1173 カメの裁定?
「カメの子、見参」
カメのもこもこ帽子にカメのリュックを背負ったナオが、ビシッと格好よくカメ様みたいなポーズを決めた。
ちなみにカメ様みたいなポーズというのは、手足をしっかりと伸ばして、輝く光を表現したような格好のことです。
「やっほーウサ」
私はナオに手を振った。
「やっほー、クウ。久しぶり」
「久しぶりウサー」
「来ているなら知らせてくれればよかったのに。水くさい」
「あははウサー。本当は、お祭りを見て帰るだけのつもりだったのウサー」
トラブルを起こすつもりはなかったんだよー。
「フラウも久しぶり」
「うむ、であるウサ。カメも元気そうで何よりなのであるウサ」
「ウサ?」
「妾は今、ウサギなのであるウサ」
「なるほど。理解したカメ」
「カメはカメであるかウサ?」
「カメはカメカメ」
「で、あるかウサ」
フラウが納得して、うんうんとうなずく。
「ご無沙汰しておりますウサ、カメ殿ウサ」
ヒオリさんが空気を呼んで、ナオをカメとして挨拶する。
私もカメと呼ばねばだね。
「ヒオリも元気そうでよかったカメ」
ヒオリさんとナオは、御前試合の時に顔を合わせている。
知己の仲だ。
「紹介するウサ。この子はカメ。こっちはエミリーちゃんウサ。で、この子が私の作ったメイドロボのファーウサ」
エミリーちゃんとファーは初対面のはずなので私が紹介する。
「ニクキュウニャーンウサ」
「おお。お見事カメ。よく学習しているカメ」
「エミリーですウサ。初めましてウサ」
「初めましてカメ。私はカメ。カメの子と呼ばれているカメ。エミリーのことはクウからよく聞いているカメ。クウの工房の店員さんカメ」
「はいウサ。私もカメの子さんのことは、クウちゃんから聞いていましたウサ。カメ様の御使い様なんですよねウサ」
エミリーちゃんに笑顔で言われて――。
ナオが私に目を向けた。
私は目を逸した。
だって、うん、カメの子にどんな設定をつけたのかなんて、私、まったく記憶にございませんのです。
ただ、幸いにもフラウが言ってくれた。
「エミリー、カメ様のことを軽々しく口にしてはならんのであるウサ。カメの子はカメであって、それ以上でもそれ以下でもないのであるウサ」
「あ、そうだよねウサ。ごめんなさいウサ」
エミリーちゃんは納得してくれた。
よかった。
その後、マヤヤさんたちにもカメの子のことを紹介した。
御使いとか言ったせいか、かしこまられてしまったけど。
私は気にしない。
なにしろ私たちには本題があるのだ。
私は事のあらましをナオことカメの子に語った。
「――というわけでウサ。私たちもお神輿を担ごうと思うんだけど、いいウサよね?」
「ダメカメ」
「え。なんでウサ?」
まさかの拒否に私は驚いた。
「お祭りでは、お神輿を広場に運ぶだけではなくて、ぶつかり神事というお神輿同士で潰し合う荒事も行うカメ。クウとフラウが参加したら、俺ツエーされて神事が台無しカメ。精霊様に真心が届けられなくなるカメ」
「私、俺じゃないけどねウサ?」
「クウちゃんだけに、は野暮カメ」
「ウサー」
そう言われては、返す言葉もないです。
あ、でも。
「ちなみに精霊様ならここにいるウサよ? 真心、届けるウサ?」
「クウカメ」
「はいウサ」
「そこは空気を読んで、正規に受け取るべきカメ。ショートカットは野暮カメ。旧獣王国から続く伝統を大切にしてほしいカメ」
「ウサー」
「というわけで、クウとフラウは私と見学カメ」
「なら、他の3人はウサ?」
ヒオリさんとエミリーちゃんとファー。
「その3人なら参加してもいいカメ。むしろ、ウサギ族のバランス取りに丁度いいので参加してほしいカメ」
「ウサぁ……。ぶつかり神事って、命の危険はあるのウサ?」
私は念のためにたずねた。
「大丈夫カメ。今回は私がいるカメ。蘇生魔法は使えるカメ」
「いなければウサ?」
「旧獣王国時代には、死者が出ることもあったと記録にはあるカメ」
「ウサー」
なんて危険なお祭りなんだ!
と私は思ったけど……。
思い返してみれば、前世の日本のお祭りでも、ちょこちょこ死者の出る危険なお祭りはあったよね、そういえば。
「ヒオリさんとエミリーちゃんはどうするウサ? 参加するウサ?」
「わたしはやるウサっ! やりたいウサっ!」
「ヒオリさんはウサ?」
「そうですねウサ……。エミリー殿を危険に晒すのはどうかと思いますウサが、ファーの自律訓練には丁度いいかも知れませんウサ」
「わたしもやるよウサ! 訓練はしてきたんだしウサ!」
エミリーちゃんが訴える。
「してきたんだウサ?」
私の記憶にはないけど。
エミリーちゃんはまだ9歳だし、ダンジョンに連れて行くのは、いくらなんでも早いしね。
「うんウサ! 戦闘訓練もしてきたよウサ、わたしウサ!」
「エミリーは優秀なのであるウサ。強化魔法も、すでに並以上の水準で使いこなすことはできるのであるウサ」
どうやらフラウが教えていたようだ。
「ナオ的にはいいんだよねウサ?」
「カメ」
「獣人の恥にならないウサ? 小さい子に負けたりしたらウサ」
「最後にネタバラシすればいいカメ。大暴れした後、センセイの弟子として紹介すれば問題ないカメ。ウサギ族的にも、センセイの弟子が知り合いにいるとすれば、少しは肩身も広くなるカメ」
「なるほどウサー。それはいいウサかもだねウサー」
センセイとは何なのかについては、もう今さらだよね。
私は気にしない。
「じゃあ、ヒオリさん、エミリーちゃん。お願いねウサ」
「うんウサ! 頑張るウサっ!」
「お任せくださいウサ」
「ファーも、お願いねウサ。命令ウサ。味方が大怪我しないように注意しつつ、ルール遵守の下で勝利を目指して頑張るウサ」
「了解シマシタウサ」
私は見学になってしまったけど。
どんなお祭りになるのか。
エミリーちゃんとファーがどこまでやれるのか。
楽しみだ!




