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117 武闘会



 武闘会の会場に着いた。

 小規模だけど立派なコロシアムだ。

 ちゃんと観客席もあって、1000人は収容できるという。

 学生用の施設としては、すごいのではなかろうか。


 着いたところでお兄さまとはお別れ。


 私とお姉さまは廊下を歩いて、そのまま控室に行った。


 ブレンダさんとメイヴィスさんはリラックスした様子で談笑していた。


「やっほー」


 手を振って挨拶する。


「お。クウちゃん師匠、来てくれたか」

「来たよー」

「準備は万全のようですわね」

「ええ。アリーシャ」


 メイヴィスさんが優雅に笑顔でうなずく。

 これから剣で戦う人とは思えないほど、見事なお嬢様っぷりだ。


 いくらかの言葉を交わしてから、お姉さまは観客席に行く。

 私は残る。

 ここから先は2人の付き人だ。


 2人は、私の生成した武器を使ってくれる。

 メイヴィスさんが細身の剣で、ブレンダさんが両手持ちの大剣。

 素直に嬉しい。

 応援したくなるというものだ。


 防具は身につけていない。普通に学院の制服姿だった。

 控室にいる他の人たちも、多くが制服姿だ。

 革鎧や肩当てや胸当てを装備している人はいるけど、全身鎧の人はいない。

 基本的には、魔術で身を守るようだ。


 しばらく待っていると、係員が参加者を呼びに来た。

 いよいよだ。


 会場に出ると、大歓声が選手たちを迎えた。

 満員の平民席からだ。

 学院の武闘会は、けっこう人気のイベントのようだ。

 早くも盛り上がっている。


 まずは、参加者全員が舞台に並んで、お兄さまが開催の宣言をする。


 ヒオリさんは前に出てこず、お姉さまと同じ貴族席にいた。

 貴族席にも観客は多い。

 きっとみんな偉い人なんだろうね。


 ちなみにお姉さまのとなりには、あのディレーナがいた。

 発狂して大笑いするお姉さまを間近で見てやろうという魂胆なんだろうね。

 まあ、そんなことは起こらないけど。


 なんにしてもお姉さまの言った通り、これだけの衆目の前で無様を晒せば本気で将来に響きそうだ。

 でも活躍できれば、お偉い様の目に止まるかも知れない。

 名声も高まる。

 未来を切り開く絶好の機会だよね。

 きっと熱い試合が繰り広げられる。

 わくわくする。


 まわりには警備として若手の騎士たちが立っていた。

 そこには見覚えのある顔があった。

 アンデッドの夜に助けてあげたガラの悪そうな青年たちだ。

 真剣に職務を遂行している。

 改心したっていうのは本当のようだ。

 がんばれ。


 あれ。


 若手の騎士の中に、もう1人、見知った顔がいる。

 あいつだ……。

 ネミエの町で好き勝手していた貴族のボンボン。

 たしか、名前はフロイト。

 お兄さまがしゃべっているのに、知らぬ顔でアクビをしている。

 ちゃんと更生したのだろうか……。

 ものすごく疑わしい。

 とはいえ、今ここで私に何かできるわけじゃないし、放っておくしかないか。


 お兄さまの話がおわった。

 続けて対戦相手を決めるくじ引きとなる。

 司会役のお姉さんが明るい声でテキパキと進行する。


 参加者の中には、前に出てくじを引くだけで歓声の上がる人もいた。

 まだ学生なのに知名度があるってすごいね。

 特に岩みたいな筋肉をしたボンバーという男子生徒は、爆発野郎という2つ名で平民に人気だった。

 すごいことに彼は、学生ながら冒険者としても活躍しているようだ。

 やればできるものなんだねえ。


 お姉さまたちも大人気だった。

 女の子たちがキャーキャーと叫んでいた。


 ディレーナ派の2人は、まあ、普通。

 無難に拍手を受けていた。


 人気勝負なら、お姉さまたちの圧勝だね。


 肝心の対戦はどうなったかというと、まず、ブレンダさんが2回戦でディレーナ派の1人とぶつかることになった。

 そしてメイヴィスさんが準決勝でもう1人と戦う。


「いい具合にばらけたな」

「決勝でブレンダと戦えるのを楽しみにしていますね」

「おう! メイとの戦いも楽しみだ」

「貴女と公の場で白黒をつけるのは、思えばこれが初めてですね」

「だなー」

「申し訳ないのですが、今日で一歩リードさせてもらいます」

「ははっ! それはこっちのセリフだ」


 拳をぶつけあって2人が笑う。

 友人でありライバルでもある。

 いい関係だ。


 そこに1人の男子生徒がやってくる。

 私も知っている相手だ。

 名前はガイドル。

 ディレーナに言われて最初にドーピングポーションを飲んだ人だ。


「モルド、おまえも運がないな。まさか2回戦で俺と当たるとは」

「なんだ、また挑発か?」

「ただの挨拶さ」

「それならほい受けた。さっさとあっちに行ってくれ」


 ブレンダさんが面倒そうにあしらう。


「楽しみにしていろ。先日の無礼を、たっぷりと後悔させてやる」


 そう言い残してガイドルは去る。


「相変わらず嫌な男です」

「だな。だいたいこっちから相手にしたことなんてないっつーの」


「先日の無礼って、なにがあったんですか?」


 揉めたことは以前に聞いたけど、そういえば内容は聞いていなかった。


「私とメイが練習してたところに、あいつともう1人が来たんだよ。おまえらは剣より礼儀の勉強が先だろうとか言いやがってな」

「木剣を使って、足をすくって、軽く転ばせてやったのです」


 あら、どうされたのかしら。

 おほほほ。


 と、礼儀正しく笑ってやったらしい。

 さすがはメイヴィスさん。


「あいつ、でかい態度しといて、尻餅ついてな。あれはみっともなかった」


 ブレンダさんは腹を抱えて大笑いしてやったそうだ。


 ガイドルはヒートアップ。

 怒鳴り声を上げて喧嘩になりかけた。


「でも残念ながらまわりにいた者たちに止められて。それなら武闘会で相手をしてやると私が言ったのです」

「なるほどー」


 さすがの2人だった。


 試合が始まる。


 1回戦。


 ブレンダさんとメイヴィスさんは、あっさりと相手を倒した。

 メイヴィスさんは優雅に。

 ブレンダさんは豪快に。

 2人ともカッコよかった。

 黄色い歓声が上がるのもわかるね。


 強化魔法はかけなかった。


 私も大丈夫と思ったので、最初から提案しなかった。


 2人に関しては、実は、一緒に練習する中で気づいたことがある。


 何かというと、魔力の作用だ。


 2人は、魔術師としての素養は持っていない。

 未覚醒の光もなかった。


 でも、魔力感知をオンにして戦う様子を見ていると、時折、体のあちこちに薄い輝きを見て取ることができた。

 それは明らかに魔力だった。

 属性のない無色の光だった。

 こちらの世界では、魔力なしという言葉をよく聞くけど、それは厳密には属性なしということで――。

 実際には、属性がなくとも、ヒトには魔力は眠っている。

 そして、励起させることもできるということなのだろう。


 2人は、ただのお嬢様ではない。

 努力して磨いた力と技を持っているお嬢様だ。

 とはいえ、さすがに大柄な男子と比べれば体格的にはかなり劣る。

 なのに余裕で戦えた。

 ブレンダさんはパワーで男子の攻撃を押し返した。

 メイヴィスさんはスピードで圧倒した。

 励起した無属性の魔力が肉体に浸透して、それを導いているのだ。


 2人は今までそれを無意識に行ってきた。

 なので今までも、それなりには強かった。

 ただ、それはあくまで、それなりだった。

 でも、私の強化魔法を受けて訓練を積んだことで、肉体への魔力浸透をダイレクトに感じることができた。

 きっとそれで、魔力への理解が一気に進んだのだ。


 ――の、かも知れない。

 そんな気がする。


 ふふふ。


 だとすれば、私のおかげだね!


 まさに師匠!


 偶然とは言え、弟子たちを才能開花させてしまったようです!


 さすがに生意気だし口にはしないけどね!

 心の中でちょっといい気になっている私がいるだけさ!




ご覧いただきありがとうございましたっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ディレーナ嬢、特等席で ワク(灬ºωº灬)テカ ですな。 メイヴィス様に蔑まれるなんて…… なんてご褒美!\(^o^)/! [気になる点] ボンボンフロイトも、まだまだ生焼けのようですに…
2021/07/26 15:14 退会済み
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