、ゆらゆらと波を表現する。

 さらには意外と打率の高い――。


「ゆ、ゆびが、切れちゃったー!」


 クナは、私の切れちゃった指を、まばたきして見て……。

 しばし呆然とした後……。

 ハッと我に返ってナオに訴えた!


「ナオ! ナオ! クウちゃんさまがたいへん! たいへんー!」

「あははー。うそだよー。ごめんねー」


 私は曲げていた指を伸ばした。


 クナは、またもやまばたきして凝視すると――。


「なおったー! なおったー!」


 きゃっきゃと喜んでくれた。


 私は感涙した。


 ここまでストレートにウケるなんて……。

 いったい、いつぶりだろうか……。


 この後、すっかりご機嫌になったクナに、ナオはフラウを引き合わせた。


「クナ、こちらは竜王フラウニール様。前にお話しした私の恩人。ザニデア山脈を支配する偉いお方。ご挨拶を」


 私は、ちょっと緊張して成り行きを見守る。

 クナは、ちゃんとご挨拶できるのかな……。


 ナオの胸から降りて自分の足で立つと、クナはペコリと頭を下げた。


「フラウニールさまにはおはつにおめりかかります。クナ・ド・ミです。よろしくおねがいします」


 おお!

 たどたどしいけど、ちゃんと言えたー!


「うむ。妾がフラウニールである。挨拶は受け取ったのである。クナは、きちんとできてよい子であるな」


 フラウがクナの頭を撫でる。

 5歳児と3歳児の微笑ましい光景だ。

 竜王と王女だけど。


 フラウのことは、ラスカさんにも私が紹介した。

 みんな顔見知りになったところで、お互いの近況をおしゃべりした。

 ただ、長くはできなかった。

 もうすぐお神輿が広場に到着するとの報告が入ったからだ。


 私たちは天幕を出た。


 広場のステージで、お神輿を出迎えるためだ。


 クナは、ナオとラスカさんにそれぞれ左右の手をつながれて、ご機嫌な様子で自分の足でちゃんと歩いていく。

 本当の家族みたいに微笑ましい光景だった。


「ねえ、ナオ。私とフラウも行くの?」


 一緒に歩いているけど。


「うん」


 ナオが普通にうなずく。


「えっと……。いいんだ?」

「問題はない。フラウのことは、竜王として紹介する」

「私は?」

「クウちゃんだけに?」

「うん」

「クウは、伝説のセンセイ」

「いや、それはなしで」

「なら、伝説のセンセイの愛弟子?」

「うーん」


 私は迷った。


「なら、伝説のセンセイこと伝説の美食家ク・ウチャンの愛弟子」


 ナオが言った。


「まあ、うん。それならいいか」


 なんだかよくわからないし。

 他のヒトが聞いても、よくわからないことだろう。

 それは、たぶん、いいことだよね。

 私はふわっとした存在がいいのだ。

 何故なら私は、ふわふわするのが仕事の精霊さんなのだから。


「名前はどうする?」

「名前は、クウでいいよー」

「わかった」


 私たちは丘の道を降りて、広場のステージに上がった。

 獣王国の大きな御旗が何本も掲げられた、立派なステージだ。


 クナが中央の椅子に座る。

 ナオはその左側。


 私とフラウは、その後方の列に座った。

 ついてきたラスカさんは、ステージの脇で待機するようだ。


「おお! これはクウ様! ご無沙汰しております!」

「どもー」


 同じ列には、すでに獣王国の幹部の方々が着席していて――。

 その中には熊族の戦士ダイ・ダ・モンさんがいた。

 漁村で私が蘇生して助けた内の1人だ。


「皆、こちらがクウ様だ。決して失礼な態度を取ることのないように」


 同列のヒトたちにダイさんが言う。

 みんな……。

 偉い人たちだと思うけど……。

 どんな話を聞いているのか、私に頭を下げてきた。

 まあ、うん。

 私は細かいことは気にしない子なので、普通に笑顔を返しておいた。


 広場の先の通りから、祭り囃子が聞こえてくる。

 お神輿がいよいよ到着しようとしていた。

 ぶつかり神事の開始は近い。

 エミリーちゃんとヒオリさんとファーは、果たして、屈強な獣人族を相手にどこまで戦えるのか。

 ものすごく楽しみだ。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 帝国の皇女殿下のお友達で良いんじゃない? 後は帝国で作られた「亡国姫」で良いですし……… さてはナオさん、祭りに充てられてノリと勢いのクウさんみたいな状態になってるな?(苦笑) […
[一言] 伝説のセンセイと伝説の美食家ク・ウチャンが同一人物になってしまった。クウちゃんがセンセイの愛弟子であることに変わりないし。まあ今更ですね。どんな肩書が増えたところでクウちゃんだしで済むでしょ…
[良い点] いつも楽しく読んでます! 長く悲しい時代もあったけど、平和で幸せそうだね〜 神輿勝負は仕方ないけどね(笑)
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