1174 閑話・ウサギ族のマヤヤは作戦会議を見守る
とんでもないことになってしまいました。
私、ウサギ族のマヤヤは、何1つ意見を挟むこともできず、ただ話の成り行きを聞いていました。
私だけではなくて、他のみんなもですけれど……。
だって、はい……。
カメの子って、どう見てもナオ様です……。
変装されているおつもりのようなので、もちろん、空気を読んで余計なことなんて言いませんけれど……。
耳と尻尾は隠されていますし、いつもの支配者然とした恐ろしい気配は完全に消されているので……。
間近で正面から見なければ……。
わからないとは思いますけれど……。
私たちは、間近で正面から見ているのでわかります……。
「じゃあ、あとはよろしくカメ」
そう言い残して、ナオ様は消えました。
クウちゃんとフラウさんも一緒にです。
「こほんウサ。では、時間もありませんウサし、熊族と虎族を撃退して優勝するための作戦会議を始めましょうかウサ」
ヒオリさんがとんでもないことを言います。
でも、はい……。
話の流れ的に、そういうことらしいです。
仲間の1人が勇気を出して、「むむむ、無理ですよそんなのー!」と実に正論を訴えかけます。
「大丈夫ウサよっ! わたしたちがいるウサ!」
エミリーさんは、むんと拳を握ってやる気満々ですが……。
どう考えても大人しくしているべきです……。
だってエミリーさんは、ヒト族ですよね……。
ヒト族は、新獣王都で歓迎される存在ではありません。
最近では、ジルドリア王国やリゼス聖国からヒト族の使者や商人が来ることも多くなりましたが……。
ヒト族を強く憎んでいる獣人は未だに多くいます。
ちなみにウサギ族は、正直、ヒト族のことはたいして憎んでいません。
たいして、なので……。
もちろん憎む気持ちはありますが……。
それは凶悪な顔をした、トリスティンの野蛮人に対してです。
エミリーさんは、まだ10歳くらいの女の子です。
私たちと同じで、無力な存在ですよね……。
憎む気にはなりません……。
むしろ心配です……。
「よいしょっとウサ。ヒオリさん、これ、わたしだけで余裕ウサよー」
エミリーさんが1人で軽々とお神輿を持ち上げます。
「え。ええー」
私は驚いて、ポカンとしました。
だって、いくら小さいといっても、キチンと組み上げたお神輿です。
重量はあります。
私たちが担いで歩くには最低でも4人必要でした。
ああ、でも、はい……。
そういえば、さっき……。
熊族の大男を蹴っ飛ばしたんでしたっけ……。
この子たちは、何者なんでしょうか……。
「それは朗報ですウサ。ではエミリー殿にはお神輿の要となってもらってウサ、強力に支えていただきましょうウサ」
「うんウサっ! わたし、防御の方が得意だしねウサっ!」
「某も担ぎ手に加わって土と風の力で守れば、相当な攻撃を受けたとしても簡単に崩れることはないでしょうウサ。となると攻撃はファー殿となりますがウサ――」
「ルールノ提示ヲ希望シマスウサ」
「そうですねウサ。ウサギ族の皆さん、詳しいルールを教えていただけますかウサ?」
ヒオリさんに問われて、みんなが顔を見合わせます。
最終的には、何故かみんなの視線は私に集まりました。
私、べつにまとめ役ではありません……。
むしろ若輩なのですけれど……。
とはいえ、説明するべきリーダーのララピさんまで、みんなと同じように私に視線を向けるばかりです。
私はララピさんに目線で合図を送りましたけど……。
ぶんぶんぶんっ!
ララピさんには、耳がちぎれるくらいの勢いで首を横に振られました。
「では、あの、私が説明させていただきます……」
私は仕方なく言いました。
ルールは簡単です。
まずは公園を出て、普通にお神輿を担いで広場まで行きます。
で……。
広場についたら整列して、そこからが本番です。
ぶつかり神事の始まりです。
お互いのお神輿をぶつけて、壊し合うのです。
制限時間は10分。
他をすべて潰して最後の1台まで残るか、あるいは時間まで最も勇猛に戦った組の優勝です。
担ぎ手は最大で10人。
加えて、お神輿には先導役が1人乗ります。
先導役は、ぶつかり神事の際、全体の状況を見極めて、お神輿の動きを決める大切な役割を担います。
先導役は、組のリーダーが務めることが多いです。
ぶつかり神事では、武器と防具と魔道具と火魔術の使用と、先導役とお神輿への直接攻撃が禁止されています。
お神輿さえ担いでいれば、相手の担ぎ手への攻撃は自由です。
蹴っても殴っても魔術を使っても、体毛硬化等の種族独特の特殊技能を使っても問題はありません。
お神輿を転倒させるか、先導役を落とせば、その組は失格となります。
「あと、私たちのような弱小参加者への救済として、お神輿を下ろせば棄権となる制度があります。私たちはもちろん、ぶつかり神事が始まった瞬間にお神輿を下ろすつもりでしたけれど……」
「頑張りましょうウサ! 目指すは優勝ですよウサ!」
ヒオリさんが力強く言います。
「ねえ、マヤヤさんウサ。ウサギ族の先導役は誰なのウサ?」
エミリーさんが聞いてきます。
「はい……。うちはララピさんが……」
「はまああああああああん!」
私が言い切るよりも早く、謎の悲鳴を上げたララピさんが渾身の力を込めて首を横に振りました!
「の予定でしたけれど……。できれば、エミリーさんたちに……。私たち、戦うつもりはなかったので……」
「うーんウサ。ウサー」
腕組みして、エミリーさんが悩みます。
怯える様子はありません。
「エミリー殿、ここはファー殿に任せてみませんかウサ?」
「ファーウサ? でも、大丈夫かなウサ?」
「先導役に必要なのは、状況を見極める冷静な判断力ウサ。まさにファー殿こそ適任ウサ」
「……うん。そうだねウサ。それならファーだよねウサ」
「ウサ」
話はまとまったようです。
私はファーさんに目を向けました。
ファーさんは謎の存在です。
外見こそヒト族の少女のようですけれど、匂いがありません。
それによく見れば……。
関節に、継ぎ目みたいなものがあって……。
精巧に作られた人形のように見えます……。
ヒオリさんが言います。
「ファー、というわけで、貴女には先導役をお願いしますウサ。お神輿の上に乗って全体の動きを見極め、最適解を提示してくださいウサ。ルールは聞いた通りですウサ。実行に際して問題はありますかウサ?」
「問題ハアリマセンウサ」
「さすがですウサ。では、お願いしますウサ」
「あのお……。よろしいでしょうか……」
おおお!
ここでついに我らのリーダー!
ララピさんが、なけなしの勇気を振り絞って前に出てきました!
後はお任せしますね!
ウサギ族として、キチンと主導権を握ってください!




