1170 異文化交流!
公園に集まっていた獣人は本当に様々だった。
ヒト族に近い外見に獣耳と尻尾がついている、帝都にもたくさん住んでいるナオやメアリーさんのようなヒトたち。
帝都ではそれなりにレアな、四肢があって立って歩いてることは同じでも、全身毛むくじゃらで、顔立ちも獣に近いヒトたち。
熊のようなヒト、虎のようなヒト、犬のようなヒト、猫のようなヒト。
狸のようなヒト、ウサギのようなヒト。
獣人といっても多種多様だ。
その中で私たちは……。
最初、上手く溶け込めたかなぁと思ったのだけど……。
「おい、テメェ! ナニモンだ!」
ああああ!
よりにもよって、ガラの悪そうな熊男がファーに絡んだぁぁぁぁぁ!
乱暴にファーの肩を掴んだぁぁぁぁぁ!
「レベル1自己防衛、発動シマスウサ」
ファーは学んだ通りに熊男の手を取ると、ダメージをあまり与えないように優しく地面にひっくり倒した。
うむ。
柔よく剛を制する、よい動きだ。
と、のんびり感心している場合ではなかった。
思いきり、まわりにいた獣人たちの視線を集めてしまった。
私は笑顔でピョンピョンとウサギっぽく跳ねた。
「私たちは、ただの可愛いウサギ族だよー! あ、ウサー!」
本来なら「にくきゅうにゃ~ん」の場面だけど、残念ながら今の私は猫じゃなくてウサギだしね。
まわりの獣人たちがざわめく。
……おい、ウサギだってよ。
……いや、ヒト族だろ?
……いや、エルフだろ?
……どっちにしても、どうして紛れ込んでるんだ?
……いや、てか、熊族を倒した女、ニンゲンじゃねぇだろ?
……生き物の匂い、しねぇよな。
……ならなんだってんだよ、まさか死霊か?
……さあ。
あーそっか。
匂いかぁ。
確かにファーは無機物だからねえ。
「おい、ヒト族にエルフ。どうしてこんなところに。ぐはっ!」
あ。
近づいてきた別の熊男をフラウが蹴ったぁぁぁ!
「失礼なことを言うな、なのであるウサ。妾達は、どこからどう見てもウサギなのであるウサ」
「どこがだ!」
さらに次の熊男が叫んだ!
「ちゃんと語尾にウサがついているのであるウサ。貴様らこそ、語尾にクマがついていないとは偽物なのであるウサ」
フラウが堂々と言った。
「あんた、角があるじゃねーか! ぐはっ」
「バカか、なのであるウサ。妾は角のあるウサギなのであるウサ」
次の熊男も蹴り飛ばして、フラウは堂々と言った。
「みなさんごめんウサー! 私たちは陽気なウサギさんウサー! ちょっと絡まれたのでわかってもらっているだけだから、気にしないでウサー!」
私はまわりのヒトたちに愛想を振るった!
「そんなわけがあるかぁぁぁ!」
「チビで非力で臆病なウサギ族が、俺等を蹴り飛ばせるわけねぇだろうが!」
「ウサギなんぞ獣王国の最下層だろうが!」
「俺らはダイ・ダ・モン様に仕える戦士団の一員だぞ!」
熊男たちが怒ったぁぁぁ!
しかし!
「黙るのであるウサ」
「ひぃぃぃぃぃ!」
フラウが竜王の威圧を放ったぁぁぁぁ!
効果は絶大だぁぁぁ!
熊男たちは、みんな揃って尻餅をついて倒れたぁぁぁぁ!
「わかったであるか? ウサ」
フラウがたずねると、威圧された熊男たちはウンウンとうなずいた。
ふむ。
金虎王の時もそうだったけど……。
竜王の威圧は、獣人に対して絶対的に効果を発揮するようだ。
私はパンパンと手を叩いて、さらに陽気に笑った。
「ウサー! ただの熊さんの勘違いでしたウサー! 私たちは陽気なウサギさんウサなので、みなさんは気にすることなく、お神輿の出発の時間をお待ちくださいなのですー! あ、ウサー! ほら熊さんたちも立つウサ! お神輿の準備は整っていると思うけど、あんまりリラックスしすぎていると本番が来た時に力が入らないウサよー!」
私は明るく、熊さんたちを立たせてあげた。
熊さんたちは素直に従ってくれた。
その時だった。
「貴様ら、何を騒いでいる。祭り前の喧嘩は厳禁だと言ったはずだが?」
まわりにいたヒトたちを退けて、黒装束の男が現れた。
なんと銀狼族だった。
私は、その男のヒトの顔に見覚えがあった。
ナオ直下の新獣王国最精鋭部隊『風魔衆』の1人だ。
「やっほーウサ」
「なっ! これはマイヤ様――。どうしてここに? 御用ならば、すぐさまナオ様のところに案内させていただきますが」
幸いにも、向こうも私の顔を覚えていてくれた。
片膝をついてたずねてくる。
「あ、ううん。今日はね、ウサギ族としてお祭りの見学に来ただけなのウサ」
「ウサギ族……ですか?」
「ウサ」
私は再びピョンピョンと跳ねた。
幸いにも、それですべて理解してくれたようだ。
「皆! こちらのウサギ族の方々は、よそからの客人である! 身元の確認は取れているので気にすることなく神輿の支度を整えるように!」
ありがたいことに、そう宣言してくれた。
それを聞いて、まわりにいたヒトたちは元の場所に戻っていく。
「ナオ様への報告は、させていただいて宜しいでしょうか?」
「あ、うん。そうウサね。いきなり騒いじゃってごめんねって伝えてほしいウサ」
「承知しました。どうぞ祭りをお楽しみください」
風魔衆のヒトもヒュンと風のように消えた。
私たちは受け入れられた!
よかった!
と……。
あ。
私は、こっちを見ている可愛らしい視線に気づいた。
ウサギ族のヒトだ!
ヒトに近い外見のウサギ族な私たちとは違って……。
ウサギに近い外見の小柄なヒトたちだったけど……。
同じウサギ族であることは確かだよね。
「こんにちはウサー!」
私は愛想全開でウサギさんたちに駆け寄った。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
思いっきり警戒されてしまったけど、そこは愛想で切り抜ける!
「あははー。そんなに驚いてどうしたウサー。私もウサギさんウサよー」
私は可愛く飛び跳ねつつ、ウサギさんの手を取って、
「そうだウサ。ねえ、ウサギさんのお神輿はどれなのかウサ? よかったら私たちに見せてもらえるウサ?」
愛想よく聞いてみた。
「あ、ひぃ、ひぃ……」
「あははー。私の名前は、ひぃちゃんじゃないウサよー。クウちゃんウサ。あなたの名前はなんていうウサ?」
「は、はい……。私、マヤヤと言います……」
「じゃあ、マヤヤ。連れて行ってくれるかなウサ?」
「…………」
「どうしたウサ?」
イヤだったかな。
それなら素直にあきらめるけど。
と思ったら。
「はいぃぃぃ! こちらですぅぅぅ! どうぞどうぞぉぉぉ!」
よかった!
案内してもらえるみたいだ!




