1175 閑話・ウサギ族のマヤヤは、リーダーのララピに期待する
今回のお祭りにおいて私たちウサギ族のリーダーを務めるララピさんは、とにかく気弱なヒトです。
自分では何も決められなくて、いつもオドオドして……。
みんなの意見を聞いてばかりで……。
いえ、はい。
みんなの意見を聞いて、結果をまとめることができるだけ、立派なリーダーだとは思うのですけれど……。
だって他のみんなは、絶対に自分に責任が来ないように、のらりくらりとするばかりですし……。
でも、やっぱり……。
頼りないなぁと思っていたのは事実です。
特に、他の種族のヒトたちと交わらなきゃいけない時には。
でも、今!
流されるままの私たちの中で!
ララピさんが立ち上がってくれました!
さあ、ララピさん!
お願いします!
私たちの意見なんて何もないまま……。
弱さには自信のある私たちウサギ族が、熊族や虎族に挑もうとするまさに自殺のようなこの事態を!
ウサギ族のリーダーとして!
勇気を持って!
どうか止めてくださいお願いしますっ!
私たちの、輝かないけど、とりあえずなんとか生きてはいける、そんな地味で平和な未来のために!
ゴーゴー、ララピ!
いけいけ、我らのリーダー!
私は精一杯、心の中で応援をしました!
口にはしません!
蹴られたりしたら死ねます!
はい……。
私もまた、自分に責任が来るのは絶対に嫌な……。
平凡なウサギ族の1人なんです……。
「実は、どうしても確認させていただきたいことがありまして……」
「はいウサ。何でしょうかウサ」
さあ、今!
ララピさんがヒオリさんに意見します!
拒否してください!
戦うなんて、無理ですと!
「ウサという語尾は、ぼくたちもつけた方がいいんでしょうか? よそのウサギ族では常識なのでしょうか?」
ララピさんがたずねました。
え。
質問、それなんだ?
お祭りのことじゃないんだ?
と私は思いましたが、まだ会話は始まったばかりです。
落胆するには、まだ早い時間です。
私は固唾を飲んで見守ります。
ヒオリさんは、考えつつ答えました。
「ふむウサ……。そうですねウサ……。某の知る限り、このウサという語尾は一般的には使われていないはずですウサ……。なので、みなさんがわざわざ使う必要はないと思うのですウサ……」
「そ、そうですかぁ……。それはよかっ――」
「とはいえ、ですウサ」
「は、はい!」
「このウサという語尾は、偉大なる御方がお付けになられたものですウサ」
「い、偉大なる御方……ですか……?」
「その通りですウサ」
「それはいったい……。ま! ままままま!」
「まーくんではありませんウサ」
「そうですか……。まーくんではないのですね……」
まーくんって誰なんでしょう。
ララピさんは落胆しましたが。
「では、いったい、どなたで……?」
ララピさんが勇気を出して、一歩、踏み込みました!
さすがはリーダーです!
「ふむ。そうですねウサ……。新獣王国のみなさんにもわかる言葉で言うとするのならばウサ……。センセイ、でしょうかウサ」
「センセイ……ですか……。え。それってまさか伝説の!?」
「ウサ。そうですウサ」
「そそ! そんな! ガーン! ガーンガーンガーン!」
驚きのあまり、衝撃が言葉にも出てしまったようです。
ララピさんがよろめきます。
「故に、つければ、何かご利益があるかも知れませんウサ。ただ、あるとは言い切れませんウサ。なにしろセンセイは気まぐれなお方なのですウサ。某に言えるのはそれくらいですウサ」
「そうなのですね……。すみません、よくわかりました……。いえ、よくわかりましたウサ! ありがとうございましたウサ!」
話をおえたララピさんが、うしろで様子を見ていた私たちのところに晴れ晴れとした表情で戻ってきます。
ララピさんは言います。
「みんな、ぼくたちは幸運ウサ! なんとセンセイのご利益がいただけるかも知れないということウサ!」
「めでたいウサ!」
「めでたいウサ!」
みんな、ごく自然に語尾にウサをつけ始めています。
この順応性の速さは、まさにウサギ族です。
私たちは今まで色々な環境で、こうして流されるまま、すべてを受け入れて生き延びてきたのです。
ただ、はい……。
本題は別のはずですよね……。
みんなが盛り上がる中、私はララピさんに耳打ちします。
「……あの、止めるんじゃないんですか?」
「ん? 何をだいウサ?」
「……戦いですよ。死んじゃいますよ」
「はははウサ」
するとララピさんは笑いました。
私は眉を顰めて抗議します。
「……なんで笑うんですか? 真面目な話なんですけれど」
「マヤヤくん、見くびってもらっては困るウサ」
「なら――」
「長いものに巻かれる以外、ぼくたちにできることはないウサよ。やれと言われたのならやるしかないウサよ」
あ、はい。
ですよね。
それが私たちの処世術でしたよね。
私は納得しました。ウサ。




