1167 今年の最後の日
長かった今年が、ついにおわろうとしている。
今日は12月の最終日。
なんと、明日からは新年が始まるのだ。
いやー、うん。
いろいろあったけど、過ぎてしまえばあっという間だよね。
ちなみにそういえば、先日のことになるけど、キオとアンジェは契約しなかった。
キオは帝都での遊びに満足して、そのまま帰っていった。
アンジェからも求めることはなかった。
またご縁あれば、だね。
さあ、ともかく。
今年最後の朝だ。
私は、フラウとヒオリさんと食事を取る。
「店長、今日の昼は新獣王都に行かれるのですよね?」
「うん。そだねー」
「夜はお帰りに?」
「夕方までには帰る予定だよ。町の様子を見てくるだけで、ナオのところには行かないつもりだから」
「では、夕食は何か用意しておきますね」
「うん。お願いー」
「クウちゃん、今日は新獣王都に行くのであるか?」
ヒオリさんと話していると、フラウが聞いてきた。
「そっか。フラウには言ってなかったっけ。今日、新獣王都でお祭りがあるんだけど一緒に見に行く?」
「行くのである。わーいなのである! 妾も久しぶりにクウちゃんとお出かけなのである!」
「そういえば久しぶりだねー」
最近、フラウとは別行動が多かった。
ゆっくりおしゃべりする時間も、あまり取れていなかった。
「あの、店長……。それならば某も……」
「ん? ヒオリさんも行きたいの?」
「はい。できますれば……」
「いいよー」
「ありがとうございます! 某も店長とのお出かけは久しぶりです!」
「あー。そういえばそうかもだねー」
というわけで、3人で行くことになった。
メイドロボのファーについては、さすがにお留守番かな。
待機していてもらおう。
あとは……。
「エミリーちゃんも誘おうか。ふわふわ工房の一員だし」
「で、あるな」
「そうですね。社員旅行ですね」
フラウとヒオリさんは快く賛成してくれた。
朝食の後、早速、誘いに行くことになった。
のだけど……。
出かけようとしたところで、なんと向こうから来た。
オダンさんとエマさんと赤ちゃんも一緒だった。
工房は、今日はお休みなんだけど……。
家族揃って、今年最後の挨拶に来てくれたのだ。
最近、私はお店にいないことが多かったので、わざわざ朝に。
「クウちゃん、今年も本当にありがとな。エミリーも俺たちも、クウちゃんのお陰で元気にやれたよ。フラウちゃんもヒオリちゃんも、エミリーの指導をしてくれて感謝している。ありがとう」
オダンさんが頭を下げてくる。
こちらこそ、バーガー大会や大量注文でお世話になりました。
赤ちゃんも元気に育っているようで何よりです。
来年もよろしくです。
「ところでエミリーちゃん、私たちこれから新獣王国に行くんだけど、よかったら一緒にどう? 実は誘いに行くところだったんだよ」
「新獣王国って……。山脈の向こうの、ずっと遠くの国の?」
「そそ」
「行くっ! わたし、行ってみたい!」
「オダンさん、エマさん、夕方までには帰ってくるのでエミリーちゃんをお借りしてもいいですか?」
2人は快く了承してくれた。
ありがとう!
「では、揃ったね! 日帰りではあるけど、ふわふわ工房、初の社員旅行に出かけるとしますかー!」
「ねえ、クウちゃん」
「ん? どうしたの、エミリーちゃん?」
「ファーは?」
「ファーは待機かなー」
さすがに、メイドロボだし。
「そかー」
と、これは私ではありません。
エミリーちゃんです。
「……どうしたの、エミリーちゃん?」
「うん。あのね。わたし、ファーも工房の仲間かなーって思って。社員旅行なら一緒に行くのはダメかな?」
「んー。そかー」
と、これは私です本家です。
まあ、それはともかく。
私は即答できなかったので、フラウとヒオリさんに聞いてみた。
「妾は構わないのである。ファーはゴーレムではあるが、確かに工房で仕事をしていた仲間なのである」
「そうですね……。面白い試みではあると思います」
「というと?」
「はい。ファーにはこれまで、十分に知識を学習させ、工房の仕事も覚えさせてきましたが、店長が期待する自我形成レベルでの成長は、未だに果たせておりません」
「だねー」
ファーのレベルはそれなりに上がった。
すでに私よりもかしこい。
だけど未だに、ファーは言われたことしかできない子だった。
ゴーレムなのだから、当然かも知れないけど……。
「外での活動が、案外、トリガーになるのかも知れません」
ヒオリさんが言う。
「なるほど」
そういうのは、あるかも知れない。
私は決めた。
「なら、ファーも連れて行こうか。社員旅行だしね」
「やったー!」
エミリーちゃんが飛び跳ねて喜ぶ。
というわけで。
オダンさんとエマさん、それに赤ちゃんに見送られながら――。
私にヒオリさん、フラウにエミリーちゃん、それにファーを連れて、私は転移の魔法を発動させた。
獣人たちの都でのお祭り。
どんなものなのか、ものすごく楽しみだ。




