1169 お神輿!
新獣王都に着いた私たちは、まずは上空から都市の景観を眺めた。
新獣王都は、森に囲まれた自然豊かな都だ。
丘の上に建つ獣王館を中心に、広大な広場、戦士団の居住区、商業区、と輪を描くように広がる。
今年の夏に私が魔法で整地した。
なんだか、ものすごく遠い昔のように感じる。
実際、都市は発展していた。
私が整地した時には区画があるばかりだったのに、すでにたくさんの木造建築が立ち並んでいる。
商業区から外にも道は伸びている。
こちらも多くの建物があった。
行き交う人の姿も多い。
空から見ているだけでも、生まれ変わった新しい国の熱気を感じる。
ナオは本当に頑張っているようだ。
カメの子の姿からは想像もできないけど、きっと……。
お祭り会場は、丘の麓の広場のようだ。
一番に混み合っている。
屋台も出ているようだ。
私たちは最初、普通にその広場に下りようと思ったけど……。
道を見ていくと……。
さらに興味深い場所を見つけた。
商業区から出て、民家の建つ通りを抜けた先だった。
木々に囲まれた公園があった。
その公園に何台ものお神輿が集まっていたのだ。
それは、うん――。
まさに、お神輿に見えた。
木でガッチリと組まれて、金や紫紐や紙幣で飾り付けられている。
台座には、担いで運ぶための棒が取りつけられていた。
なので間違いないだろう。
公園には多くの獣人が集まっていた。
きっと、これからお神輿を運ぶのだ。
お神輿は、大きなものから小さなものまで、いくつも置かれていた。
大きなものだと、それこそ私なんて簡単に押し潰されてしまいそうに巨大で重量もありそうだった。
小さなものだと、数人の子供で担げそうなくらいだ。
かなりサイズには差があった。
「ねえ、クウちゃん、これってなんだろう」
エミリーちゃんが興味深そうにお神輿を指差す。
「これはお神輿って言って、お祭りの時に担いで歩くものなんだよー。神さま――というよりも精霊さまかな? を神殿にお連れする乗り物かなー」
「なら、クウちゃんが乗るんだ?」
「私は乗らないけどねー」
「そかー」
と、これは私ではありませんエミリーちゃんです。
「帝国にはない文化ですね。興味深いです」
ヒオリさんもお神輿は知らないようだった。
「せっかくだし、近くで見てみようか。話も聞いてみたいし」
獣人のヒトたちは慣れた様子だから、多分、獣王国の文化なのだろう。
興味の沸くところだ。
「わたしたち、大丈夫かな……? 本当にバレないかな?」
エミリーちゃんが不安な顔をする。
「平気平気ー」
ちゃんとウサ耳とウサ尻尾はついているしねっ!
「エミリーよ、いざという時には蹴ればよいのである。すでにクウちゃんの対策は万全なのである」
「それはどうかと思うけど……。でも、わかった。行ってみようか。獣人のヒトともお友だちになれたら嬉しいし……」
「某も当然行きます。どこまでも店長のお伴をいたしますよ!」
話はまとまった。
私たちは木立の陰に下りて、透明化の魔法を解いた。
さあ。
ウサギ族として楽しく異文化交流してみよう!
私たちはそろそろと木立の陰から出て、獣人のヒトたちで賑わうお神輿出発前の広場へと足を踏み入れた。




